イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

イコン最終改造計画

リアクション公開中!

イコン最終改造計画

リアクション

 知恵子のアピールが終了したその数分後、どこからともなく奇妙な「足音」が聞こえてきた。
 巨大ロボットが地面を踏みしめるそれとは違い、どちらかといえばエネルギー力場が接触するような合成音と共に、青を基調としたカラーリング、上半身と上腕が細く、なぜか下半身と肘から先が非常にゴツいイコンが荒野を歩いてきていた。
「例えばシャンバラに『廃棄された地下魔列車跡』なんてものがあったら、移動や登場にも困らないのに……」
 足音を響かせながら、そのイコンのパイロットがぼやく。
 そのイコン、【センチネル(機体コード:RIT001A)】にカスタマイズを施した【パラデウス ビッグロー】に乗ってやってきたのは、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)であった。
「待たせたな! ちょっと飛び入りっぽいような気がするが、俺も品評会に混ぜてもらおう!」
 ビッグローをその場で止め、コクピットから出てきたネクタイスーツ姿のエヴァルト――イコンに乗り込む際には主にパイロットスーツを着るものだが、エヴァルトはこのビッグローに乗るときに限りなぜかネクタイスーツをパイロットスーツ代わりに着ているという――が朗々と言い放つ。
「武装が多いというだけならよくある話……。だが俺のビッグローは、それら全てを『内蔵式』にしているのだ!」
 エヴァルトの主張通り、ビッグローの見た目からは武装らしき武装が見当たらない。一見すれば、ビッグローの武装はその大型の拳から繰り出されるパンチのみと思われがちだが、実は他に、ミサイルポッドやバズーカ、レーザーライフルまで仕込まれているというのだ。
「バランス云々というツッコミも出てくるだろうが、そんなものはもう頭のネジと一緒にポイ捨ててやった。……なぜかって?」
 そこでエヴァルトは一旦言葉を切り、そして今まで以上の大声で叫んだ。
「スーパーロボットと言えば、基本は内蔵式だろう! イコンはリアル系? 知ィったこォとかァァァ!!」
 イーグリットやコームラントが持つような武装は、ロボットの手――マニピュレーターで掴んで扱うものが多く、エヴァルトとしてはそこが不満の種だったのだ。彼にとってロボットの武装とは、例えば装甲パネルが開いてのミサイル攻撃、例えばロケットパンチ、例えば装甲の中に隠されたマシンガンによる掃射といったものであり、ビームサーベルなど邪道なのである。とはいえ、手に武器を持つロボットと武装内蔵式のロボットはアニメの世界としてはほぼ同時期に誕生していたわけなのだが……。
「まあそんな個人的な好みの主張はどうでもいい! アピールがてら、少しばかりこの場で性能チェックをさせてもらおう!」
 そしてコクピットパネルが口を開き、叫びながらエヴァルトは乗り込んだ。
「ビッグロー、ショータイム!」
 パネルが閉じ、パイロットをその中に完全に収納すると、ビッグローは本格的な機動準備に入る。
「ねえエヴァルト、本当にこれ、大丈夫なのかな……?」
 ビッグローのサブパイロットを務めるロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が不安そうに声を震わせる。
「大丈夫って、何が?」
「だってそうじゃない。武装は全部内蔵式だなんて、よくもまあこんなにゴテゴテ組み込んじゃってさ」
 火器管制を担当する彼女としては、ビッグローの砲撃が暴発、あるいは火器それ自体が爆発しやしないかと常に不安なのだ。仮にも内蔵している武器が表に出てこず、そのまま中で発射されでもしたらたまったものではない。
「そんなものを怖がっていては何もできない。勇気をもって、奇跡を必然に変える者……、それが勇者だ、俺たちだ!」
「説得力があるのか無いのかわかんないよそんなの!」
「というかそれ以前に、実際にやってみないことにはどうにもならないだろう。だからこその性能確認というやつだ!」
 1人で無駄に気合を入れ、エヴァルトは左右についたレバーを握り締め、足元のペダルを踏みしめる。
「というわけでいつも通り火器管制は頼むぞ! ビッグロー、アクション!」
「あーもー、どうにでもなれだよ、ホントにもう!」
 ディバイディングラインと名付けられたレーザーがカメラアイの付近から発射され、キャノン・フェスタと呼ばれるバズーカ砲が胸の部分から火を噴き、ミサイル・フェスタ――文字通りのミサイルが腹部から吐き出される。狙いは全て虚空であり、これらの攻撃の被害を被った者は誰もいなかった。
「そういえばロートラウト、おまえ今日は外に出ないんだな」
「そりゃそうでしょ。ビッグローの外装って、ボクの装甲に似せて作られたんでしょ? だったらボクが出て行ったらマトリョーシカ呼ばわりされちゃうじゃない」
 嬉しいような恥ずかしいような、いささか微妙な気分のまま、ロートラウトはサブパイロット操作に専念した。

「なるほどな、内蔵式ってのは面白いかもしれないな!」
「う〜ん、私としては表に見えてるのもいいと思うんだけどね〜」
「まあその辺はパイロットのこだわりってヤツなんだろうよ。俺はそんなこだわりを持つ奴ってのは好きだぜ?」
「こだわりかどうかはまあいいんだが、ただちょっと、ネタに走りすぎてて、そこが大丈夫かどうか……」
 パラデウス・ビッグローのパフォーマンスに歓喜の声を挙げる和希と要とは対照的に、アレックスは冷や汗をかくばかりであった。