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うそ~

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うそ~

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    ★    ★    ★
 
「ほーっほほほほほ。まさか本当にたっゆんクリニックが開けるとは。整胸師の称号は嘘でもなんでもないですのにねえ」
 ニマニマと御満悦の表情を浮かべながら、藍玉 美海(あいだま・みうみ)が突如森の中に出現したクリニックの中で歓喜の声をあげた。
「今でしたら、このわたくしのゴールデンフィンガーにかかれば、どのようなチッパイでもたっゆんにしてさしあげられますわ。ええ、確実ですわ!」
 高らかに、藍玉美海が宣言した。
「もう、ねーさまったら、またそんな妄言を……。はっ、いつもついてる嘘だから、今なら現実になるということなの?」
 溜め息をつきながら事態を見守っていた久世 沙幸(くぜ・さゆき)が、部屋の隅におかれた鳥籠の中の鷽を振り返った。
 樹月 刀真(きづき・とうま)たちと一緒に鷽を捕獲したところまではよかったのだが、捕まえた鷽を囮にして他の鷽まで捕まえようとした矢先にこの始末だ。
「大きく……なる?」
 チラリと玉藻 前(たまもの・まえ)と久世沙幸の方を見てから、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が期待に満ちた目で藍玉美海に訊ねた。
「もちろんですわ。ささ、こちらへ」
 軽く唇を舌で湿らせてから、藍玉美海が漆髪月夜を手招いた。
「さあ、ここに座ってお脱ぎになって。もちろん、地肌でなければ、このわたくしのハンドパワーは伝わりませんのよ」
 だんだん怪しい宗教の勧誘のようになりながら、藍玉美海が漆髪月夜をうながした。
「大丈夫……自分で……出す。んっ」(V)
 一応、男は樹月刀真しかいないのを確認してから、言われるままに漆髪月夜がブラウスを脱ぎだす。
「ちょっと……。刀身はこっちへ来てよね!」
「えっ、なんで?」
「いいからなんだもん」
 何ごともないようにその場に居残り続けようとする樹月刀真を、久世沙幸が建物の外へと引きずり出した。
「いいですか、そこにお座りなさいなんだよ」
 地面に樹月刀真を正座させて、久世沙幸が言った。
「月夜は女の子なんだから、もっと大切に扱わなくちゃダメなんだもん」
「はい」
 樹月刀真を前にして、珍しく久世沙幸のお説教がくどくどと始まった。これは面白いとばかりに、玉藻前が様子を見に来る。その背後では、建物の中から何やら漆髪月夜の艶めかしい声が微かにもれ聞こえてきていた。
「だいたい、いつもいつも光条兵器を取り出すふりをして胸をつかむだなんて、人として……」
「いや、あれは事故で……」
「嘘を言っちゃいけないんだもん!」
「嘘じゃないぞ。こうやって光条兵器を取り出そうとするとだなあ……」
「あん」
「えっ!?」
 背後にむかって手をのばした樹月刀真が、何かをつかんで凍りついた。
「ふふ、やはり月夜の物では物足りないと見えるのう」
「いや、事故だ事故!」
 玉藻前の胸をつかんだまま、樹月刀真が叫んだ。
「やっぱり……」
「違うんだ、これは……おっ!?」
 久世沙幸にジト目で睨まれて、樹月刀真があわてて手を元に戻した。その手に、黒の剣がしっかりと握られている。
「ほ、ほら、光条兵器、光条兵器。俺は、こうやって光条兵器を取り出そうとしてだなあ……」
「なんで我から光条兵器が……。はあ、そうゆうことであるのだな」
 焦って説明する樹月刀真とは対照的に、玉藻前が冷静に納得する。
「だいたい、月夜の光条兵器の位置が微妙すぎるんだよ」
「どこが微妙なんだもん!」
「ええと、みぞおちのちょっと上の、下乳のあたりの……、だいたいこのへん……」
「うにゃあ!!」
 思わず位置を示そうとのばした樹月刀真の手が、久世沙幸の胸をしっかりと握りしめていた。
「事故だあ!!」
「そんなに事故が好きなら、事故直後のような姿にしてあげるんだもん!」
 叫ぶ樹月刀真に、久世沙幸がアサシンソードを取り出して叫んだ。
「ちょっと待て!」
 あわてて樹月刀真が、建物の中に逃げ込んだ。
「ああ、刀真、見てみて」
「こ、こら、月夜!」
 戻ってきた樹月刀真を見て、上半身裸の漆髪月夜が、みごとなたっゆんとなった胸を軽く持ちあげながら近づいてこようとした。ところが、歩く度に左右によろよろとよろけそうになる。
「もしかして、重くて歩けない? いや、今はそれどころじゃ……。そうだ、すべては鷽のせいなんだ。奴さえ倒してしまえば」
 樹月刀真は、さっき玉藻前から取り出した黒の剣を鳥籠の中の鷽にむかって投げつけた。狙い違わず、鷽に命中して鷽空間が消える。
「ああ、刀真! なんてことをする!!」
「逃がさないんだもん!」
 たっゆんが消えてチッパイ+に戻ってしまった漆髪月夜と久世沙幸のダブルパンチが樹月刀真に炸裂した。
 
    ★    ★    ★
 
 イルミンスールの森の中に、もう一軒、鷽によって具現化された家が建っていた。
 その窓からは、中の幸せそうな様子をのぞくことができた。
「嬉しいよ、セイニィ。男の娘かな、女の子かな」
 いや、男の娘はまずいと思うが……。
「もう、気が早いんだから」
 暖炉の前に座ったセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)が、ちょっと頬を染めながらお腹に耳を当てている武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)を軽くつついた。
 ラフラブである。
 暖炉のそばでは、鳥籠に入れられた鷽がにたにたと笑っていた。
「ちょっと待てー!」
「どうした。何か不満でもあるのか?」
 逆さに吊された木の下で左右にブラブラとゆれるほど暴れながら叫ぶ武神牙竜に、武神 雅(たけがみ・みやび)が聞き返した。
「あそこにいるのは俺のはずだ。なのに、なぜ俺があそこにいる!!」
「何か問題でも?」
「大ありだろうが。替われ、俺と替われ!!」
 激しく暴れながら、武神牙竜が叫んだ。
「幸せそうでいいではないか」
「だから、あそこは、この俺のポジションだ!」
「あそこにいるのは武神牙竜なのだからいいではないか。いったい何の不満があるのだ、愚弟よ」
「だから、セイニィをツンツンするのはこの俺であって、あの俺は偽物だ。俺じゃない」
「ふっ、語るに落ちたとはこのことだな。自分が、ラブラブになっているのだからいいではないか」
「だから、あれは俺であって俺ではないと何度言ったら……」
「自分の幸せさえも素直に喜べないとは、見下げた奴なのだよ」
「うがあ、解けえ!」
 はっきり言って、まったく話がかみ合わない。
 事実、眼前で繰り広げられているのは、武神牙竜の妄想その物、理想と言ってもいい世界であった。ただ一つ違うのは、自分がその世界にいるのではなく、ただながめているだけだということだ。はっきり言って、蛇の生殺し以上である。
「分かった。貴様が二人いるからいけないのだな」
「やっと分かってくれたか。だったら、早くこの縄を解いてくれ!」
 これでセイニィ・アルギエバの所へ行けると、武神牙竜が喜んだ。あの場所に行ったら、真っ先に自分自身を亡き者にして……。
「まったく、これだからエロゲ世代の男という物は困る。ハーレムエンドしか望まぬのだからな。分かった分かった。ヒロインは最低十二人ほしいのであるな。十二星華全部とフラグを立てたいのか?」
「俺が求めているのはセイニィだけだ。勘違いするな。たっゆんなんかいるか。チッパイ最高!」
「愚弟よ、今、貴様はパラミタ中のたっゆんを敵に回したのだぞ。もちろん、その中にはこの私も含まれるのだ」
 これ見よがしに自分のたっゆんを武神牙竜の顔に近づけて武神雅が言った。
「そんなに、セイニィがいいのであれば十人でも百人でも相手をしてやればよいではないか。まったく。本当ならば、パラミタの女はすべて俺の嫁と宣言するくらいの気概を見せてほしいものだがな」
 そう武神雅が言ったときだった。
「全女性は俺の嫁!! ハーレムじゃあ!!」
 そんな叫びと共に、怒濤の地響きのような足音が近づいてきた。
「きゃあ、正悟さ〜ん」
「ダーリン!」
「如月さん愛してるー」
「わっしょいわっしょい!」
 黄色い叫び声と共に、怒濤のように押し寄せてくる大勢の女性たちが、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)を担ぎあげている。ほとんど神輿というか胴上げというか、女性たちの絨毯の上で、ポーンポーンと如月正悟がはずんでいるような状態だ。
「ははははは、天国じゃあ〜」
 歓喜にむせぶ如月正悟であったが、まさか自分がどこにむかっているのかなどということは知りもしなかった。
「ちょっと待て、止まれ、止まれ!」
「これは、さすがにまずいかな……」
 あっけにとられた武神姉弟が、あっけなく女の子たちに踏みつぶされた。そのまま進んだ女性群は偽の武神牙竜とセイニィ・アルギエバがラブラブしている小屋の中までなだれ込み、そこにいた鷽を踏みつぶした。
 静けさが訪れる。
 寒風吹きすさぶ荒野には、たくさんの足跡と、気絶して踏まれた三人の男女だけが残されていた。