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魂の器・第3章~3Girls end roll~

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魂の器・第3章~3Girls end roll~
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リアクション

 
 処置室の中では、ライナスの指示を受けて真司とアレーティアが検査機器を取り付けている所だった。コタローも機晶技術と先端テクノロジーを使い、ポーリアに話しかけながら頑張ってサポートをしている。立会いを希望した朱里も、ナーシングを使って彼女の精神的な負担を軽くしようと努めていた。
「ポーリアさん、大丈夫ですぅ?」
 更に、ポーリアの表情を見て、メイベルが枕元で歌を歌い始める。緊張を和らげるような、彼女の心が落ち着くような曲調のものを選ぶ。
 穏やかな歌声が流れる中で、ダリルは作業全体が撮影可能な位置にデジタルビデオカメラを設置していた。それを見て、ルカルカが不思議そうに、だが少し怪訝そうに言う。
「ダリル、そんなものつけてどうするの? どこかに中継でもする気?」
「中継などもっての他だろう」
 返ってきた普通の意見に、ルカルカは意外そうな顔をした。それから笑う。
「うん、そうだよね」
「学術的価値を鑑みて、個人秘匿処理を加えて機晶研究の資料としたいと考えている。見世物にする気はない」
 話す彼と寝台を挟んだ向かい側、ポーリアの肩に近いところではペルディータ・マイナ(ぺるでぃーた・まいな)がSPリチャージをかけていた。
 一方で、ペルディータはメモリープロジェクターで彼女の様子を記録している。差し障りのない範囲を撮影し、子供の誕生を外で待っている皆に見せる為だ。既に2人共、ポーリア本人とライナス達には許可をもらっている。
 朔とスカサハ、ファーシーも処置室に戻り、風祭 隼人(かざまつり・はやと)朝野 未沙(あさの・みさ)朝野 未羅(あさの・みら)朝野 未那(あさの・みな)達等、研究所に居合わせたアーティフィサーとテクノクラート、そして現時点で立会いを希望した面々が集まりつつあった。

 子供が降りてくる間はなるべく楽な姿勢でいた方が良く、ポーリアは一時的に起き上がり、寝台頭側の壁に背を預けるようにして座っていた。全身がしっとりと湿り、濡れた額に髪が張り付いている。
「ママ、この人、とても苦しそう。本当に大丈夫……なの?」
 蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)が彼女を見て、心配そうな目をコトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)に向ける。コトノハは静かに、母性を感じる微笑と共に頷いた。だが、夜魅の不安は消えないようだ。
「……ママもこんな風に苦しむのかな? 何だか怖いよぉ……」
 それを聞いて、コトノハはそっと自分のおなかに手をあてる。彼女にもまた、新しい命が宿っている。生まれてくるまで、あと数ヶ月。
「大丈夫。今は、赤ちゃんも外に出ようと頑張っているの。ちゃんと生まれるから、安心してね」
 ポーリアと、そしてコトノハ自身も大丈夫。何も心配はいらないのだという気持ちをこめて彼女は言った。すると、少し泣きそうな瞳で見つめてきていた夜魅はポーリアに向き直り、リカバリや清浄化をかけはじめた。
「痛いの痛いの飛んでけ〜〜っ!」
 少しでも痛みが和らぐように、と一生懸命だ。
「夜魅ちゃん……、……ありがとう……」
 背中や腰をさする夜魅に、ポーリアは笑みで応える。産婦人科医が近付き、おなかを触って現状の確認を始めた。彼女は、機晶姫も人間と同じと考えているコトノハが、前もって近くの病院から連れてきた医師である。
「何か違和感はありますか?」
「……いえ……」
「現時点では大丈夫だと思いますけど……、技師の方から見るとどうですか?」
 ライナスは、ポーリアに繋げた機械のモニターをチェックする。
「数値の上でも問題無いな。順調だろう」
「ところでぇ、機晶姫の出産ってどうなるのでしょうかぁ? 今回一番疑問なのは、機晶姫に産道があるのかってことですぅ。あったとして、赤ちゃん出てこれるくらい広がるんでしょうかぁ? それとも切開するんですぅ?」
「生殖機能のある機晶姫には産道があるみたいだな。メカニズムは人間と同じだ。だから、自然分娩も可能ってことだな。今回は、自然分娩でやるんだよな? 切開の方が安全ってわけでもないようだし」
 未那の疑問に答えてから、七尾 蒼也(ななお・そうや)は訊ねる。誰にというよりは、産婦人科医やライナス、モーナの3人に対して。彼はポーリア達と出会ってから、特技である情報通信で機晶姫の出産について色々と調べていた。
 生物の出産については分かっているが、機晶姫については、やはり例を知っておきたかった。
 調べ方は、屋上にある電波ポイントを使ったり、一度最寄の都市まで戻ってネカフェに入ってみたりと様々だ。
 この時が来る前に調べておけば、その場で慌てずに済む。
 アーティフィサーとして知識を得たいのももちろんだったが、蒼也が今回動いたのは、妹のように思っているペルディータの将来のためでもあった。これまで彼女を性的に見ることを避けていたが、でも、いつか恋人が出来て出産ということも有り得るのだと気付いた時、放っておけないと思ったのだ。
 彼は、男が出る幕ではない気はするが差し支えのない範囲で手伝いをしたい、と考えていた。
(機晶姫の出産が産院で対応可能なら俺の出る幕ではないが、まだまだ未知数で難しいだろうからな……)
 そう思っていただけに、産婦人科医がこの場に居るというのはありがたかった。また、処置室の隅には彼の持ってきた保育器が置いてある。健康体で生まれてくれば必要の無いものだが、念の為というやつである。輸血用血液も、同様の理由で用意していた。機晶姫も生態機能は基本、人間と同じである。帝王切開になった場合、必要になるかもしれない。ちなみに、こちらは決してフラグではない。ミルクに関しては、母乳も出るらしいので用意してはいなかった。
「自然分娩でいけるだろうね。今のところは問題無いし、機晶姫であっても帝王切開はしないにこしたことないから」
 ポーリアの身体に冷静に気を配りつつ、彼の問いにモーナが答える。彼女の隣では、真司がカルテらしきクリップボードに様々な数値を書き込んでいる。バックアップの意味もあり、アレーティアも自分のノートPCに同数値を打ち込んでいた。
「産まれてくる子は、機晶姫と地球人のハーフなんですか? というか、スバルは地球人なんでしょうか? シャンバラ人とか?」
 コトノハが質問し、蒼也も気になっていたことを訊ねる。これは、調べても判らなかったことだ。
「そうだ。産まれる種族は前から分かるものなのか?」
「スバルは地球人だ。ポーリアとは正式に契約している。ただ、ハーフが生まれることはありえない。どちらの種族になるかは半々といったところか。事前に調べることも可能だが、今回は行っていない。生まれてから知りたいという本人達の希望でな」
 それを聞いて、朱里がライナスに話しかける。
「ハーフ……は、無いんですか? じゃあ、機械的な特徴を有する地球人、というような赤ちゃんは生まれないんですね」
「ああ。必ず、どちらかだ。それは、機晶姫でなくともパラミタのどの種族でも変わらない」
「……そういえば、ソルダさんはルヴィの家系なのに守護天使だったわ。つまり、そういうことだったのね」
 かつて銅板の由来について教えてくれた歴史学者、ソルダ・ラドレクトの事を思い出してファーシーは言う。彼は、今はオトス村でのんびりと暮らしているらしい。
「まあ、その人の場合は間が多すぎるし、どんな組み合わせを得てきたかはちょっと分かんないけど……、つまり、そういうことだね」
 ソルダと直接の面識は無いモーナが言う。その話を聞きながら、コトノハは親友である朱里に目を向ける。今回の件は、朱里達の希望にもなるはずだ。
(子供を授かるのは無理だと思っていたようだし、このことがきっかけになると良いんだけど……)

                            ◇◇

「うう……大丈夫かなあ。無事に生まれればいいけど……」
「落ち着かないみたいだね、スバルさん。お茶でもどう?」
 ポーリアが運ばれて以来、スバルはドアの前をうろうろとしていた。そんな彼に、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が話しかけた。お盆に載ったティーカップから、紅茶の良い香りが漂っている。ここ数日の共同生活で、セシリアは彼のお茶の好みを把握していた。濃さも味も、ちょうどいいはずだ。
「お、お茶、ですか?」
「そうそう、とりあえず座って、深呼吸でもして」
「は、はい……」
 促されるまま、スバルは椅子に座った。勧められた通りに深呼吸している。セシリアがカップを差し出すと、彼はそれをゆっくりと飲み始めた。心配しすぎて上手く行動できそうもないようだし、こうして無事終えるまで待機してもらうのが一番。セシリアはそう考えたのだ。落ち着いて、それからどうしても立ち会いたいというならそれもまた良いだろう。
「お、美味しいです……」
「良かった!」
 でも、スバルの視線は時たまドアに向いていて。彼につられ、セシリアも処置室の様子を想像する。
(生まれてくるのは男の子なのか女の子なのか今から楽しみだよね)
 赤ちゃんが生まれた時のことも思い描き、それから、彼女は室内を見回した。静かに出産を待っていたり何か話し合っていたり。
 彼等にもお茶を用意した方がいいだろう。
(……しばらくは、暇を持て余すだろうしね)
 ということで、セシリアは室内に留まっている皆――エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)チェリー・メーヴィスラス・リージュン(らす・りーじゅん)ピノ・リージュン(ぴの・りーじゅん)を含めた皆にお茶を振る舞い始めた。