校長室
【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!
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話は現在に戻る。 いつまでも続くような夢の時間。その中で踊る仲間に近づこうとする影がある。 「いたずらはダメだよー。はい、お菓子あげるね」 「あ、お姉ちゃん。ごめんなさい……」 「いいんだよ、みんな綺麗だもんね?」 さりげなく子供に近づいて、手作りマカロンをプレゼントしたのは歩だった。 ティラノサウルスの上からお菓子をばら撒く円とは別に、歩も少量だがお菓子を持っていた。 子供を観客の中へと返した後、歩はまた箒に跨り、虹をひきながら空を飛び出す。その口に「幸せの歌」を口ずさみながら。 「(うーん、山車の近くはやっぱりちょっと危ないよね。今みたいに小さい子とかが近づいていかないか注意しておかなきゃ)」 そう上空から警備を兼ねて虹をひく歩が、ふと仲間達を見る。 「(あ、円ちゃんの御者の格好、男装するとイケメンだねー。パッフェルちゃんにもその格好見せてあげたいなー。マリカさんも綺麗だし、コルネリアさんもイングリットさんも気品漂うし、リンさんの宦官ダムも変身して可愛くなってるー!!)」 歩はハロウィンパレード前に皆の衣装チェックしていた、その中で当時と異なるのは亜璃珠くらいだった。 「亜璃珠さんも魔女かぁ……。うーん、でもきっと方向性は違うし大丈夫! あたしはあたしの個性を信じなきゃ!」 亜璃珠の仮装を見て漏らした歩の言葉に、亜璃珠が意味深に微笑んだ理由がわかったのは先程である。 「着替えるなんて知らなかったなぁー。あ、亜璃珠さん? また簡易更衣室に入った?」 暫くして亜璃珠は、シンデレラに対抗したのか、白のパーティードレスに魔女の帽子、といった感じで登場する。先ほどまでの和服とは良い意味で趣が異なる格好である。 盛り上がるパレード。 かぼちゃの馬車に施された電飾のせいか、待機中に少し肌寒かったのが嘘みたいな熱気である。 「熱気もすごいなぁ」 円は慣れない服を着てるせいか、首辺りがきつかった。 「ちょっとネクタイとかシャツとか緩めよう……」 シュルルとネクタイを緩め、第一ボタンを外す円に、獣のような視線を向ける人物がいた。 「(天国のお父様、お母様。美奈子は本日ハロウィンパレードに参加させる先輩方のお姿を撮影するという役目を任されました。夏が過ぎて寂しくなったなぁと思ってましたけど……秋も悪くないですね)」 愛用のデジカメを持ち、山車から展開されたダンスホールの傍を縦横無尽に走っていたのは、無地の浴衣を着た美奈子であった。これでも本人的には猫又のつもりである。 コルネリアから、パレードでの撮影係を頼まれた美奈子は、今日という日を心待ちにしていた。 『YES、IT’S MY DUTY』 誰に気兼ねすることもなく、コルネリアの許可も得て、美少女たちの姿を激写出来るのである。 水を得た魚。もとい撮影許可を得た美奈子に敵は無い。 「あ、お嬢様、それダンスはダンスでも、社交ダンスじゃないですか?」 日頃仕える主人、コルネリアを見て言った最後の台詞がそれである事からもご想像できるであろう。 今の彼女にとっては、それも些細なことであった。 「(今は撮影、1に撮影に、2に撮影、月月火水木金金です!)」 美奈子の頭にあるのは「可愛い子を探して走りまわり、写真を撮る」それだけだ。 デジカメのバッテリーもメモリーも完璧だ。溢れ出るガッツとアドレナリンが足りなくなる事も無い。一通り踊る仲間の写真を撮った。 ここから彼女の真なる戦いは始まった。 「(百合園の先輩方……歩さんもポイント高いですけど、やっぱり円さんですね。かの十二星華の一人、セイニィ・アルギエバ級の慎ましい胸元、まさに百点満点です)」 なんと美奈子はちーちゃんに乗った円に狙いを定めていたのであった。 「ちょっとネクタイとかシャツとか緩めよう……」 ―――ピィッキィィィーーンッ!! 円の諸動作に全身系を集中させていた美奈子に、聞き飛ばせぬ言葉など無い。 パレードにちょっかいを出そうとしていたモヒカンをすかさず蹴り飛ばし、ベストポジションへと走る。 「(ハロウィンハレード……荒廃したキマクの地に降臨した穢れを知らぬ乙女達。少し火照った白き肌に浮かぶ汗。そして汗が流れ星の光の様に滑り落ちる慎ましい胸……神様、今日の良き日をありがとうございます)」 高速起動に特化したデジカメからレンズが飛び出る。夜間用にナイトモード機能も強化してある。装備は十分だし、円がボタンを外し出してからまだ0.5秒しか経っていない。 「ビバ、ハロウィン!」 砂煙を上げながら滑り込んだ美奈子が、デジカメを円に向けてシャッターを切る。 ―――カシャリ! 撮るやいなや、直ぐ様、美奈子が誰にも見えない角度で俯きデジカメを確認する。 「うう……はぁぁぁ……」 至福の時は間もなくであった。顔がニヤケて仕方ない。 「あ゛……?」 映っていたのは円だが、肝心の部分が青い一本の髪により遮断されている。 「フフフ……私を撮りたいならいつでも言ってよね?」 美奈子が『リアル猫又』と異名を取りそうな、怨念に満ちた顔で振り返ると、そこに居たのは警備員の服を着たなななであった。 アホ毛がピンピン揺れている。どうやら自分のささやかな願いを邪魔したのはコレらしいと美奈子が気付く。 「真面目にお仕事しなさいって友達が五月蝿いからね! 覚悟しなさい! 盗撮魔!」 珍しく勘の当たったなななに、美奈子が反論する。 「ななな様……私、コルネリア様より頼まれた写真係です……」 美奈子が言うと、円が「まだ暑いね……もう一個外そうか……」とボタンに手をかける。 「!!」 サッとデジカメを構える美奈子。次外せは、何やら布切れが見えるのではないか? いや、寧ろ布切れなど無いのではないか? 一気に期待が高まる。 「ねー? なななを撮りたいんじゃないの?」 その行く手を阻むななな。 美奈子が右に行くとなななも右に、左に行くと左に……。 「(ええぇぇいッ!! ノーマルサイズは引っ込んでてよぉ!!)」