イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

ザナドゥの方から来ました

リアクション公開中!

ザナドゥの方から来ました

リアクション




第3章


「――ここが混浴の通路でござるな」


 いいえ違います。『混沌』の通路です。


 のっけからザナドゥ時空の影響下にあるのが椿 薫(つばき・かおる)である。
 何をどう勘違いしたのか、混沌の通路を混浴の通路と思い込み、いつでも風呂に入れるように薄着の状態で混沌の通路に侵入したのだ。

 混浴と言えば風呂。
 地下通路にお風呂があるのだからきっと温泉に違いない。
 もちろん、片手には入浴セットだ。

 と、通路に入ったところでそこは一見すると天然の洞窟のような岩肌の通路である。
 足元もゴツゴツと歩きにくく、ちょっとそこまでひとっ風呂引っ掛けに来るような格好で来るところではない、ということは一目瞭然だ。


「なるほど……天然岩風呂……」


 だが、ザナドゥ時空にすっかりやられた薫の瞳にはもう混浴温泉しか映っていない。
「ふむ……この通路のどこかに混浴温泉が隠されているのでござるな……」
 今の薫にとっては、恐怖の地下通路が温泉を探すためのアトラクションでしかないのかもしれない。

「ならば、この通路を調べ尽くして混浴温泉への道を開いてみせるでござるぅ~!!」
 と、勇んで混沌の通路へと走り出す薫。丁寧に勘が働く箇所を調べ始めていくと、次々にトラップを発見していった。
 そこに仕掛けられていたトラップはいずれも鋭利な刃が飛び出してくる危険なトラップで、特に薄着の薫が引っかかれば命の危険もありうるほどのものだった。
「ふむ……混浴温泉への道は険しいでござるな……ん、この辺り……ドキっとするものを感じるでござる……」

 と、また温泉への道と勘違いしてトラップを感知していく薫。
 気付くと、かなり洞窟の奥へと入りこんでしまったようだ。
 そこに、女性が二人現れて、声をかけた。

 緋柱 透乃(ひばしら・とうの)緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)である。
 脅威の勘の良さで次々にトラップを感知する薫に対して、透乃は不満げな声を上げた。
「ちょっと! あんまりトラップを荒らさないでくれない!?」
 薫は声をかけてきた透乃と陽子に視線を移し、聞き返した。
「……トラップ? これのことでござるか?」
 確かに、放っておくのも危険なので、薫は見つけたトラップを可能な限りで作動させて無力化していた。
「そう! あんまり無効化されると困っちゃうんだよね」
 じり、と一歩前に踏み出る透乃。薫は、のほほんと返答した。
「そうでござるか……しかし拙者、ここに隠された混浴温泉へと続く道を探しているでござるから……」

「何ソレ」
 きょとんとし顔の透乃。薫は当然の疑問を口にすることになる。
「え……ここは混浴の通路でござろう?」

 それを聞いて透乃と陽子はさすがに顔を見合わせた。なるほど、敵の罠が待ち受けているはずの通路に、薫が異常とも言える薄着でやってきている理由も納得がいく。
「あのねぇ……」
 透乃がとりあえず薫の誤解を解こうとしたとき。

「――透乃ちゃん!!」
 陽子の声が響いた。
 通路の奥から、何かが透乃に向かって飛来したのだ。
「来たね!!」
 この場で勘違いを起しているのは薫だけ。当然ながら、ここは敵の陣地であり、陽子も透乃も常に警戒を怠ってはいない。
 そうでなかったら、今飛んできた刃物によって首をはねられていただろう。
「うわっ! 何でござるか!?」
 慌てた薫が飛び上がると、透乃のいたところ、ちょうど頭があった壁に特殊な形をした投げナイフが突き刺さる。
 そのナイフは、持ち手の先が三叉に別れ、それぞれがくの字に折れ曲がった形をしていた。真上から見ると、卍のマークのようにも見える。

「ふふふ……ここのボスのお出ましのようだね……」

 その特殊な形状をしたナイフ――アフリカ式投げナイフ――を通路の奥から投げたのは、『魔族6人衆』の一人、バーサーカー ギギであった。
 この通路には、配下の魔物が存在しない。
 全ての生命を殺戮する使命を帯びているギギは、放っておくと敵も味方も関係なく殺戮しようとするので、部下という存在を持つことができないのだ。
 それゆえ、Dトゥルーによって普段はこの通路内に『封印』されているのである。

「ヒャッハアアアァァァ―――ッ!!!」

 ツンツンと尖った頭髪は逆立って天を尽き、まるで地獄の釜のように大きく開いた赤い口からは鋭い牙が覗いている。
 通常の人間であれば二つの眼があるべきところには、中央に一つの大きく丸い眼があり、異形の姿を晒した怪物は、手にした巨大な斧と盾を振りかざしている。
 その手にもった斧は、信じ難いことに『ハイアンドマイティ』並みの巨大さを持っていた。それを片手で振り回そうというのだから、この化け物がいかに凶悪で、かつ強大な力を持っているか判ろうというものだ。
 手にした盾も『ラスターエスクード』並みの巨大さを持ち、かなりの防御力が見込まれる。

 だが、その敵を前にして、緋柱 透乃はニヤリと笑った。
「いいねぇ……これくらいじゃなくっちゃ、殺り甲斐がないってもんだもん!! いくよ、陽子ちゃん!!」
 透乃の目的はここにあった。
 何の遠慮もかく殺し合える相手。戦闘狂である透乃にとって、これほどふさわしい相手はいなかったのだ。
「はい、いつでもいいですよ、透乃ちゃん」
 陽子もまた、その透乃の望みをかなえるべく、戦闘準備をする。
 ここに、戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。


「――このような妨害まで現れるとは、混浴温泉への道はまことに遠いものでござるなぁ……」


 ただ一人、薫を置いてけぼりにして。


                              ☆