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【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース

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【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース
【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース 【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース

リアクション

 
 
 
 ■ コース紹介 ■ アパートメント『サウス』 〜 「獣人の村」役場
 
 
 
 上空より
 
 
 
「次に見えてきた木造2階建ての建物は、【アパートメント『サウス』】、疎開していた獣人が再び故郷へ戻り住む為の共同集合住宅よ。これがあるお陰で村を離れていた人も戻ってきてすぐ住む場所を見つけられるわね。そして【こもれびの診療所】……バル、もう少し低く飛んでくれない?」
「あまり低く飛ぶと通行人の邪魔だが……これくらいか?」
「オーケー、ありがとう。この診療所は村人が気軽に来られる小さめの病院で、庭には家庭菜園もあるそうよ。あと、そこにある貼り紙が見えるかしら? 『ドラゴンレース医療班本部』ってあるでしょ? 怪我をした人、あるいは体調が悪くなった人がいたらここで治療を受けてね」

「次は【集合ツリーハウス『みどりの家』】。森の木をそのまま活かして、樹の上と根元にログハウス風の家を設えた住宅群。疎開から戻ってきた獣人ばかりでなく、ナチュラルライフを求めてやってきた人も住人の中にはいるそうよ。この辺りは、住宅、診療所等が揃っているから、周囲にも獣人の商店や家がたくさん出来ているわね。その向こうに見えるステージは【846シアター】のものよ。イベントやライブの他に、芸能教育の場でもあるからアイドルを目指してる人は門戸を叩いてみたらどうかしら」

「【かものはし】は水路を利用した交通機関ね。観光や運搬に使われているそうよ。【賢狼の里】はこの村が襲撃される前、村人と一緒に暮らしていた狼を保護、飼育するための施設。今日は狼と触れ合うこともできるから、興味がある人はいってみてね。【獣人相撲部屋】はその名の通り相撲部屋。【アパートメント「ノース」】はサウスと同じ共同集合住宅で、北にあるからノースね」

「次に見えてきた巨大建造物は【アサノファクトリー獣人の村出張所】。今は機械類の修理や、イコン用の格納スペース兼整備場に運用されているわ。今日のドラゴンレースはお祭りのようなものだから、【祭り櫓】には人が集まっているようね。櫓の上からレース観戦しようっていう人がひしめいてるわ。【みーみーみみみー】は荷物運搬に使える騎乗ペットをレンタルしているところ。獣人の村では巨大ダンゴムのユーミーが輸送によく使われるわ。【「獣人の村」役場】は説明するまでもないわね。この村の役場よ。ここまで来たらゴールはもうすぐ。この辺りでは最後の追い上げが見られそうね」
 
 
 
 アパートメント「サウス」
 
 
 
「ここはアパートかにゃう?」
 きょろきょろしながらアレクスが敷地に入ってゆくと、それを見つけた七枷 陣(ななかせ・じん)が、よ、と手を挙げる。
「特に取材するようなとこもないけど、存分に見てってな。まだ少し部屋に空きはあるから、入居者も大募集中やで」
「木造なのにゃう?」
「ああ。鉄筋にすればもっとようさん部屋が取れるけど、村には地球文化に慣れ親しんでいない獣人が多そうやからな。こっちの方が落ち着いて住んでもらえるんやないかと思ったんや」
「温かみのある建物にゃう。入居希望者はお急ぎあれにゃうー」
 アレクスはアパートメントの空き室を陣に教えてもらうと、実際にその部屋に入っていった。
 それを見送ると、陣は改めてこの村のことを思う。 
「……ティセラ襲撃ん時に依頼でちらっとだけ来たけど、もう1年半も経つんやな」
 そう呟いてから、いや、まだと言うべきかと陣は思い直した。
 以前の村と比べたら大分騒がしい場所になったかも知れないけれど、出戻った人も、新しく移住してきた人も、この場所を新しい故郷として根付いてくれたら嬉しい。
 今はアパートメントはほぼ埋まっている。獣人の割合よりも、村の発展に伴ってシャンバラから流れ込んだ入居者の方が多い。
「短期間で作ったわりにはそこそこ良い感じに造れたと思うけど、住み心地とかどうやろうか?」
 獣人に聞いてみれば、皆一様に満足していると答える。身体の大きさも違えば形態も違う獣人だから、何の不満もない住処もないだろうと思うのだけれど、何度聞いても答えは同じ。試しに獣人以外に流入した住人に聞いてみると、そちらは階段の軋む音が気になるとか、隣の住人が口うるさいだとか、ちょこちょこと不満を口にする。
「村の人もほんとのこと言うてもえぇのになぁ」
 陣が嘆息すると、本当に感謝しているんですよと獣人は言って、庭を駆け回るリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)と村の子供たちの楽しげな様子へと目を移した。
 リーズは屈託無く、獣人の子供たちと遊んでいる。さっきまでは木登りをしていたのに、今はどうやら鬼ごっこに変わったらしい。
「にははっ♪ 鬼さんこちら〜♪」
 半透明な金の羽を日の光に透かして、リーズは走ってゆく。契約者なんだから全力で走れば子供たちに追いつかれるはずはないけれど、こちらを見ている陣に気づくと立ち止まって大きく手を振るものだから、すぐに鬼に捕まってしまう。
「捕まっちゃった〜。今度はボクが鬼だねっ」
 えへっと笑うと、リーズは子供たちを追いかけてゆく。
「ハハッ、お前等楽しそうやな」
 こっちはまったりシリアスモードで会話しているのにと、陣は苦笑いでそんなリーズたちの様子を眺めた。
 
 
 
 集合ツリーハウス『みどりの家』
 
 
 
 【集合ツリーハウス『みどりの家』】の敷地内の開けた場所には、木のベンチが沢山並べられていた。
「どこかに来たの? ヴァイシャリーから? せっかくだからレースもこの村もたっくさん楽しんでってねー」
 観戦する為にやってきた人々に、モリーが冷たい飲み物を配る。
 ツリーハウスの樹上に住んでいる村人は部屋の窓から、根元に住んでいる村人は部屋から出てきて、皆と一緒にベンチで飲み物片手に、今か今かとドラゴンがやってくるのを待っている。
「人がたくさん集まってるにゃうー」
 取材にやってきたアレクスがベンチを埋め尽くす人々に目を見張ると、だってね、とモリーは敷地内に作った木のアーチを翼で指した。
「ドラゴンはあのアーチを潜ることになってるんだ。ここならばっちり、カッコ良いところが見られるよ」
「ベストビューポイントにゃーう!」
「でも運が悪いと引っかかっちゃうかも」
 罠師さんに手伝ってもらったものだしね、とモリーはアーチを見上げた。
「さあ、もう一度練習しておきましょうか」
 早川あゆみは見物に集まった人の中で有志を募り、応援歌の練習をしていた。ショルダーキーボードで伴奏をつけ、『START!』のサビ部分を皆で歌って覚える。蒼空学園で音楽を教えているあゆみだから、こういうのはお手の物だ。
 皆が覚えてくれた応援歌はドラゴンが通過するときに歌うことにして、それまでの間、あゆみは明るくポップな曲を演奏した。それにあわせてモリーがメガホン片手に踊り、場の雰囲気を盛り上げる。
「賑やかな応援になりそうだにゃう。けど、ドラゴンさんは応援に気を取られてアーチに引っかかったりしないように気を付けるにゃう!」
 アレクスはもう一度アーチを示すと、とことこと次の施設へと向かった。
 
 
 
 846シアター
 
 
 
「こっちからも音楽が聞こえてくるにゃう」
 賑やかな音に誘われるように、アレクスが次に向かったのは【846シアター】だった。
 ここではレースを盛り上げる為に、応援ライブが開催されている。
「華やかにゃうー」
「レース大会いうたらお祭りも同然やからな。ウチも張り切っとるで、レース見学の人も楽しんでってや♪」
 846プロの社長兼プロデューサーである日下部 社(くさかべ・やしろ)が、アレクスを映しているカメラに向かって手を振った。
「ライブをしてるのは獣人のみんなにゃう?」
「そや。この日の為に、獣人の村の人からアイドルになりたい人を募集して、レッスンを積み重ねてきたんや! 皆! レッスンの成果を見せるチャンスやで! 精一杯この祭りを盛り上げていこうな!」
 ステージの上で歌っている獣人アイドルに、社は威勢良く声をかけた。
 まだ芸能界デビューを目指して勉強中なので、獣人アイドルはどこかあか抜けなくてたどたどしい。けれど、その物慣れなさもまた魅力の1つとなっている。
「レースの応援もがっつりさせてもらうでー。このあたりはレースの後半戦。疲れが溜まっている参加者も元気になるような応援をするさかい、どうか見てってや♪」
「レースは応援も楽しみの1つにゃう。みんなもここに来て、盛り上がりながら一緒にレースを応援するにゃう!」
「おお、待っとるでな〜♪」
 社がカメラに向かって手を振ると、ステージのアイドルたちも一斉に手を振った。
 
 
 
 賢狼の里
 
 
 
 アレクスにマイクを向けられた緋桜ケイは、まずは【賢狼の里】について知って貰いたいと、この場所を作った目的を説明した。
「この里にいる狼たちは、村が再建される前から村人たちと共に暮らしてきた狼たちだ。狼というと、ちょっと怖いイメージがあるかもしれないが、この狼たちはとても賢く、心も優しい。かつて村を襲った危機に対しても、勇敢に戦い、村人たちを守り抜いてくれたんだ」
 けれど、狼たちもまた戦いで傷つき、その数を減らした。村の被害も大きかった為、村人と狼は一緒に暮らすことが出来なくなってしまった。
「賢狼の里は、そんな狼たちを保護し、また村人たちと一緒に苦らしていけるようにするために作った施設なんだ」
「すごい狼なんだにゃう」
「こちらで狼と戯れることも出来ますからどうぞー」
 ソアがアレクスを狼たちのいる場所へと案内した。
「この子たちはとても押し濃くて、ある程度人の意思も感じ取ることが出来るんですよ。ぜひ怖がらずに、撫でてみてあげてくださいっ」
 ソアに促され、アレクスは狼を撫でてみた。最初に触れられる時、狼はぴくっと緊張を見せたがすぐにアレクスに害意がないと判断したのだろう。そのまま大人しくしていた。
「ねえ、ここの動物園、ワンワンしかいないの?」
 レース見物に来たのだろうか。よそ行きのワンピースを着た女の子が狼を指さしてソアに尋ねた。
「ここは動物園じゃないですし、いるのは犬ではなくて狼なんですよ」
「ふぅん、そうなんだー」
「よかったら狼に餌を与えることもできますよ。やってみますか?」
「うん。ほら、えさだよー。あ、まだ食べちゃダメだよ、お手をしてからね。マテ! あれれ、マテ! 言うこと聞かないねー」
 狼は女の子の命令など知らん顔で餌を食べると、また元の位置で横になった。
「犬と違って、狼は芸はしないんですよ」
「じゃあなにをするの?」
「ええと……そうですね、この村の昔のお話をしましょうか。まだこの村が滅びる前、狼と村の人が仲良くここを守っていたときの昔話です」
 ソアは小さな子にも分かるようにゆっくりと、狼と獣人の村の話を語っていった。