校長室
大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~
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第12章 「まさか……壁を破壊すると発動するトラップがあるなんて……」 部屋の中央でカラクリを聞き、美央は驚きを隠せなかった。遺跡、イコール壁破壊というスタイルの彼女にとって、これは衝撃の事実である。 「これは私に対する挑戦と受け取りました。……といっても、壁を破壊できないなら脱出するのは大変そうです」 考え込む仕草をしてから、それはそうと、と美央はフレデリカや菫、キリエ達を見る。 「みなさん、私と同じく遺跡の壁を破壊して進む派の方々ですね。ここで会ったのも何かの縁です。壁破壊同盟を組んで、なんとかここから脱出しましょう!」 「か、壁破壊同盟ですか?」 何だか妙な名前を付けられてしまい、ルイーザがびっくりした声を上げる。トルネは困ったようにあはは、と笑った。 「でも、ここにいる以上違う、とも言えねえよなあ」 ライナスと一緒に神殿に入り、まだるっこしくなって壁を攻撃したのはトルネである。そんな皆の反応は気にせず、美央は脱出方法を考える。 「……といっても、どうすればいいんでしょう。モンスターとかがいれば壁に誘導して破壊させることとか出来そうなのですが……、ここにはいなさそうですよね」 「そうね……」 ワープする直前の事を思い出し、菫が言う。 「そういう点ではここは安全みたい。あの機械人形も追ってこなかったし」 「むー……、ここの仕掛けは一体どういう感じで働いてるんでしょう? 例えば、攻撃する意思のないものが『結果として壁に攻撃してしまった』だけでも、ここに飛ばされてくるのでしょうか? もしそうじゃないなら、いろんなものを投げつけまくればいつかは破壊できるかもしれません」 話しているうちに、美央の目は輝きを増していく。 「そう考えると、私に破壊できない壁なんてないかもしれません。なんかやる気が出てきました! ……あいたっ!」 突然何かにぶつかられて尻餅をつく。向かいを見ると、香がぶつけた額をさすっていた。何か試して、ワープしたらしい。智恵の実がもし植物なら話をしてみよう、と美央についてきた香だったが―― 「あいたたですわ……。なんでわたくしまでこんなくらい所に閉じ込められてるわけですの? 光合成もできねーですわ」 とても不満そうだ。頭の花も蕾である。否、これはいつも蕾である。キリエが参考までにと香に聞く。 「何をしたんですか?」 「フラワシで攻撃してみたけど、当たる前にワープしてこの有様ですわ」 「フラワシは駄目なんですか……。では、石を投げるのは……」 少しばかりがっかりしてやる気がしぼんだ美央は壁に近付き、手近な石を拾って距離を取り、投げてみる。途端、石と共にワープした。壁に意思があったわけでもないだろうが、戻ってきた彼女の後頭部に戻ってきた石がぽけん、と当たった。ライナスが言う。 「……石が『武器』だと判断されたのだろうな」 「それでは、これはどうでしょう?」 次に、香がカクタリズムで沢山の細かい石を浮かせる。意志のない無差別攻撃を狙ったものだったが、荒れ狂った石は壁に向かい――消失した。香も一瞬姿を消し、中央に再び現れた時には石がぼこぼこと体に当たる。攻撃した時の力そのままだ。 「い、いてーですわ……」 「遺跡は破壊して進むもの! ……そう思ってた時期が私にもありました……」 「とにかくこんな部屋からはとっとと脱出して、智恵の実をさがしてーですわ……」 美央と香は中央で座り込み、がっくりした。 「ライナスさん、そういえばメルセデス、隠れ巨乳だったわよ! 初めて会った時はそうでもないと思ったのに……。何で巨乳にしたのよ。趣味?」 装置の有無の仮説について改めて美央達に話をし、ワープの仕掛けを探る作業に戻ってしばらく。菫は博識やトレジャーセンスを使って室内を調べながら、ライナスに文句を言った。あまり表情の変わらないライナスも、これにはぴくりと眉を動かす。特に他意は無く、意識的に盛ったつもりもないのだが。 「何で、と言われてもだな……」 そこで、パビェーダが助け舟を出した。彼女は、石つぶてを受けた香達に命のうねりをかけているところだった。 「菫、メルセデスは外から運び込まれて修理してもらったのよ。ライナスさんに罪はないわ」 「う、それは解ってるけど……」 やんわりとたしなめられ、菫はばつが悪そうな顔で自らの胸元を見る。八つ当たりであることは自覚しているようだ。 「……ん?」 その時、ライナスが何か奇妙な顔をした。突然の変化にきょとんとする菫達に、彼は短く報告する。 「これは、テレパシーか? ……ちょっと待ってくれ」 一方、自分の胸について語られているとは露知らず、メルセデスは冷静に部屋を観察していた。以前にも侵入者はあっただろうに、閉じ込められたであろう彼等の『姿』は何処にもない。という事は、こちらから出られない場合は何かしらが回収に来るというシステムである可能性もある。 鼠1匹いないことが多少気になるが、その上で彼女は出入り口がないか、説明文のようなものがないかと調べていった。動きながら考えるのは、自分の記憶の中に似たような事例がなかったかということ。5000年前。壊れる前。あの頃に何か、あっただろうか。 ◇◇◇◇◇◇ 『智恵の実までの地図だと? 駄目だ』 「駄目も何もありません。寄越しなさい」 その頃、不本意ながら先に管理所を見つけてしまった七日は、問答無用、とばかりにガーゴイルに地図を要求していた。しかし、石像が首を縦に振るわけもない。 「大体、収蔵された本の殆どが白紙とか巫山戯ているんですか? それだけのものを作る余裕があるのならもっと必要な事を……」 『研究をすると言ったな。そんな私的な用件の為に、私が自ら場所を開示する事は無い。諦めろ』 「……こりゃ、相手にされてないな」 2人との遣り取りを後ろで眺めていた皐月は、別の視点からガーゴイルに言う。 「じゃあ、此処で行方不明になった奴を助ける為の情報なら貰えるのか? こっちは私的な用とは言えないだろ?」 「私から見れば充分に私的ですが……」 七日がぼそりと呟き、ガーゴイルは表情も態度も変える事無く質問に答える。 『いかなる理由があれど、神殿の仕組みについて人に教える事は出来ない。この管理所、ひいては神殿の護りに皹が入る可能性のある事は、私にとって全て悪だ。この神殿に罠が多くあるのは、人を智恵の実に到達させない為だ。行方不明になった2人が智恵の実を欲していたのなら、自業自得としか言いようがない。助ける事は、出来ない』 「助ける事は出来ない? 本当は、助けたいのか?」 『…………』 ガーゴイルは黙したまま、何も答えない。分からないのか、答えられないのか。この石像は、神殿を守るという事に囚われた存在なのかもしれない。 「…………」 「ええい、まだるっこしい。こんな石像は壊して地図を……」 「七日」 交渉が面倒になったらしい七日は、ガーゴイルを壊しにかかろうとする。その彼女を止め、皐月は踵を返した。 「とりあえず出直しだ。やっぱり、先に智恵の実を見つけるぞ」 「……さ、皐月?」 何を言っているのか、と七日は怪訝そうにするが、息を一つ吐いて後を付いてくる。 記憶が正しければ、智恵の実とはアダムとイブに知恵を授けた、という代物だ。人が人である自意識に芽生えた話。“人が神の元を離れる原因”にもなった…… ――ひょっとして……使える、か?