校長室
【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!
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一方、パレードの方は、というと。 846プロの宣伝活動のため白波 理沙(しらなみ・りさ)がハロウィンぽくオレンジや黒・紫をメインカラーに装飾し、コウモリの羽もつけてデコレーションされたホワイトマリンに乗ってパレードに参加していた。 赤を基調としたアイドル風のフリルいっぱいなハロウィン衣装に身を包んだ理沙が、綺麗な金髪のポニーテールをフルフルと振る。 「あああ……恥ずかしいわ、こんな衣装」 真っ赤な顔で恥じらう理沙の傍で、観客に笑顔で手を振っていたパートナーの愛海 華恋(あいかい・かれん)が理沙を肘で小突く。 「え? 理沙ってばスタッフのままで終わると思ってたの? ダメだよ、裏方の仕事だけで満足してちゃ!」 「華恋ー、騙したわね?」 ほんの少し涙目な理沙が華恋を睨む。 「ボク、騙してなんかいないよ? だって理沙が言い出したんでしょ? パレードに出るって」 理沙とよく似たアイドル風の衣装を着た華恋が悪戯っぽく笑う。ただし、こちらの衣装は明るく元気な彼女の性格を反映してか、黄色がベースである。 「華恋さんの言うとおりよ」 オレンジ色を基調としたアイドル風の衣装を着た白波 舞(しらなみ・まい)が会話に加わる。 「846プロのメンバーとして、こういうパレードにはアイドル風ハロウィン衣装で参加するべきよねっ♪ ほら、理沙もたまには846プロに協力しなさいっ!」 華恋と一緒に陰でこっそりと、このパレード参加用の衣装を作っていた舞が理沙に詰め寄る。 「は? アイドル活動? そんなのするつもりは無………」 理沙が舞に反論しようとすると、沿道からファンと思わしき声が飛ぶ。 「理沙ちゃぁぁーーんっ!!」 「……は、ははっ」 引きつった笑顔でファンに手を振る理沙。 華恋と舞はこういう事に平気な性格みたいで、観客に微笑み返し、手を振ったり、投げキッス等のサービスまでしている。しかし、自分はこういう衣装が似合っていないと思う理沙には恥ずかしいものであった。 理沙はこのパレードに出ようと言い出した自分をほんの少し後悔していた。 パレードの開始前……。 「ちょ、ちょっと待ってってば! やーめーてーっ!!」 「何言ってるの? 理沙? イコンの装飾だけで終わると思ってたの!?」 木に捕まってイヤイヤしている理沙を華恋が強引引っこ抜こうとしているのを、舞が理沙の衣装を手に持ち、じっと見つめている。 「だって! 私、イコンの装飾だけだって……今日、山車に乗るのは舞と華恋だけだって……!?」 「理沙、観念しなさいよ? 折角三人で出られるチャンスなのよ?」 自分の亡き姉に似ている舞が、諭すような口調で言う。 舞と華恋は既にハロウィン用の衣装に着替えているが、理沙は舞が持っている衣装を見て恐怖していた。 「そ、そんなフリル一杯の服、私には似合わないわよ〜!」 「似合う似合わないはお客さんが見て決めればいいだけでしょー!! ほら、舞? 手伝ってよ?」 華恋の呼びかけに舞がフゥと溜息をつき、 「仕方ないわね……理沙? 強行手段をとるわよ」 舞が理沙の衣装とカメハメハのハンドキャノンを手にユラリと理沙に近づいていく。 「なッ……? ま、舞さん……何を!」 「今、着ている服が無くなれば、この衣装しかないわよね……ああ、大丈夫よ? この衣装、理沙の3サイズを完璧に測って作ってあるから……」 「はい?」 舞が理沙の衣装をバッと見せ、 「この衣装に着替えてパレードだけに出るか……それともスプレーショットで服をボロボロにされて、帰りの道もこの衣装で帰るか……ね?」 「ね? じゃないでしょ!? それって脅迫じゃない!!」 「観念するのよ、理沙?」 腰に抱きついている華恋も理沙を見て、ニヤリと笑う。 「うわぁぁぁーーん! 助けてー、雅羅ーー!!」 「……今、呼んだ名前、明らかに縁起悪くない?」 この後、理沙は華恋と舞にひん剥かれ、現在の衣装に着替えたのであった……。 理沙は観客に手を振りながらそんな回想をしていた。 「うぅ……恥ずかしい。雅羅……助けてよ」 事前に雅羅に「私の山車に乗らない?」と声をかけていた理沙。その時は、今彼女が着ている衣装は雅羅に着てもらうつもりであった。 だが、雅羅は、「ごめんなさい! 整備から手伝っていた山車の方に乗らなきゃいけないの」と、理沙の申し出を断っていた。 「うー……」 「恥ずかしくなんかないわよ、理沙?」 舞が声をかける。 「観客を野菜に見立てればいいのよ?」 「そんな……無理だって……」 それでも舞の助言を受けて理沙は必死にイメージする。 「にんじん……大根……じゃがいも……」 ブツブツと呟く理沙を華恋が横目で見て、 「理沙? カレー食べたいの?」 そう突っ込むが、理沙は必死であり、スルーされる。 「人だ!」 「人が落ちてくるぞ?」 観客の数人(理沙にとっては野菜が数個)が上を見上げ口々に叫ぶ。 「……え?」 「きゃあぁぁぁぁぁーーッ」 「理沙! こっちに来るよ!?」 華恋が叫び、理沙が落下してくる人物を受け止めようと、ローグの身のこなしで山車の上を走りだす。 ―――ドサッ!! 「キャッチ成功!! ……て、あなた、雅羅!?」 「うぅ……ん……あら? 理沙?」 理沙が受け止めたのは、妖精……のような羽と衣装の雅羅であった。 「「「うおおおおぉぉぉーーッ!!」」」 見事な救出劇に、観客から拍手が起こる。 「何してるの?」 「何って……私、さっきまで祥子の飛空艇で花火撃ってて……足滑らせて……落ちて……」 「えっと……最初に乗ってた山車は?」 雅羅が目を伏せ、 「それからも落ちたわ……」 「……手つなごうか?」 二人は手を繋ぎ、事の顛末を見守っていた観客に、手を振る。 様子を見ていた舞が華恋に話かける。 「……何だか今ので少し恥ずかしいのが取れたみたいね?」 「理沙……きっと雅羅ちゃんと一緒にパレードに出たかったんだよ」 「結果オーライてところかしら?」 先ほどまで、衆目に晒されるこの姿を恥ずかしがっていた理沙も、既にそんな自分が無い事を驚いていた。 「どうしてだろう? 今は恥ずかしくないわ……」 理沙の呟きに雅羅が微笑む。 「恥ずかしがる事なんてないわ」 「え?」 「だって、とっても似合っているもの。その衣装」 「そ、そうかしら?」 「それを作った人、理沙の事をよく知ってる人でしょう。理沙に似合う様に作られた衣装を恥ずかしがるなんて、作った人に失礼だと思うわよ?」 「……そ、そうだね!」 これまで恥ずかしがってばかりいた理沙に、心の底からの笑顔が浮かぶ。 「その点……私は不幸がよく似合ってるもの」 凹む雅羅に、理沙が語気にやや力を込めて言う。 「雅羅だけが不幸じゃないわよ?」 「理沙?」 「それって、きっと考え方とか気分の持ち方次第で変わるって思うの。雅羅と会う前の恥ずかしがってた私みたいに」 「……理沙」 「パレード楽しもうよ?」 「うん」 その後、二人は笑顔で観衆に向かって手を振りパレードしていく。周囲の誰もが恐れた雅羅の不幸属性の発動もなく……とても平和に……。 だが、空から降ってきた雅羅を受け止めた理沙に、シャッターを切った男がいた。 「フフフ。素晴らしい。金髪の美少女同士が絡むと、絵が金色に輝いて見えるな!」 日本刀を一振り持ち、銀髪を後方でくくった軍服姿の男。加藤少佐と呼ばれるその男は、自身が押さえた現場を、自宅に持ち帰り、直ぐ様ネット上の自身のサイトに(彼なりの画像加工を加えて)アップした。そのサイトの名は『ゲキユリ』という。 このサイトに集まる数寄者達の間で噂はみるみる拡散し、理沙と雅羅には百合疑惑がかかってしまう。 やがて、自分を見る周囲の目の変化に気付いた理沙が、雅羅の不幸属性は時間差でもやってくるのだ、という事を実感することになるのだが、それはまた別の機会に話そう。