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七つの海を越えて ~キャプテン・ロアは君だ~

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七つの海を越えて ~キャプテン・ロアは君だ~

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第2章(3)
 
 
 『アークライト号航海日誌 2日目』
 
 昨日は海で遊ぶ事が出来てとても楽しかったです。
 皆で作ったカレーも好評で、大分この事態を楽しめる人が増えてきたと思います。
 今日は何かがあると思われる島を目指してひたすら航海です。
 一つ目の海を越える為の鍵が無事に見つかるといいのですけれど。
 
 ところで、昨日から雪乃ちゃん達何人かから視線を感じますが、どうしたんでしょう?
 私、何かしましたか?
 
 ――アークライト号船員 火村 加夜(ひむら・かや)――
 
 
 
 
「困りましたね……ここはどこなんでしょうか」
 ワイルドペガサスに跨った少女がつぶやく。彼女の目に映るのはどこまでも広がる大海原。そして少女の話し相手は――自らが装着している魔鎧 『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー)
「羅針盤無しで海を越えようとしたのは失敗でしたね。気付いた時点で引き返すべきでした」
「既に後の祭ですけどね。あの時元の場所に――元?」
「どうしました?」
「いえ……仮に引き返すとして……私達はどこから来たんでしょう?」
「何を言ってるのですか。当然――む? おかしいですね……どこかから来たという記憶はあるのに、それがどこだか思い出せません」
「えぇ、私もそんな感じです。私達は……そう、この世界を巡るトレジャーハンター……そのはずですが」
「そうですね。確かにそれで合っているはずです。ですが何でしょうな、ある時期より前の記憶が漠然としている気がします」
「とりあえず今は――おや」
 大海原だけかと思っていた少女の視界に、三隻の船の姿が見えた。自分達の先の方を横切るように進んでいる。
「助かりましたね。この子も疲れてきていますし、あの船で少し休ませて貰いましょう」
 少女が手綱を操り、ペガサスの高度を下げる。そして獅子の名を冠する船へと高度を下げていった。
 
「ブラッドちゃん〜、他の二隻から遅れちゃってるよ〜」
 ヘイダル号のキャプテンである花琳・アーティフ・アル・ムンタキム(かりんあーてぃふ・あるむんたきむ)が不満の声を上げる。言われた張本人であるブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)は甲板上をあっちへこっちへと忙しなく動き回っていた。
「確かに雑務は任せろって言ったけどさ……多すぎだろ!」
 カリンは他の三人の担当から漏れた部分を埋めるようにサポートに回っていたのだが、小人達を使ってもまだ大変な状態が続いている。
 この辺は人数が段違いなアークライト号は当然として、小人以外の人員が三人であっても本職が混ざっているクイーン・アンズ・リベンジの方が有利に働いていた。
「とりあえずアークライト号に追いつかないと……ん? 朔ッチ、何か来るぜ! 三時の方向!」
「ペガサスか、誰が乗っているのか……って、美央!?」
 驚きの表情を浮かべる鬼崎 朔(きざき・さく)の前にペガサスの少女、赤羽 美央(あかばね・みお)が降り立った。
「申し訳ありません。こちらで少し休ませて頂いても宜しいでしょうか?」
「美央、貴方も来ていたんですね。合流出来て良かった」
「? 貴方がた、私を知っているのですか?」
「は?」
 思わずぽかんとする朔。それに対し、美央はいつもの無表情だった。
 
「――それで、結局彼女は現実での事を覚えていないんだな?」
『えぇ。私達の事も、どこかで会った事がある程度の認識ですね。とりあえずこちらの事情は説明して、一緒にヘイダル号に乗って貰う事にはなりましたが』
「それにしても、自身をトレジャーハンターと認識している、か。もしかしたら他にも何かしらの登場人物として巻き込まれている人達もいるかもしれないな」
『その可能性は高いでしょう。ともかく透矢、目的地への探索はアークライト号にお任せします』
「分かった。今からまた何人かが小型飛空艇で飛ぶ所だ。その間は速度を落とす形になるからついて来てくれ、朔」
 透矢がヘイダル号との通信を終了する。その後ろでは甲板に準備された小型飛空艇に乗り込み、次々と飛び立って行く姿があった。
 
「見えたぜ、某! あの島じゃないか?」
 匿名 某(とくな・なにがし)の操縦する小型飛空艇に乗った大谷地 康之(おおやち・やすゆき)が遠くの島を視界に捉える。昨日海図を利用して目星をつけた位置だ。
「そうだな。あそこの可能性は高いだろう……しかし康之、随分元気が良いな。寝不足じゃ無かったのか?」
「そんなもん、こうやって冒険してたらへっちゃらだって。それに、昨日は凄く楽しかったからな!」
 康之を始めとする『キャプテン・ロアの航海』を読んだ事のある何人かは昨日の夜、船室の一つに集まって遅くまで小説の内容について語り合っていた。どの章が好きか、どんなシーンが一番印象に残っているか等、話は長い間盛り上がりを見せていた。
「フフ……俺としても実に有意義な時間を過ごせたよ。今度機会があったら、原作ではなく『キャプテン・ロアの航海』の方も読んでみたいね」
 ヘリファルテに乗って併走しているアンヴェリュグ・ジオナイトロジェ(あんう゛ぇりゅぐ・じおないとろじぇ)が充実した表情を浮かべている。彼の読んだ原作と他の者達が読んだ日本語版では細かい所に違いが見られた為、そういった部分についても熱く語り合った一夜だった。
「さて、俺達を待ち受ける物は何か。それを確かめに行くとしようか」
 冴弥 永夜(さえわたり・とおや)がペガサスに手綱を通して指示を出す。それに続き、他の者達も高度を落として島へと着陸して行った。
 
「おったかっら、おったかっら、どっこっかな〜っと」
 トレジャーセンスを駆使しながらトーマ・サイオン(とーま・さいおん)が木の生い茂る島を探索する。トーマ以外にもトレジャーセンスを使える者が別の場所に降りた為、包囲を狭める形で調べる事が可能だった。
「お、トーマ! お宝は見つかったか?」
 木々の向こう、反対側から康之と某の姿が見えた。左手の方からは永夜とアンヴェリュグも近づいてきている。
「って事はこの辺のどっかか〜。オイラの勘だと……この辺かな?」
 トーマが一番予感のする辺りを調べる。すると木の一つに天然の空洞が出来ているのを見つけた。試しに手を入れてみると、石か何か硬い物の手触りがある。
「ほぅ、随分綺麗な宝石だな。台座もついているし、むしろ宝玉と言った方がしっくり来るか」
 トーマの取り出した物を永夜が冷静に分析する。緑色に透き通ったオーブのような物と、それを支える台座の部分。確かに宝玉としてどこかに飾られていてもおかしくは無かった。
「凄ぇな! いかにもお宝って感じだぜ! ……でも、こいつがどう鍵になるんだ?」
 手渡された宝玉をしげしげと眺める康之。すると康之の疑問に答えるかのように、宝玉から光が飛び出した。
「な、何だ!?」
 光は島の外へと一直線に向かっている。それを追いかけて林を抜けた一行が見た物は、光が洋上を切り裂き、別の海を見せている姿だった。
「なるほど……ああやって次の海への道を作る訳だね。確かにこれは、海を越える為の『鍵』だ」
「アンヴェルの言う通りだな。こうやって宝玉を探して行き、最後の海を越える事が出来れば無事に現実世界へと戻れるという事か」
「その可能性は高いな。よし、康之。急いで飛空艇まで戻るぞ。アークライト号の奴らにもこの事を伝えないとな」
「おう! それじゃ皆、行こうぜ!」
 
 
「どうやらこのまま進んでいけば次の海へと辿り付くようだな」
「えぇ。まずは一つ目、ですね」
 アークライト号を操舵するヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)の視線の先に世界の切れ目が見える。隣に立つ御凪 真人(みなぎ・まこと)は切れ目の先に広がる次なる海へと意識を向けていた。
「それにしても、ザクソン教授が調べていたマジックアイテムの発動条件は何だったんでしょうね。透矢さんの話では教授に小説を渡して帰ろうとしたら光に巻き込まれたとの事ですが、本なら研究室に沢山ありそうな物ですけどね」
「さて、どうだろうな。たまたまなのか、小説が持つ『何か』があったのか……その答えも気になる所だが、今の俺達に出来る事は――」
「この航海を無事に終える事、ですね」
 真人の言葉にヴァルが頷く。海の境目はすぐそこまで迫っていた。近くに立つルカフォルク・ラフィンシュレ(るかふぉるく・らふぃんしゅれ)の持つ宝玉が一際強い光を放つ。
「こんな綺麗な宝玉を探す旅なんて、ワクワクしちゃうわね。さぁ、次の海に突入よ!」
「おう! アークライト号、全速前進!」