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リアクション
☆
それは、美しい光景だった。
巨大な光の柱の中に3人の人影が見える。
琳 鳳明。
水心子 緋雨。
小鳥遊 美羽。
いずれも女神イナンナとして今まで封印されていた女神である。
ヴァル・ゴライオンの言葉通り、全てのネルガルが倒された今、彼女らは復活したのである。
「――行きましょう」
「……ええ」
女神たちは互いに頷き合うと、まばゆいばかりの光を纏い、大きな塊となって大魔王セラと対峙する勇士たちの元へと一瞬で飛来した。
「――おお!!」
「もう、この国で勝手はさせませんよ……!!」
と、鳳明イナンナは告げた。
だが、その一言を一笑に付す大魔王セラ。
「ふんっ!!
女神が復活したからなんだってんだよっ!!
こっちにはまだ生き返ったネルガル達と四天王の遙遠がいるんだぞ!!
まずはセラのバリアーを破って遙遠を倒してから偉そうな口を叩くがいいぞ!!」
「――」
鳳明イナンナは、静かな目線で遙遠を見た。
大魔王セラの魔力で守られた遙遠は、余裕の表情を見せる。
「……ふふ……確かに、このバリアーは生半可な力で破れませんよ。いくら女神でもねぇ」
だが。
そのバリアーの前で一礼した鳳明イナンナは、腰を低く構えた姿勢から、大きく右手を振り下ろした!!
「――え?」
それは一瞬の出来事だった。
振り下ろされた右手が大魔王セラの張ったバリアーを一撃で破り、続いて繰り出された左の掌底が遙遠の顔面にヒットする!!
「っぶっ!!」
あまりのスピードに反応することもできない遙遠。次の瞬間には鳳明イナンナの右の掌底が遙遠の胸元に食い込んでいた。
「――ぐ、はあああぁぁぁっ!!!」
大抵の人間は、その速さに反応することもできない。
気付いたら遙遠を覆っていたバリアーは破壊され、その中にいたよう縁が絶命していた。
「――ふっ!!」
と、鳳明イナンナは気合を解放する。女神イナンナが八極拳の使い手だという話は聞いたこともないが、気にしてはいけない。
ついに全ての四天王を倒されてしまった大魔王セラ。台座から立ち上がり、両手を広げた。
「ふっふっふ……いいだろう……!!
約束どおり、相手をしてあげようじゃないか!!
この闇の化身たる大魔王直々に!!!」
しかし、その前に緋雨イナンナは宣言した。
「それならば……こちらも全力であたらせてもらうわ……そう、持てる限りの光の力で!!」
突如、3人の女神からまばゆい光が発せられ、戦場に散って救助活動などをしていた全てのイナンナ役の少女が集められた。
「お、おお!?」
光イナンナも。
「わー、なんかみんな揃ってるー!」
魔法少女イナンナも。
「お? これは面白くなってきたぞ!!」
カメリア・イナンナも。
「そろそろクライマックスというやつじゃな!!」
ヒラニィ・イナンナも。
「ふむ、そろそろわしらの出番か」
麻羅イナンナも。
「はーっはっは、いよいよボクの見せ場だなーっ!!」
バルカ・イナンナも。
そこに、緋雨イナンナと鳳明イナンナ、そして美羽イナンナが加わる。
「俺らも忘れてもらっちゃ困るぜ!!」
さらにイナホワイトが加わり。
「そう――そして見ろ!! 蘇ったセフィロトの力が、新しい戦士を生み出す!!!」
イナブラックが叫ぶと、空中に集まった光の塊が、人間の形を作った。
それは、小冊子 十二星華プロファイル(しょうさっし・じゅうにせいかぷろふぁいる)だった。
「――今こそ目覚めました――私は、世界樹セフィロトの加護を受けし第3の戦士、シャイニーイナンナ!!!」
集まった十二人のイナンナは、一斉に声を上げた。
「さあ、覚悟しろ大魔王――俺が、私たちが、我々が――」
「カナン王国の女神、イナンナだあああぁぁぁっっっ!!!」
☆
「あれ、イナンナ役、一人忘れてない?」
と、ユーリエンテ――魔法少女イナンナは呟いた。
あの人たちの物語はもう終わっちゃったからいいんです。
☆
「さあ――全てを終わらせましょう――人々が、ネルガルが愛したこの国を、みんなの力で守るために――」
美羽イナンナの呼びかけに、その場の全員が祈った。
いや、その場の全員だけではない。
カナン王国、全国民が祈った。
イナンナの力によって国民ひとりひとりの心にこの戦いの様子は知らされていた。
今、国民の力がひとつになる時が来たのだ。
「イナンナ様……この国に光を……」
そんな中、民衆の中でコハク・ソーロッドは祈った。
虐げられた日々は全てこのためにあったのだと。今この瞬間のために苦しい日々を生き抜いてきたのだと、涙を流しながら。
「お、おのれぇぇぇっっっ!!!」
大魔王セラは、従者のルイ・フリードと共にイナンナ達に向かって強力な魔法を放とうとした。
だが、国中から溢れ出した光の力の前にそれもかき消されていく。
「あああぁぁぁ……闇の力があああぁぁぁ……」
「行くぞ、みんな!!!」
イナホワイトは叫んだ。
「はい!!」
それに応じたシャイニーイナンナは、必殺技の構えを取る。
「さあ行こう、みんな!! 力を合わせるんだ!!!」
イナブラックの呼び声に、全てのイナンナが力を合わせる。
『セフィロト・エクストリーム!!!』
「うわあああぁぁぁ……!! やーらーれーたー!!!」
と、ルイ・フリードと共に吹き飛び、大魔王セラは光の彼方へと消えて行った。
「……終わった……のか?」
と、光イナンナは呟いた。
「はい……全ての闇の力が消え去り……この国には光が戻った……」
緋雨イナンナが告げた。だが、この場の誰もが手放しに喜ぶわけにはいかない。
未来と引き換えに彼らが失ってきたものは、もはや取り戻せないほど大きなものだったのだ。
☆
戦場の跡地……まだ空中戦艦の残骸が煙を吹いている中、冬月 学人は晴れた空を見渡していた。
ネルガル軍の尉官として、部下を守るため命を落とした戦友、九条・ジェライザ・ローズの顔が青空に浮かぶ。
学人は、悲しんでも戻らない友のため、滂沱の涙を流した。
「馬鹿野郎……無茶しやがって……」
「いや、あいつは死んだんじゃない……あいつは俺たちの胸の中に生き続けるんだ……永遠にな……」
「ああ……そうだな……ってお前生きてんじゃねーか!!」
「あ、なんか助かったみたいなんだよね、はっはっは」
その場に膝を突いて脱力する学人をよそに、ローズは笑った。
☆
小鳥遊 美羽は魔法のアイドル、マジカルイナンナである。
彼女は、傷ついた人々を元気づけるため、歌を歌った。
戦火に苦しみ、虐げられてきた民は、少しずつ元気を取り戻して行った。
少しずつ、少しずつ。
明日を生きるために。
そのための歌が神殿で歌われる『私はマジカル☆ビーナス』で良かったのか、という話もあるが、それはまた別の話である。
そのコンサートの様子を、メキシカンな衣装を着たやたら目立つ背景、橘 恭司と半ケツ サボテンは暖かく見守っていた。