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パラミタ百物語

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第弐拾話 宿の怪
 
 
 
「じゃあ、私の番ですね。これはお兄ちゃんからよく聞いたお話なんですけど……」
 ちっちゃな騒ぎには構わず、ユイ・マルグリット(ゆい・まるぐりっと)が語り始めた。
「あっ、妹の番だ。頑張れー」
「さ、寒い……」
 広間に戻ってきていたアスカ・マルグリットが、べったりと平五月にくっつきながらユイ・マルグリットに声援を送った。
「昔、ある宿がありました。
 ある夏の日、さる旅人がその宿へ泊まりました。
 そこでは、ときどき料理用の魚がなくなるということがあったのだそうです。
 盗った者がいるはずですが、魚を持っていく者は、ずっと分からずじまいだったのです。
 そこで、その話を聞いた旅人が、魚がおいてある棚を一晩見張ることにしました。
 夜、物音がするので覗いてみると、人ほどもある大きな猫が皿においてあった魚を骨ごと食べていたのです。
 旅人は、あまりの気味の悪さに部屋に逃げ帰ってしまいました。
 ところが、その化け猫が後を追ってきたのです。
 宿の部屋の前の障子に、その化け猫の姿が恐ろしい影となって映ります。
 ばりっ……、ばりっ……。
 ついに、障子が、化け猫の爪で破られ始めました。
 旅人は、化け猫が恐ろしくて、たまらず部屋から逃げだしました。
 ですが、なおも化け猫は追いかけてきたのです。
 旅人はとっさにそばにあった棒で化け猫の頭を殴りました。
 よほど打ち所が悪かったのか、それっきり化け猫はうんともすんとも言わなくなりました。
 なんとか助かった旅人が化け猫の死体を見ると、それは普通の小さな猫の姿になっていました。
 事の次第を聞いた宿の主人は、その猫の死骸を裏の畑に埋めたそうです。
 その年の冬、旅人は帰り道でまたその宿に泊まりました。
 もう化け猫は退治したので、安心です。
 夕食には、季節外れの南瓜が出されましたが、たいそう美味しい南瓜でした。
 その味が気に入った旅人は、お土産にその南瓜の種を分けてもらおうと思いました。
 すると、宿の主人は裏の畑へと旅人を案内しました。
 そこには、なんともりっぱな南瓜が生えていました。ただ、どこか嫌な感じがします。
 熟れ具合はどうかと、南瓜を一つ割ってみることにしました。
 真二つに割ってみると、売れた南瓜から大きな種がバラバラと零れ落ちました。
 後から後から南瓜から溢れ出た種は、あっという間に旅人の足許を埋め尽くしてしまいました。
 にゃあ。
 どこからか猫の泣き声がしたかと思うと、南瓜の種だと思っていた物が、一斉に瞳を開きました。それはすべて猫の目だったのです。
 後で、畑に埋められた猫の頭蓋の眼窩から、南瓜の芽がのびていたのが発見されたそうです。
 旅人ですか?
 彼の行方は、誰も知らないそうです。
 おしまいです」
 ふっと、ユイ・マルグリットが蝋燭を消した。
 
 
第弐拾壱話 蔦の怪
 
 
 
 そろそろ夜明けも近い。
 残った語り部の数も、もうほとんどいなくなった。
「うーん、我は聞きに来たのであって、あまり話す物もないのだがなあ」
 さあ、次は君だと皆にうながされて、アッシュ・フラクシナスが前に進み出た。
「真っ赤な蔦でびっしりと被われた不気味な洋館がありました。
 旅の一行はそこで一夜を過ごします。
 すると、夜中に蔦が急成長して一行を養分にしようとする!
 逃げる一行、追いかける蔦。
 さあ大変。
 そこに洋館のメイドが現れたので、主を呼んでくれと旅の者たちは必死に助けを求めるが……。
『私の主は、皆様のそばにもうおります』
 迫ってくる蔦の群れをさしてメイドが言う。
 その姿も、蔦の塊に変わって、旅人たちに覆い被さり、そしてちゅーちゅーして食べてしまったそうだ。
 おしまい」
 早口で語り終えると、さっさとアッシュ・フラクシナスは引き下がってしまった。
『怖くはないな。だが、手抜きでも、このくらいの方が助かる』
 木曾義仲が、ほっとしたようにつぶやいた。