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リアクション
「さすが、お強いですねぇ!」
縦横無尽に刀を振り回すカイを、鞭のようにうごめく異様な剣でいなしながら、エッツェルが高く笑う。
「ちっ、妙な技ばかり使いやがって!」
剣術ではカイに分があるが、エッツェルの纏う異様な気が動きを鈍らせ、続けているのだ。じわじわと押されていることを、カイは自覚していた。
「勝負は体格差じゃ決まらないのよ!」
低空飛行で右に左に、レッドの銃撃をかわしながら渚が叫ぶ。だが、重量ではこれほどまでに差があるのに、速度では、ふたりの間にほとんど差がない。近づいて精密な一撃を放ち、仮面を破壊するしか手はないだろう。
「ククク……ク、楽しいです……!」
ネームレスが演舞のように、巨大な斧を振り回す。さらには、彼のからだから獣の形をしたモノが生まれ、飛びかかってくる。その足はほとんどその場から動いていない。むしろ、彼の周りを飛び回っているのはルナのほうだ。
「卑怯な技を……!」
攻撃をかわすことはできる。だが、ルナのほうからもしかけることができない状態だ。迫る獣を剣で薙ぎ払うのがやっとである。
じわじわと、カイらは押されていた。膠着状態を打ち払うものがなければ、いずれは力負けするだろう。
……そして、それは現れた。
「我が友アーマード・レッド! 君ほどの戦士が仮面に操られるのは、私に心があれば痛んでいたことだろう。だが、友として、私が君を止める!」
コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が大通りに足音を響かせ、走り寄る。剣も、銃もない。裸一貫である(実際には、彼は装甲を着けているし、生まれたときにも一貫どころではなかっただろうが)。
「危険。迎撃シマス」
アーマードの銃が、コアに向けられる。レーザーの雨を体に受けながら、コアは顔と胸のジュエルを守りながら突撃する。
「武器を使えば傷つけてしまう……! 私が、体で止める!」
コアのショルダータックルが、レッドの腹を打つ。かなりの体格差にもかかわらず、コアは両手で彼の武器を押さえる。
「君! 今のうちにレッドの仮面を!」
「え……ええ!」
低空飛行を続ける渚に、コアが告げる。だが、渚の放った弾丸は、他ならぬコアの体によって弾かれた。
「私を盾にした!?」
アーマードが機晶エンジンをフル稼働させ、コアの体を持ち上げている!
「……本気か!? 目を覚ませ、レッド! 君のような強い戦士が、仮面の悪意に負けてはならない!」
だが、レッドは返事をせぬまま、持ち上げたコアに向けて左肩のカノン砲を突きつける。コアの巨体も、これを受ければタダでは済むまい……
「って、誰かのことを忘れてない!? あたしの歌を聴きなさい!」
エレキギターを掲げたラブが、巨大な鋼鉄のぶつかり合いに比べればあまりに小さな体から、信じられないほどの声量で歌を響かせる。敵の力をくじく、魔力のこもった歌である。
「……いまだ!」
その歌によってレッドに生まれたわずかな隙を見逃さず、コアはレッドの胸をサッカーボールのように蹴り上げた。
ドオン、と音を立てて、コアの体が地面に落ちる。レッドは感情を露わにこそしなかったが、左手をコアに向かって振りかぶる。コアは知っている。その腕の中にはパイルバンカーが内蔵され、レールキャノンにも劣らぬ威力を持っていることを!
そのとき、ふたりの間に飛び込むモノがあった。言うまでもない、渚がコアの胸の上に滑り込みながら、まっすぐに銃を構えている!
「そ・こ・よーっ!」
レッドのガトリングに比べればあまりにも小さな銃声。だが、放たれた魔力の弾丸は、コアの仮面を打ち砕くには十分な威力を持っていた。
「作戦行動終了 戦闘行為ヲ停止シマス」
コアに跨がった体勢のまま、レッドは動きを止めた。
「……私の熱い思いが通じたか、友よ!」
コアは大きく頷いた。もし彼が人間ならば、涙を流していたかも知れない……。
「……あちらは仮面を……壊されましたか。……ですが、こちらは……まだです」
ネームレスが無感情に呟き、斧を振りかぶる。
「ああ……だが、我も分かった。ようやく、どう戦うべきかが」
ルナは剣をまっすぐに構える。そして、じりじりと後ろに下がった。
「逃げるつもり……ですか……」
「いいや。おまえが追いつけるなら、そうするが……我に追いつけないものに、背を向けたりはしない!」
ぱっと、ルナの背から翼が広がった。地面を蹴ると同時、ネームレスに向けて、まっすぐに突っ込んでいく。
「……特攻、ですか……」
驚きつつも、ネームレスは体から生み出した獣たちを放つ。蛇が、猟犬が、触手が、鳥が、そして虎が、ルナに噛み付く。
「仮面さえ砕けば、我の勝ちなのだ。我が傷つくことを恐れる必要など、なかった!」
ルナは蛇に首筋を噛まれ、猟犬の牙に腕を取られ、触手に足を絡め取られ、鳥に胸を突かれ、虎の突撃を受けながらも……動きを止めない!
間合いに入ると同時、ネームレスが斧を振りかぶる。だが、それを振り下ろすよりも早く、ルナの剣がまっすぐ、ネームレスの仮面を打っていた。
「一撃に全てをかければ……剣は斧よりも速い。はじめから、こうすればよかった」
傷だらけになるのは鎧の本懐とばかりに、ルナは口元に珍しく笑みを浮かべた。
「……楽しかった……ですよ」
魔鎧どうしにのみ通じるのだろう短い会話。仮面が砕かれ、ネームレスは斧を地面に落とした。
「アザトース! お前は、死ぬことがないんだったな!」
幾度かの交錯の後、大きく後ろに下がりながら2本の刀をまっすぐに構え、カイが叫ぶ。
「この体はすでに怪異となり果てていますよ。……敗北を悟って、降参しますか?」
距離を取ったカイに向かい合い、エッツェルは自分の腕を撫でる。そこには恐るべき威力を秘めた魔石が埋め込まれているのだ。
「いいや……だったら、安心して戦えるッ!」
カイが2つの武器を振りかぶり、投げ放つ。当然、投げて使うような武器ではない。むちゃくちゃな軌道を描き、エッツェルは悠々と刀をかわす。
「何を……」
「奥の手だよッ!」
叫ぶカイの手に、第三の武器……光条兵器が現れる。黒い刃は、しかしエッツェルに本能的な恐れを抱かせた。
「させません……!」
「させてもらう!」
エッツェルが魔力を解き放つ。異様な冷気を浴び、足を凍り付かせながらも、カイは太刀を繰り出した。それは、まっすぐにエッツェルへ向けて振りかぶられ……そして、彼の仮面だけを両断した。
「ここまで来れば、大丈夫でしょう」
ビルの上へ辿り着いたクロセルがジャガーからひらりと飛び降り、髪をさらりとかき上げた。
「何が目的だ。お前もあたしをバカにする気か!?」
が、さらわれた輝夜は、ぱっと身を離して叫ぶ。その背から、今にもフラワシが飛び出しそうだ。
「ま、まあ、待ってください。どうやら、今のテルヨさんは仮面によって何らかの感情が発露している様子ですが……」
「あたしをてるよと呼ぶな!」
輝夜からフラワシが飛び出し、クロセルを吹っ飛ばした。
「だからストレス解消のためにはしばらく仮面を着けたままにした方がいいだろうと思ったんですよー!」
きらーん。意地で最後まで口にしてから、クロセルは星になった。
「まったく、世の中にはろくな男がいないじゃないのよ!」
ビルの屋上で叫ぶ輝夜。その視界に、何か大きなものが現れた。
「見つけたぞ。手早く、助けてやれ」
大きなもの……龍の姿に化身した魔鎧、雹針 氷苺(ひょうじん・ひめ)が言った。
「いきなりさらわれた時にはどうしようかと思ったけど……ここなら、周りを気にする必要はなさそうだな」
氷苺の背からビルに飛び移り、木本 和輝(きもと・ともき)が呟く。その手中からはしびれ粉が風に乗って飛んでいる。
「テルヨさん! あたし知っテルヨ、テルヨさんの名前、テルヨで合っテルヨね!」
その後ろで、水引 立夏(みずひき・りっか)が声をあげる。びし、と輝夜の額に青筋が浮かんだ。
「人の名前を間違えるやつしか、この街にはいないのかぁ!?」
輝夜の放ったフラワシが爪を振り上げ、急速に迫る。
「氷苺さん!」
「あまり急かすな」
和輝の声に応じて、氷苺が形質を変化させる。和輝の体を包み、魔鎧本来の姿に変わっていく。和輝は氷苺の防御力を頼りに、フラワシへと身体ごとぶつかった。
「鬼叉羅はん! 今や、打ち合わせ通りに!」
体で受け止めながら、和輝が叫ぶ。
「ええっ!? で、でも!」
封神 鬼叉羅(ほうじん・きさら)が、びくりと身をすくませる。
「いいから!」
「し、しょうがないわね!」
渋々という様子で、鬼叉羅は大きく息を吸う。その体が、見る間に膨らみ、鬼神の姿へ変じていった。
「しょうがなく、やってあげてるんだからねっ!」
声と共に、鬼叉羅の腕が和輝の背を押す。どんっ! とフラワシを押し返し、和輝が輝夜に迫る。
「わあっ……!?」
輝夜が避けきれるものではない。ふたりは重なり合って屋上に倒れた。
「これで……!」
ぱっと、和輝の手が仮面を取り去る。それはそのまま、ビルの屋上から投げ捨てられた。
「ふう……これで、ようやく一件落着、だな」
額の汗をぬぐう和輝。体勢を直そうとしたその手が、何か柔らかいモノに触れた。
「……どこ、さわってんのよ……!」
仮面を外されても青筋を立てたままの輝夜が、下からにらみつけている。輝夜が彼の顔に向けて拳を突き出したのと同時、和輝は背後にも妙な気配を感じた。身長3mはある何者かが、腕を振りかぶっているような……
細かい描写は避けるが、事件を締めくくるにふさわしい、大きな音が夜のしじまに響いたことだけは記しておく。
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