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リアクション
第一章
「――たくさんの人が集まったくださいましたね」
宮殿に集まった掃除のスタッフを見ながら、アイシャ・シュヴァーラ(あいしゃ・しゅう゛ぁーら)は満足そうに頷きました。
「これなら隅々まで綺麗にお掃除できそうです」
けれどその中にいた見覚えのある姿に目を見張り、慌てたように駆け寄ります。
「アムリアナ様、どうして!?」
「……アムリアナではありません、ジークリンデです」
そう、アイシャを慌てさせた来訪者はジークリンデ・ウェルザング(じーくりんで・うぇるざんぐ)でした。
けれどジークリンデ当人は何でもないことのように名乗って軽く頭を下げました。
「私は宮殿外壁のお掃除をさせていただきます」
「お掃除……」
まさかジークリンデに掃除をさせるなど、とアイシャは女官たちを振り返りましたが、皆一様に恐縮した様子。
彼女たちでは止めきれなかったのだろうという事がすぐにわかりました。
アイシャだって「帰ってください」などとは口が裂けても言えません。
まして彼女は今フリーターとして暮らしていて、今回は正式にアルバイトをするために訪れたのですから。
でも、それでもお掃除なんて、と言葉を失うアイシャに声をかけたのは、朝霧 垂(あさぎり・しづり)でした。
「いいじゃないか、人手は多いに越したことがないだろう?」
「垂さん……」
「みんな自ら宮殿を掃除しようなんていう立派な女王の支えになりたいのさ。俺たちシャンバラ教導団第四師団メイド部隊も、助太刀するぜ!」
「ジークリンデ様の護衛ならお任せください」
隣から酒杜 陽一(さかもり・よういち)も言葉を重ねる。
「ロイヤルガードの名にかけて、しっかりお守りしますから」
その他のロイヤルガードたちも同様に頷くので、アイシャも戸惑いながらも認めることになりました。
信頼できるみんながついているのですし、とアイシャは改めてジークリンデに向き直りました。
「それではジークリンデ様、よろしくお願いいたしますね」
「ええ、一生懸命取り組ませていただきます」
その言葉にアイシャは頷きます。
と、そこへ遠慮がちな声が聞こえてきました。
「あの、私たちも……」
おずおずと声をかけてきたのは葉月 可憐(はづき・かれん)とアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)でした。
以前アイシャに手向かったとして退学処分になり、アカデミー預かりになっていた二人でしたが、今回の知らせを聞いて少しでもアイシャのお手伝いが出来ればと訪れたのです。
「一緒にお掃除とかさせてもらえたらなって思って……」
「本業はメイドですから、お掃除は得意です」
笑みを作りながら、真剣な声で頼んでくる二人にアイシャは笑って見せました。
「それは歓迎です。隅々までお掃除、お願いしますね」
「は、はい!」
思いがけない返事だったのか、二人の笑顔がぱあっと輝き、何度も首肯するのでした。
さて、そろそろ分担も終わったでしょうか、とアイシャが辺りを見ますと、女官たちが集まって何かをしています。
「いいですか、メイドというのは主人のお手を煩わせることの内容先々まで見通して……」
女官たちを集めて滔々とお小言を言っているのは沢渡 真言(さわたり・まこと)でした。
メイドとして女王様にお掃除をさせてしまうなど言語道断とばかりに、メイドとしての心構えを説いていた真言を、アイシャは苦笑して止めました。
「そのあたりにしておいてあげて下さい、真言さん」
「ですが、女王様……」
「反省しているなら次に活かせばいいだけのこと。それに、私がやりたいと言い出したんです、気分転換にもなりますから」
ね、と微笑んだアイシャは真言の手を取りました。
「それと、良ければ真言さんのようないいメイドさんにも手伝っていただけたらきっと宮殿中が綺麗になります」
そう言われてしまっては真言も応えないわけにはいきません。
「わかりました、誠心誠意努めさせていただきます!」
大きく頷いて、掃除への意気込みを新たにしました。
そして改めて分担を確認すると、それぞれが掃除を始めるべく宮殿中に散っていきました。
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