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リアクション
●その氷ってどうやってるの?
「ねぇねぇ」
氷精の近くに座っていたナカヤノフウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)が唐突に氷精を呼んだ。
ふわふわとどこか雪のようなウィキチェリカは話し方もぽわぽわしている。
「あたし、氷精さんの氷のことをずっと考えてたんだけどねー」
「……ふむ? わたしの氷?」
「うん、そー。どうして頭痛が起こらないのかなぁって。それで一晩ずっと考えて実験もしてみたんだよね」
「中々難しいことを考えていたのだな」
氷精は感心したようにウィキチェリカを見た。
「同じ氷結属性の精霊だからね、気になって!」
「チーシャは幼いながらも氷雪の精霊ですわ」
リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)はウィキチェリカの紹介をした。
「ほう。それでわたしの氷のことが聞きたいと」
「うん、そうなの。カキ氷屋さんが言うには頭痛とかしないって言うんだけど、氷菓子を食べるとその冷たさで喉を刺激をして、その刺激に脳が混乱して頭痛が起こるってのが学術的には言われてるんだよね」
ウィキチェリカはどこかの医学的知識に基づいているのであろう知識を披露する。
「……そうなのか? そもそも氷を食べるという行為がわたしには理解できぬのだよな」
「そうなの?」
「わたしはここから基本的に出歩かぬし、そういう話はあのカキ氷屋が始めてだったから興味本位で氷を渡してみたのだよ。大抵の人間は理由も言わずに氷を奪いに来るからな」
ウィキチェリカが驚いたように目を見開いて氷精を見る。
氷精はバツの悪そうな表情でウィキチェリカを見つめた。
「チーシャの実験は無駄だったのですか?」
リリィが氷精に聞く。
「いや、その話は実に興味深い。続きは是非聞いてみたい」
「それはよかったですわ」
リリィはふうっと安堵の吐息を漏らした。
「それじゃあ続けるね。頭痛がしないカキ氷を作るって実験をしてみたんだ! 時間をかけてじっくり凍らせた氷は硬く溶けにくいらしいんだ」
ウィキチェリカの言っていることは、俗に言う純氷と呼ばれる不純物や気泡を内包しない氷のことだ。
これは透明度も高ければ、とても硬い。
「カルキを飛ばしてそんな感じで氷を作ってみたんだけど、なんか違ったみたいなんだー……」
「そうなのか?」
しょんぼりと肩を落としているウィキチェリカ。
氷精の疑問に答えたのはリリィだった。
「氷の味見をさせていただきましたが、普通に美味しかったですよ。冷たくて。本当にカキ氷ーって感じのカキ氷でしたわ」
つまり、普通の、何の変哲も無いカキ氷だったとリリィは言った。
それを聞きさらにしょんぼりと肩を落とす、ウィキチェリカ。
フォローのつもりで言ったリリィの言葉はウィキチェリカに取ってのとどめの一撃だったようだ。
「ふむ……わたしの氷なあ……」
氷精は自分の指先を見つめた。
「チーシャよ。この部屋もこのテーブルも皆が座る椅子も、わたしが用意したものだが、適当に氷で用意したこれらは、チーシャの目指している氷とは違うよな?」
ウィキチェリカの名前を呼び、テーブルや椅子、部屋の壁などを指差しながら氷精は言う。
「うん、ちがう。あたしがやろうとした氷は白くなくて、透明なやつだもん」
「ふむ……ああ、そういうことか!」
氷精に何か思い当たる節があったようだ。
「カキ氷屋に氷を持たせてやったときに、なぜあそこまで驚いていた理由がよくわかった。つまりこういうことだな!」
そういって、氷精は指先に氷を作り出していく。
そこに出来上がるのはまるで水晶のようなサイコロサイズの立方体の氷だった。
「わっ、すごい!」
ウィキチェリカが驚いたいてその氷を見つめる。
「適当にあしらえたものだと大気中の不純物が混じる。しかしわたし自ら意識し、生み出す氷には不純物がない、そういう事だったのか」
やっと長年の謎が解けたといわんばかりに、氷精は納得顔だ。
ウィキチェリカもその氷を手にとり、氷を眺める。
それは水の分子だけが固まって出来た不純物の一切入っていない純粋な氷だった。
「これ、もらってもいい?」
氷を見ながら、ウィキチェリカは氷精に聞いた。
「希少だとかなんだとか、よく言われて狙われるがわたしは話を聞かせてくれれば、礼はきちんと出すよ。だからそれはもらっていっていい」
氷精は憮然と言い放つ。それほどまでに礼儀しらずの人間が多いということだろう。
「ありがとう! 持って帰って研究してみようっと!」
ウィキチェリカはそういって、嬉しそうに氷を眺め続けるのだった。
しかし、ウィキチェリカは氷精から氷をもらえたことで、なぜ熱に関する病気の治療や予防が出来るのかを聞くことを忘れていたのだった。
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