校長室
【2021ハロウィン】大荒野のハロウィンパレード!
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華やかな【かぼちゃの馬車と宦官ダム】の山車が過ぎ去った道に、一刻の静寂が訪れる。 警備員達に渡されていた行程表を捲ち次の山車を待っていた三鬼の前を、トコトコと道の中央へ歩いて行く二人がいる。 「さて、ヨミ! 始めるわよ」 漆黒のコート、長手袋、ロングブーツに顔を超霊の面で隠した死神のような姿をしているのは刹姫・ナイトリバー(さき・ないとりばー)である。その手には、処刑人の剣を適当な棒に括り付けた鎌っぽい武器が持たれている。 刹姫の隣を歩いていたのは、普段縛っている青髪をほどき、くすんだ白いローブ風の服で、バンシーの仮装をしていた黒井 暦(くろい・こよみ)である。 「ふ、分かっておるわ」 バンシーという仮装が、泣き叫んでる幸薄そうな女のイメージだからあまり気に入っていなかった暦であるが、今、口元に薄く笑みを湛えているのは、隣の刹姫が気合十分な影響を受けているからかもしれない。 暦は「『夜』を生きるこの私にこそ相応しいイベントだわ!」と今日を楽しみにしていた刹姫の姿を思い出す。 三鬼が、ふと足元を流れてくる涼しさに目をやると、道一杯にフワフワと霧が漂い始めている。 「これ……アシッドミストか!?」 酸を含む霧を放つスキルに、またトラブル発生かと考える三鬼。だが、その霧が無害なレベルまで濃度を薄めたものだとすぐにわかった。 「三鬼!」 「あ?」 大きな丸い耳飾りを付け、ハロウィン風に仕立てた服を着た魔威破魔 三二一(まいはま・みにい)が走ってくる。 「あんた、暇でしょ? 手伝ってよ!」 「三二一……俺はおまえと違って警備員だぜ? 忙しいに決まってるだろう?」 「だって、パレードはもう終わるじゃん!」 「まだ、終わってねえんだ」 「そう、だからじゃん!」 「どういう事だ?」 三鬼の手を三二一が握る。 「終わりまでキチッとするのよ! それにはあんたも来なきゃ!」 「おい!? 持ち場を離れたら……」 三二一が強引に三鬼の手を掴んで走りだしていく。 道一杯にアシッドミストが広がった時、その奥に大きなシルエットが見えてくる。 それを合図に、刹姫と暦が詠唱を始める。 「其は焔。有象無象を焼き消す劫火なり」 暦が瞳を閉じて手をあげていく。 「黒き浄化の炎よ、ナイトリバーの名に於いて命じる」 刹姫も暦に続き、ゆっくりと手をあげる。 「古の契約において、黒井暦の名の下に命じる」 「深き霧を晴らし、我らに示せ」 「刹姫達の詠唱が始まったな……いくぜ、てめえら?」 霧を行くピエロイコンのキングクラウンの中で、静かに出番を待っていた道化服姿のナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が呟く。今、キングクラウンという名のコスプレ衣装を着て道化に成り切ってる道化IN道化状態である。 「いつでもいいよ! しかし、こう盛り上がってるとなると卑弥呼も連れてくれば良かった」 電飾・カラーリングを秋葉原四十八星華仕様からハロウィン仕様に変更し、頭の上に小型飛行ユニットを載せた移動劇場に乗った弁天屋 菊(べんてんや・きく)が無線から聞こえるナガンの声に応える。今回は運転手とはいえ、菊もジャック・オー・ランタンの仮装をしている。 「キングクラウンは一人乗りだから、本来の30%しか出力が出ないが、パレードの行進ならソレぐらいが丁度いいだろう」 「ああ、しっかりと溶接とボルト止めしたジョイントだが、全開されたら外れるかもしれないしな」 ナガンが今一度、菊の移動劇場につけてもらったジョイントに括りつけたワイヤーを、グイグイと軽く引っ張ってみる。 菊の移動劇場は、客から見えない位置で休憩や着替えが可能なスペースを運転席側に作ってあり、運転席と直に話が出来る窓もある。また、そこには菊特製の握り飯とドリンクの入ったポットも用意されていた。 「大丈夫だ。パレードを牽引するくらいなら、何とか持つだろう」 「よし……準備はいいかぁ! おまえらぁぁッ!!」 菊が大声で気合を入れると、後方で声があがる。 「「「おおおぉぉぉーー!!」」」 「あたしもダンスのバランスを崩さないようにリキ入れて運転するからよぉぉ!! かぼちゃの馬車なんかに負けるんじゃねぇぇぞぉぉ!?」 「「「イェェアアァァァァーーッ!!」」」 「波羅蜜は?」 「「「ヒャッハーーーッ!!!」」」 ナガンのキングクラウンが、一歩ずつ、一本背負いに格好で菊の移動劇場を引っ張っていく。その前方に交互に詠唱していく刹姫と暦の後ろ姿が見えてくる。 一旦、息を大きく吸い込んだ刹姫と暦が、最後の発声と同時にあげた手を振り下ろす。 「「煉獄に広がる悪夢の劫火(ナイトメア・オブ・インフェルノ)!!」」 『禁じられた言葉』による魔力ブーストが図られた詠唱により、二人から発生した炎の嵐が一気に霧を払っていく。 「「「おおおぉぉぉーーッ!?」」」 炎がまだ宙や地表に残る中、姿を見せるキングクラウンに引かれた移動劇場。ド派手なBGMと共に、踊ったりお菓子をばらまいたりする人影が移動劇場に設けられたステージ上に現れる。 ついに、【いとお菓子】のパレードが始まったのである。 「ヒャッハー! ハロウィンだぜェ、暴れるぜェェェッ!」 頭には頭蓋骨のイラストが描かれた帽子を被り、黒の全身タイツに人間の骨のイラストが描かれたスケルトンのコスプレをする吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)が、流れだした音楽に合わせて、マイクを持ち、初っ端から全開で飛ばしまくる。 パレードの途中で山車(移動劇場)から降りて見物人を触れ合おうと思っていた竜司は、予め、同じ山車に乗るダンサー達と立ち位置を相談しておいた。そのためか、先頭の梯子付近に陣取っていたのである。 ビートの効いたBGMにマイクを持った竜司が激しく頭を上下(所謂、ヘッドバンキング)させる。 竜司はスキルの【激励】や【震える魂】で観客はおろか、仲間のテンションまでも上げていく。 「ヒャッハーーーッ!!」 竜司は太ってるので黒の全身タイツに書かれた骨のイラストが横に伸び、骨が異常に太く見えるも、客は盛り上がる。 「「「うおおおおぉぉぉーーーッ!!」」」 竜司がパレードに参加を決めたのはごく自然な気持ちであった。 「ダンサーを募集してるだとォ? なら、イケメンでしかも歌の上手いオレが出るしかねぇな!」 校内に張られたチラシを見て、そう即決した竜司は、同じ学校のナガンや菊に話をつけての参加だった。 「ヘイッ! ヘイッ! ヘイッ! ヘイッ!」 頭髪の無い頭でヘドバンしながら観客を一気に盛り上げていく竜司。 竜司が移動劇場の先頭に立つなら、その端に立つのが、佐伯 梓(さえき・あずさ)とカデシュ・ラダトス(かでしゅ・らだとす)である。 「ねえねえ、カデシュ。この格好、腰が曲げられないし座れないし、おまけにしゃがめないよー」 全身を包む一本の白い柱、もとい『ロウソク』の仮装をしていた梓が、薄茶色のシャギーの髪型をした天使のコスプレ姿のカデシュに泣き言を言う。 ニコニコしながら、観客にお菓子を投げていたカデシュが梓のSOSに振り返る。 「視界も狭くて首も痛いよー」 「仕方ないですね、我慢してください」 「配るお菓子が持てないよー。持たせて−!」 梓がカデシュに、ロウソクの両端から出た手をバタバタと動かす。動かす、と言っても、肘まではロウソクの中に収まっているので、可動範囲は狭い。ロウソクからは嵌め込んだような梓の顔、手、足首から下以外出ていない。この仮装に着替えた梓は、仲間たちに担がれるように舞台に上がり、学芸会の木の役の人みたいな、現在のポジションに置かれたのである。 「……」 カデシュは仮装をした時、梓から言われた言葉をふと思い出していた。 「守護天使だからかー。何にもひねりがなくてつまらないね!」 「……あなたに言われたくありません」 ペシリッとロウソクから出た梓の顔にお菓子を投げるカデシュ。 「うわあああー。いたいいたいー」 「アズサ、そんな格好でよく手作りチョコやクッキーを投げる、なんて言えましたね?」 「投げられるよ!」 梓が手に持ったクッキーを観客の方へ投げようとする。 「エイッ!」 ペチ……。 梓から1メートル程の地点に着地するクッキー。当然、移動劇場内である。 「……」 「はぁ……わかりました。投げるのは僕がやりますので、アズサは観客から投げられたお菓子を受け取る係をお願いします。そういうパフォーマンス、出来るんでしょう?」 パァァと梓の顔が明るくなる。 「うん!」 その時、梓の体に客から投げ入れられたお菓子がぶつかる。 ーーーボッ!! 通常は消えているロウソクの頭部分に、【火術】で一瞬だけ火を灯す梓。 「お!?」 投げてみた観客が驚いた顔をする。 「トリックオアトリート!!」 梓が満面の笑みで手を振る。頭の火は一瞬だけ点火した後、すぐに消える。 「あの、ロウソク。面白いぞ?」 「火がつくんだって!」 「投げようぜ!?」 ヒュン、ヒュン、ヒュンッ……。 ボカッ、パコッ、ガンッ!! 「カデシューーーッッ!? 助けてーーー!!」 観客達が投げ入れるお菓子の集中砲火を浴び、『的』と化す梓。 手があまり動かないため上手くキャッチ出来ず、フルボッコ状態である。 カデシュは梓に当たりステージ上に落ちていくお菓子を見て、ダンサーの皆が踏んだりして危なくないよう隙を見て拾い出す。 「いいじゃないですか? お菓子一杯貰えてますよ?」 カデシュが足元に落ちたバームクーヘンを手に取る。 「これって、的になってるだけじゃないーーー!」 お菓子でボコボコになりながらも、健気に【火術】でロウソクの頭に炎を点け続ける梓。 この後、偶然手にキャッチしたお菓子をつまみ食いしようとした梓に、カデシュが今拾ったやたら重量感のあるバームクーヘンを無言で投げつけたのであった。