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第一章 水没した蒼空学園


 水没した蒼空学園は、いろんな意味での危機ではあった。しかし危機を嬉々として楽しむ余裕があるのも、これまた蒼空学園ならではである。

 そして嬉々として水中生活を楽しむものがいれば、それを観察するものもいる。
「皆さんこんにちはー! 今日は『水中の』蒼空学園からお届けします。羽瀬川まゆりですっ。普段と違う学園生活、せっかくなので映像に残したいと思います。皆がどんな風に水中生活を楽しんでいるか、インタビューして回りたいと思いますー!」
 まゆりとシニィ・ファブレ(しにぃ・ふぁぶれ)を、従者である埼玉県民がカメラで撮影している。ただし撮影が始まる前に、シニィに言い含められていた。
「お主、わかっておろうな? 常にまゆりをカメラのフレーム内におさめておくのじゃぞ? 理由? ふっ、おぬしもまだまだじゃのう。撮影の終わったビデオを見てみれば分かるぞ。まぁ、楽しみにしておくがいい」
 シニィの指示通り、カメラは常にまゆりを捉えていた。
「あ、この格好ですか? せっかくなので私も水着に着替えちゃいました。こんな風に泳げるんですよ〜」
 大胆な水着姿を披露するまゆり。余すところ無くカメラが追っかけた。
「あー、カメラが行っちゃったー」
 噂を聞きつけた百合園女学院のミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)立木 胡桃(たつき・くるみ)は、早速、蒼空学園に遊びに来ていた。もちろんお気に入りの水着を持参して。
「これで男の子? なーんて言わせないのよ!」
 そうミーナは胸を張ったが、胸の出っ張りには乏しかった。かろうじてパッドを入れることで、膨らみらしき認識をアピールしている。
「胡桃ちゃんはビキニタイプにしたんだ! かわいい〜♪」
 胡桃は獣人用の水着でも尻尾穴に尻尾が通らないため、恥ずかしいがビキニタイプの水着を着ている。
「ん♪」
 胡桃の持つホワイトボードには『ミーナ殿の水着もフリフリでかわいいですよ。』と書かれている。胡桃はしゃべれないため、文字を書くためのホワイトボードを持ち歩いている。
 そこでミーナの視線が胡桃の胸に行く。右手を伸ばすとムニムニとつかんだ。
「んきゅ!?」
 照れながらもホワイトボードには『ミーナ殿、ボクの胸は何もつめてませんよ!?』と汗をかきながら書いた。 
 そして「かわいい水着の子いっぱいいます! 目の保養目の保養だよ〜♪」とミーナが周囲の女の子に視線を移すと、忙しくも胡桃の手が動く。
「んきゅ!!」
 ホワイトボードには『ミーナ殿! あんまりほかの方をじろじろ見てはだめですよ』と書かれているが、もはやミーナの目には映らなかった。
「なんだか、あそこの女の子の視線が痛いなぁ……」
 イルミンスール魔法学校から来たマリリン・フリート(まりりん・ふりーと)はミーナの視線を感じていた。
「まぁ、身長180もある女は珍しいか」と納得させる。
 そして改めて水没した蒼空学園を見た。
「これは楽しめそうだぜ」


 水に埋まった蒼空学園を前に葦原明倫館の武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、腕を組んで考え込んでいた。
「この状況は一体?」
 次の瞬間顔を上げる。
「ハッ、これは鏖殺寺院の仕業だな! おのれー! ケンリュウガー剛臨!」
 牙竜はポーズを決めて変身(魔鎧装備)を完了させた。
「牙竜、何をするつもりです?」
 魔鎧の龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)が尋ねる。
「もちろん! 鏖殺寺院の策略を止めるんだ! この時のためにヒーローになったと言っても過言じゃないからな」
「それはともかくアルバイトの時間ですよ」
「バイトの時間? 事件解決の方が大事だろ……ヒーローの魔鎧たる自覚があるのか!」
「牙竜、あなたこそヒーローとしての自覚はあるんですの? ろくに収入もないヒーローでは先行き不安です。それに女の子は何かと物入りなんですよ。最近のヒーローはF1のようにスポンサーがあるのが当たり前。文句を言う前にスポンサー探してきなさい!」
 牙竜は呆然と立ち尽くす。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。そこでポンポンと肩を叩かれる。振り向くと橘 恭司(たちばな・きょうじ)が親指を立ててニッコリ笑っていた。
「えーと、何ですか?」と牙竜が聞く前に、灯が「カモン! (株)特殊配送行ゆるネコパラミタ!」と必殺技のように叫んだ。
「こいつを運んじゃって良いんだな」
「橘さん! 人を梱包するのは良くないと思います! たーすーけーてー……あぎゃ!」
 もう何度目だろうか。手馴れた恭司の梱包作業の前に、牙竜はろくな抵抗もできないまま、持ってきたダンボール箱に詰め込まれた。
「よしっ! 喫茶とまり木の出張店舗まで飛ばすぜ!」
 軽々と積み込むと、恭司はメモを頼りに車を走らせた。
「これこそ鏖殺寺院の仕業……じゃないのか?」
「当たり前です。こんなこともあろうかと、事前に頼んでおいたのですよ」
 灯の言葉を聞いて、牙竜は落胆する。こんな状況でヒーローになっていても仕方ないと魔鎧を解除する。ふと手に柔らかな感触がある。
「牙竜! いきなり変身解除しないでください! 魔鎧になると何故か服が脱げるから、今、何も着てないんですよ!」
 灯は狭いダンボール箱の中で、器用に牙竜の頬を叩く。
「そ、そんなこと言ったって……」
 あわてて手を離したものの、反動で顔が突き出される。
「わ、私の谷間に顔を押し付けてどうしようって……」
「谷間? せいぜい丘間じゃないのか? いやせいぜい平地の間の水路って……」
 牙竜の眉間、鼻の下、喉に鋭い突きが放たれる。一呼吸おいて、みぞおち、金的に蹴りが突き刺さった。
「やけに揺れるなぁ。水中の運転だからか?」
 恭司は鼻歌を歌いながら、ハンドルを切った。
「このっ! またっ! スケベ野郎っ!」
 不可抗力な体勢ではあったが、牙竜への灯の打撃が止む気配はなかった。



 中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)に話しかけられる。
「ねぇ、綾瀬。こんな非日常的な状態だからこそ、いつも通りの行動をする生徒って少ないんじゃないかな?」
「まさか水の中で普通に息をして生活をする事になるとは思いませんでしたわ……この状況、皆様の行動を観て楽しむには最適な……え? 何ですかドレス??」
「あれ? わからないかなー? ……皆この水の中の世界を満喫する為に色々やろうとするに決まってる」
「成る程、確かに一理ありますわね……ですが、その事に何か意味があるのでしょうか?」
「だから綾瀬は普通に買いに行けば良いの、伝説の焼きそばパンを!」
「伝説の焼きそばパン……確かに頂く事が出来るのでしたら、この状況を観て楽しむよりも好奇心を満たす世相ですわね」
「それに、水中での校則なんてないんだから、バーストダッシュで走っても文句は言われないはずよ。だって泳いでいる人たちもいるんだもの」
 綾瀬は思いもよらないドレスのアイデアを聞いて笑みを浮かべた。



 学園全体が水没する状況に体を震わせているものが一匹居た。マンボウのウーマ・ンボー(うーま・んぼー)である。そんな彼を見て、マスターのアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)は目を細める。
「アキュートよ。それがしを騙したな」
 水に浸かった蒼空学園を見て、マンボウは絶句する。
「それがしは、チト用を思い出した」
 逃げようとするマンボウのヒレを掴んで、アキュートは思いっきり水に投げ込む。
「そう言うな。いいから試しに飛び込んでみなって」
 一瞬溺れかけるマンボウだが、息が出来る事に気づく。
「なんとっ、この水、息が出来るのか?」
「なっ、平気だろ?」
「ぉぉおおお……。それがし、今、水中を泳いでいるのか? 生まれてより百数十年。魚のくせに、ヒレ付いてるんだろ。と、数々の暴言に耐え続けて来たが、それがしはついに……。ついにっ! ぉぉぉおおおお……」
「マンボウ? どうしっ!」
 アキュートが止める間もなく、ウーマは暴走を始める。
「チッ、マンボウのヤツ。イカレやがったか。トラウマは思った以上に深かったみたいだな」
 追いかけようとするアキュートのすぐ横を、2台のオートバイがすり抜ける。
「何だ? とにかく追うか」
 方向が一緒のウーマとバイクを追いかける。
「ちょっ何だこれ、不思議空間過ぎるだろ! セリカ! 水の中で息してるよオレすげえ。いやオレじゃなくてこの空間すげえ。というか皆、普通に対応してるし!」
 爆走していたのはヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)セリカ・エストレア(せりか・えすとれあ)だ。学園全体が水没する状況を目の当たりにして、ヴァイスは黒鋼(イコン扱いの巨大昆虫)のことが気にかかり、急ぎ飛ばしてきた。
「まあ登校初日にこんな状態になれば、誰だって驚くだろう。しかしだからと言ってヴァイス、校内をバイクで走っていいのか? あれ? 今追い抜いたのはマンボウか?」
 並走するセリカの声はヴァイスに届かない。セリカの危惧は、1人の女生徒によって現実のものとなる。
「止まりなさい!」
 両手を広げて立ちはだかったのは、神皇 魅華星(しんおう・みかほ)だった。
「危ないじゃねぇか!」
「危ないのはそちらでしょう。どんな急用があるかは存じませんが、人を跳ねたら、どう責任を取るお積もり?」
「イコンが……、黒鋼が……」とヴァイスはつぶやいたものの、無謀な行動に気付き素直に謝罪する。そんな横をウーマが飛び越えた。
「キャッ!」
 魅華星に当たる寸前、追いついたアキュートが、拾った鈍器でウーマの後頭部を容赦なく殴る。1発、2発、止めの3発。
「ギョッ!」と断末魔? の叫びをあげたウーマは、それでもどこか満足感に溢れ、幸せそうな顔で地面に沈む。
「な、何なんですの、一体」
「申し訳ない。泳げることが嬉しくて、暴走したんだろう」
 アキュートはウーマを撫でると、深く頭を下げた。
「やれやれ、どうしてこの程度で騒ぎになるのか。これは根本的に学園の治安を守るべき人間が必要ですわね。良いですわ。この神皇魅華星が自らその任に就いてみせましょう」
 そう言い切ると、呆然とする3人をその場に残して、どこかに泳いでいった。
「えーと、オレ達は……良いのかな?」
 聞かれたアキュートも、しばし答えに悩む。
「まぁ、良いんだろう。ただしバイクはまずかろうな」