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大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~

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大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~
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 第19章
 
 
「お? これが変更装置か?」
 操作盤の下にある、アナログ時計のような機械を示して陣はサルカモを振り返った。×印の絆創膏をそこら中にくっつけたサルカモは、涙目でふるふる震えながら頷いた。
 ――そのちょっと前。
 画面でチェックでもしていたのか、皆でモニタールームに行くと、出入り口の前ではサルカモ達が勢揃いして待ち構えていた。彼等からは、一度は道案内をしてしまったけど今度は負けないぞ! という気概が感じられる。そんな使命感と気合いを背負い、全員でうおりゃあああああああ! と床を蹴り両足ジャンプ蹴りを………………
 ………………勝てるわけがなかった。
 多分に手加減された筈なのだが気分の問題なのか、サルカモ達はお互いに×印絆創膏をつけあって励ましあったりしていた。まあ、ルシェンが管理所から書き写してきた情報を使いクリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)が残った罠を無効にしてしまったし、神殿はほぼ機能を停止させたも同然だ。泣きたくなる気持ちも分からないではない。
「罠は全て解除しましたが、有効なものは起動しておきますか? 中には、体力回復の罠等もありますな」
「そうだな……」
「樹の近くに、入口まで戻るワープ罠があるだろう。それを残す為にも、入口への罠に関しては解除しないでおこう。この部屋まで戻ればワープしなくとも外に出れるようだが、それも面倒臭いだろうからな」
 クリュティに問われ静麻が考えているところに、レオンがそう提案する。ワープ罠が再び作動するのを見ると、レオンは衿栖達にも罠の作動について伝えに行った。
「ファーシー……」
 一方、アクアはモニターを見て改めて安心したようだ。そこには花琳から聞いた通り、機械人形達に襲われた時にはぐれたメンバーが全員、揃っていた。
「……それにしても、何故ばらばらに戦っていた筈なのに一気にワープしたのでしょう」
「ああ、それはじゃな……」
 漫画原稿用紙に目を落とし、山海経が解説する。
「入口からの1回目ワープの時に『同行者』だと判断された者達が同じ場所にワープするようになっているようじゃ。モニターを見ると皆に何色かのフィルターが掛かっているが、そこで判別していたようだのう」
 アクアがファーシー達に引っ張られなかったのは、こちらのワープの方が一瞬早かった為だろう。
 彼女達がそんな話をしていた頃、真奈はベクトルの変更装置を見詰めていた。時計の文字盤の代わりに妙な記号が付いている。針は、1本。
「この部屋には、通信機器は無いのですか?」
 聞いてみるとサルカモはこくこく肯定し、再び花琳が携帯を取り出す。朔に連絡を入れ、装置の場所と操作方法を伝える。そうすれば、ライナス達は部屋を脱出出来る筈だ。様子を見ていた朝斗も、後ろで安堵の息を吐く。
「これで、モーナさんの依頼は一応完了だね。後は、智恵の実か……」

              ◇◇◇◇◇◇

 花琳が電話を掛ける前の話。
 ライナス達の居る部屋では、引き続き皆が脱出方法の模索をしていた。その中で、室内を一通り調べたメルセデス・アデリー(めるせです・あでりー)は、壁によりかかって茅野 菫(ちの・すみれ)パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)達の調査の様子を眺めていた。記憶を辿ってみても類似した事例は思い出せなく、自分の力では脱出出来ないと判断し体力温存を図っているのだ。有事に備えるという面もあるが、彼女はかなりの割合でリラックスしていた。
 ……まあ、あれからワープしてきた人数が一気に増えて室内は少々ごった返している。調査を眺めるといってもその様子が把握出来るわけでもなく、のんびりするのが得策だ。
 そんな彼女の前では、ファーシーがライナスに話しかけていて。
「ライナスさん、どこにも怪我が無くて良かったわ」
「……ああ。わざわざヒラニプラまで足を運んで貰ったというのに、こんな事になって済まなかったな。しかも、巻き込んでしまったようだ」
「ごめんな。えっと……、ファーシーっていうのか?」
 ライナスに続き、トルネが申し訳なさそうにファーシーに謝る。彼女は、彼に対しても忌憚の無い笑顔を向けた。
「そう、ファーシーっていうの。よろしくね! ……うん、でも、本当に……こうやって無事にライナスさんに会えたし、わたし、来て良かったって思ってるの」
 途中までは冒険気分が無かったわけじゃないけど、実際に怪我をした朔を前にして気付いた事がある。人が行方不明になった神殿――当たり前だけれど、ここは危険な場所で、本当に、取り返しのつかない何かが起こっても不思議ではないのだと。
 だから、生きている彼等に会えた事は心から嬉しかったのだけれど――
「どこが無事だ、どこが」
 近くから、ラスの不機嫌そうな突っ込みが入った。
「普通、一度入ったら出られないって聞いた上で壁を攻撃しようとするか? 一緒に袋小路に入ったって何の解決にもならないだろーが。こんな大勢でこんな狭い部屋で、俺は集団餓死とかごめんだからな」
 通常生活で楽天的能天気なのはまだいいが、こうした場面で冷静な判断が出来ないのは困る。釘を刺しておく意味も込め、彼はきつくファーシーに言った。彼女達機晶姫だけは生き残るかもしれない――とは思っても流石に口にはしなかったが。
「う……で、でも……攻撃してくる機械人形達からは逃げられたじゃない」
「そうだよ! ファーシーちゃんが壁を攻撃するように言わなかったら、きっと倒しても倒してもいっぱい危ない機械が来たはずだよ! だって、あの部屋絶対モンスター……むぐ」
「版権に触れそうな発言は止めろ」
 全面的にファーシーの味方! という感じのピノの口を封殺する。そこで、話を聞いていた明日香がおもむろに言った。
「攻撃するとこの部屋の中央に戻るということなら、中央から1歩も動かずに壁を攻撃すればいいんじゃないですか〜?」
「それはもう試しましたが……、ダメでした」
 赤羽 美央(あかばね・みお)月来 香(げつらい・かおり)が、ワープ装置探しを中断してこちらに歩いてくる。香の場合、中央からの攻撃は意図したものでは無かったが――
「一瞬消えますが、また中央に戻ってきて自分の攻撃に当たります。やめておいたほうがいいです」
「小石だったからわたくしはいてーだけで終わりましたが、魔法攻撃はそうはいかねーかもですよ」
「そうですかぁ〜。でも、横がダメなら、天井とか床とか〜、何か方法はありそうですよねぇ〜」
 実際、ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)は壁と向き合い、地道にプティフルスティックで攻撃を加えていた。最初は弱い力で始め、徐々に壁を攻撃する力を強めた結果、ルイーザはどれぐらいの力でワープしてしまうかを見切ったのだ。その感覚を維持したまま、彼女は先程から同じ力加減で攻撃を続けている。最終手段として、ダメージを蓄積させて壁を壊そうという策だが――壁が壊れる前に、ルイーザの体力が尽きそうである。
「あれを全員で順番にやれば効果ありそうですし、攻撃という手段を使って何か……」
「……そう思うなら、やってみれば」
「……う〜ん、やめておきます。ラスさんがやってみてください〜」
「何だその失敗を期待する顔は。……誰がやるか」
「……あった! あったわよ! 多分、これじゃない?」
 その時、ワープの仕掛けや魔法陣を探していた菫が部屋全体に聞こえるように声を上げた。皆が集まってみると、菫とキリエ・エレイソン(きりえ・えれいそん)フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)の座る真ん中にアナログ時計に似た装置が埋め込まれている。
「罠を設置する側の立場になって、人が物隠しやすい場所をしらみつぶしに探そうって話して捜索してみたの。そうしたら、一箇所だけ床が少し浮いていて、はがしてみたら……」
「解析出来るかな? 仕組みが分かれば脱出出来るはずよ。えっと、この文字盤の意味は……」
 フレデリカが発見の経緯を説明し、菫が博識を使って文字の意味を読み取ろうとする。
「これ……読めないわ。古代文字とは少し違うってのは判るんだけど」
 携帯電話の着信音が聞こえたのは、そんな時だった。ジャミングでもされているのか何故か圏外なこの室内の中、外と連絡が可能なのは1人だけだ。
「私だ。……ベクトルの変更装置? ああ、それなら今、見つけたところだ。ただ仕組みが……、え、分かる?」
 電話を掛けてきた花琳と話していた鬼崎 朔(きざき・さく)は、そして皆に報告した。
「その装置の使い方を、向こうでは把握しているみたいだ」
 真奈から聞いた説明を花琳が伝え、その情報を朔がフレデリカ達に話していく。
「つまり……この針で行き先変更が出来るということね。智恵の樹へ行くにはこっち。ここに針を合わせれば、このまま帰れる」
「どうしますか? お二方の希望する場所に私達も同行します。無事に戻れるまでは一緒ですよ」
 仕組みを理解したパヴェーダが言い、ルイーザが最後にライナスとトルネに確認した。トルネは迷うことなく、即答する。
「勿論、智恵の実を見に行くぜ!」
 他の皆の中にも、此処まで来て帰るという者はいなかった。
「それじゃあ、針をずらすわね。よしっ……と」
 そうして、皆は各々壁を攻撃し――
 隔離部屋から脱出を果たした。

              ◇◇◇◇◇◇

「そうです、智恵の実!」
 朝斗の呟きを受けて、モニタールームではクロセルが本領発揮していた。堂々と演説をするように、皆に己の野望を語りだす。
「俺達も智恵の実の元へ向かいましょう。手に入れた智恵の実を量産して事業化することで、雪だるま王国の財政を再建するのです!」
 ライナス達を始め王国女王も助かったことだし、これで心置きなく金儲けを企めるというものだ。しかし、この活用法は恐らく女王も予想外であろう。
「……また、バカなことを言い出したのだ」
 国民も予想外だったようだが慣れたもので、リア・リム(りあ・りむ)もカリンも騎士団長もとい財政再建委員長の言に呆れた目を向けている。ついでに言うと、このモニタールームに居る大多数は雪だるま王国とは関係が無い。
「この実を加工することで、史上初の『バカに付けるクスリ』が完成するかもしれません。空京大学の入試に頭を抱えるパラ実生あたりをターゲットにしたらバカ売れ間違いなしですよ」
 クロセルはぐっ、と拳を握った。もし彼の頭の中を脳内メーカー的なもので見ることが出来たなら、きっと『金』の文字で埋まっていることだろう。その様子に、ふるえていたサルカモ達がきーきーと怒り出す。大事な実をそんな妙な事に使わせるものかと果敢にキックを繰り出すが、それを、クロセルはひょいひょいと軽くかわす。
「何に使うかはともかくとして……智恵の実ってどんな形をしてるんだろうね」
 素朴な疑問として朝斗が言うと、クロセルもはて、と首を捻った。
「最初に見た地図にも林檎マークがありましたし、智恵の実の一般的なイメージである林檎に関するモノなのでしょう。しかし、安直に林檎であるとは限りません。智恵の輪的に一捻りされた感じで……」
 そこで、はっ! と思いつく。
「iPh○ne型ではあるまいか!?」
『…………』
 ――………………いや、それはないだろう……
「ワープ先を変更しました。これですぐにでも智恵の樹まで移動できます」
「おお、そうですか。では早速行きましょう!」
 モニタールームに大量の無言突っ込みが乱反射する中で真奈が冷静に報告すると、クロセルは超伝導ヨーヨーを2個取り出した。
「しかし、智恵の実の樹は伐られてしまったとのことですが、それ以降育てられてないあたり栽培が非常に困難なのか、はたまた何か危険な事があるのか……。まあ、推論ばかり立てても仕方がありませんね。量産方法にしろ副作用にしろ、智恵の実を食べながら考えましょう!」
 部屋の外に出てヨーヨーで思いっきり壁を攻撃してワープするクロセル。情報管理所から移動してきた皆も、順次ワープしていく。
「……智恵の実のぅ……」
 望とノート、アクア達もワープし、静かになった通路で山海経はひとり呟く。
「――胡散臭いが、現物を見て山海経に書き加えるか決めるとしようか」