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リアクション
◆◇◆◇秋葉原の聖少女達◇◆◇◆
「秋葉原」と聞いて連想するものの1つに『メイドさん』があるだろう。
実際に秋葉原の中央通りを歩いていると、ビラ配りのメイドさんと遭遇することが多い。
また、リア充であれば彼女をメイドさんにコスプレさせてデートしたり、メイドさんとデートできるサービスも存在する。
故にメイドさんが歩いていても何ら違和感がないのが秋葉原の雰囲気と言えるが、その時ばかりは違った。
可愛らしい不思議の国のメイド服に身を包み、秋葉原観光マップを片手にウィンドウショッピングを楽しむ神代 明日香(かみしろ・あすか)の姿は、そんじゃそこらのメイドさん達では太刀打ちできず、本人の与り知らないところでちょっとした話題になっていた。
「あ、この魔法少女のアニメ、もうDVD化したんですねぇ。こっちの魔法少女はDVDBOXが出ていますが、エリザベートちゃんとマラソンして見るのもいいかも知れませんねぇ」
中央通りに面したアニメショップの店頭に置かれたDVDを手に取り、買うかどうか悩む明日香。
ギャラリーは遠巻きに彼女を見ながら萌えると同時に、シャッターが切られているが明日香はショッピングに夢中で知る由もなかった。
「このメイド服もヘッドドレスとの組み合わせがおシャレですけど、こっちのメイド服はエプロンドレスが数パターンの選べるんですねぇ」
続いてコスプレショップを見て回り、最近の流行や売れ筋などをチェックしてゆく。
「わわわ!? 紫とピンクとか大人ですぅ。こんな所に穴が空いていて大丈夫なのでしょうかぁ?」
おやおや、マニアックな店に入り、使うアテのないこともないような気がする下着を見始めるが、それ以上やるとディレクターSが怒るのでこの辺で。
「そろそろ一休みしたいところですねぇ」
「お、明日香じゃないか? お前もメイド喫茶でバイトしているのか?」
「ふぇ? 垂さん?」
観光マップを広げて休憩場所を探す明日香。
秋葉原は500m四方の中に、実に100軒近いメイド喫茶があると言われている。
そんな彼女に声を掛けたのは、メイド服姿の朝霧 垂(あさぎり・しづり)だった。明日香も知らないお店のメイド服を着ている。
「ああ、これか? 今俺がバイトをしている『ぷらむきゃんぱす』っていうメイド喫茶の制服なんだ。なかなかおシャレだろう? よかったら来るか?」
「初めて聞く名前ですねぇ。私、メイドさんの特別サービスよりも、美味しいウィンナ・コーヒーとケーキが出るところで休憩したいですぅ」
「うちはコーヒーにうるさい奴が入ったし、ケーキも手作りなんだ」
「それは楽しみですぅ」
垂に案内されて、中央通りより裏路地に入って歩くこと約5分、『ぷらむきゃんぱす』に着いた。
雑居ビルのワンフロアーだが、外装は洋館風に仕立ててあり、こぢんまりとしながらもお洒落な雰囲気だった。
また、入口には小さなプラムの木が植えてあり、これがこのメイド喫茶の名前の由来になっているようだ。
「お、お帰りなさいませ、お嬢様!!」
「セイニィさん!?」
明日香を出迎えたのはメイド服姿のセイニィだった。見ればティセラやパッフェルもメイド服に着替えて接客に当たっている。
垂の提案で、パッフェル達3人がそれぞれの目的を果たした後『ぷらむきゃんぱす』へ連れて行き、社会勉強と称してメイドとして働いてもらっているのだ。
セイニィは当然嫌がったが、そこは彼女の性格をある程度知る垂は、「くまさんアップリケ付きの可愛いメイド服がある」と言いくるめて説得していた。
ティセラは元々社交的なこともあり、こういった接客には真っ先に順応し、短期間のうちに常連の多くにファンを作ってしまった。
パッフェルは逆に接客は苦手だが、料理の腕前は抜群で、垂が先程言っていたケーキやコーヒーの仕込みは、短時間ながら彼女が行っていた。
セイニィはこの通り、接客はダメダメだが、そのツンデレさと不器用さ、恥じらいが却って常連客を萌えさせ、なんだかんだ言って指名の注文が多い。
一緒に来た牙竜とシャーロットも、オムライスにケチャップで「LOVE」と一言書かせたくらいだ。
「(基本スペックが殺人的に高い3人だからね。これで接客を覚えたら何処でも通用するよな……って、俺もうかうかしていられないか)」
ティセラ達の様子をニヤニヤしながら見守っていた垂だが、気が付けば明日香以降自分宛てのオーダーがないことに気付いた。
高みの見物、という訳にはいかないようだ。
「このウィンナー・コーヒー美味しいですぅ」
「……よかった。アインシュペンナーも、奥が深……いから。私は……メランジェの方が……好き、よ」
「このケーキも程良く甘くて、コーヒーの苦さと丁度合ってほっぺが落ちそうですぅ」
「……うん。生クリームの……甘さを控えめにし、てみたから……コーヒーに合、うと思う……」
「夜月にも欲しいですね、そのコーヒー。俺にはカプチーノをお願いします」
「『ぷらむきゃんぱす』へお帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様」
そこへ秋葉原の裏路地を忙しく歩き回り、自作ラジオ用の真空管やら何かよく分からない集積回路やらコードといったジャンク品をごまんと買った貴仁と、両手が塞がるほど中古のゲーム機本体を購入していた夜月も合流した。
メイド喫茶で一服しながら、思い思いの秋葉原観光は終わりを告げるのであった。
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