イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

古代兵器の作り方

リアクション公開中!

古代兵器の作り方

リアクション

     ◆

 どの建物も、規模が大きくなればなるほどに、管理をするのは大変になるのはいうまでもないが、大型のショッピングモールなどになっては、一流企業のそれと言って遜色ないほどの管理体制を保有している。
取り残され、閉じ込められた中には、自力で物事を把握しようとする者も中にはいる。
草薙 武尊(くさなぎ・たける)がその者であり、彼は今、管理室の前にいた。管理室、とは言っても、その旨中には多くの機材が格納されており、テレビのモニターが何台も設置してある、いわば監視室のような部屋である。急な事態が為に開け放たれていた管理室の中に入り込んだ武尊は、整然と並んでいる監視モニタへと目をやっていた。
「一体、今この場では何が起こっているというのだ……」
 状況が全く飲み込めていない彼は、頻りにモニタを見回し、各フロアの状況を探っていた。が、大勢が退去した後のモール内はほぼ人がいない為、何が変わることもない映像が映し出されて続けている。
「どうやら我と、少数以外この中にはいないと見受けるが……さて、どうしたものか。うん?」
 そこで彼は、何かを見つける。本来、見つかるまでにずいぶんと時間がかかるのであろう、事態の根源を発見する。
「ふむ、あのお嬢さんが今回のこの事件の犯人と言うわけか…」
 一人納得していると、そこで彼のいる部屋の扉が開く。
「ん? 先客がいんかい?」
 扉を開いたのは静麻。後にはレンが続いて部屋に足を踏み入れた。
「あ、いや、その……我は決して怪しい者ではないぞ。ただちょっと、何が起こったのかが気になって、その、部屋が空いていてからつい、その…」
「別にお前をどうこうするつもりはない。ただ少し、この事態の収拾をする為に此処へ来ただけだ」
 レンは事も無げにそう呟くと、彼の隣にある椅子へと腰をおろした。
「あぁ、あったあった。まずは此処の見取り図だな。通路、通気口に水道管。配線の流れは良いとして――ま、こんなとこで充分だろ」
 二人は手際よく必要なものを揃えると、それぞれ調べ物を始める。
「通路はなんとなくわかるとして、後はあいつらの現在地と、避難優先者を探すだけ、ってこったな。そっちは頼んだぜ」
「わかった。が、しかし、これは骨が折れるぞ。何よりカメラの数が尋常ではない。この中からラナロック、避難優先者、先行しているやつらを探すのはきついな」
 少しだけ面倒そうにレンが呟き、以降二人は黙々と互いの作業に集中する。静麻は携帯で海と連絡を取り、脱出経路の確認を、そしてレンは監視カメラ一台一台をくまなくチェックしている。何がなんだか全く状況が読めていない武尊だったが、しかし彼はレンに声をかけた。
「犯人を捜しているのか?」
「まぁ、そんなところだ」
「いるぞ」
「……何?」
「いや、我が此処に来たときの事だったが、さして時間も経っていないからあまり遠くまでは行っていないだろう」
 彼はそういいながら、自らの記憶を頼りに、自分の前に備付けてあるボタンを数回押した。と、そこでスクリーンにラナロックの姿が現れた。
「彼女ではないのか?」
「ああ、そうだ……大手柄だな」
「そ、そうか? 我が少しでも役になったのならそれで良いが……」
 さすがにそのやり取りをしていた当の本人、レンにせよ、突然の展開で二人を見ていた静麻にせよ、武尊をまじまじと見やる。
「お、そうだ。一応報告してやらねぇとな。――おう、海か? 何度もすまねぇな。犯人さんの居場所が割れた。今から指示出すから、そこは避けて通った方が良いぜ。それともあれか? やりあうのか?」
「ところで――何をしていたんだ、こんなところで」
「うむ、試食の食べ歩きをしようとしていたのだ。何より食費が浮くのでな。これからメインディッシュと思っていた矢先の出来事だけだっただけに、やや口惜しい感は否めないが、緊急事態では仕方がない」
「そ、そうか……」
 素直にそう言って本当に悔しそうな顔をしている武尊を横に、思わずレンは言葉を呑む。
「それは言いとして、後は何か見たのか?」
「いや、さすがにまだ全部を見ているわけではないのでな。把握は出来ていない。後ろの彼が話しているのは彼等なのだろう?」
 この僅かな時間で、武尊は機材を巧みに使いこなしている。再び数回ボタンを押すと、今度は電話をしている海たちの姿がモニタに映し出された。
「我は原因究明を考えていたが、解決に協力が出来るのであれば、微力ながら尽力するとしよう」
「助かる。微力などではないと思うがな」
 それは一種、良い意味での予想外だったのだろう。レンと静麻は肩を竦め、苦笑を浮かべる。





     ◆

 噴水付近のベンチでは、今も懸命にセラエノ断章の治療が続いていた。『ただ見ているだけでは邪魔だろうから』と、ルイは自ら少し離れたところで一体を見張っている。
「それにしても、よくあの出血量で死ななかったね」
 関心するような、呆れるような物言いでセラエノ断章がウォウルに言うと、彼は「偶然ですよ」と答えた。どうやら少しは余裕が出てきたのか、声の張りが出てきている。とは言え、肺に開いた穴が塞がっているわけではないので相変わらず息苦しそうだ。出血もとまっているわけではないので、セラエノ断章の行為は、その場しのぎでしかない。と、ルイが咄嗟に身構える。どうやら近くに気配を感じたらしい。
「二人とも、誰か来ますよ……!」
 彼の言葉に表情を引き締めるセラエノ断章と、それとは対照的に随分と落ち着いた様子のウォウル。
「ウォウルさん!!!!」
 声の主は託である。必死にやってきたのか、彼はウォウルたちの姿を見るや、膝に手を置いて肩で息をする。
「敵――ではないようですね」
「えぇ………彼は、力強い味方、ですよ」
「そんな事よりウォウルさん! 大丈夫なの!?」
 ある程度息が整ってきた彼は、そう良いながらウォウルのもとへとやって来る。
「ご覧の通り、生きていますよ」
「良かった」
「良くないよ」
 託が胸を撫で下ろすが、すぐさまセラエノ断章がその言葉を否定した。
「ぜんぜん良くない。これはあくまでも騙してる様なものだよ。すぐにでも病院に行ってちゃんとした治療を受けないと、まだ良かったとは言えないよ」
「え……?」
 彼女の説明を聞いて再び顔を強張らせる託と、苦笑しながら明後日の方を向くウォウル。
「こんな状況じゃなきゃ、此処で応急処置なんてしちゃいけないくらいの傷なんだと思うよ。セラはお医者さんじゃないからよくわからないけど」
「そんな――でも」
「彼は痩せ我慢が上手なんですよ」
 再び周囲を警戒していたルイが、彼等の方を向く事無く託へと言った。
「それは酷い、言われようですね。ポーカーフェイス……とでも言って欲しい、ものです」
「どっちにしても、まだまだ油断しちゃ駄目だからね」
「じゃあ、僕は何が出来るかな」
「ルイと一緒に警戒してくれると助かるな。ルイ一人で此処まで広域は、さすがにフォローしきれないしね」
「えぇ、先ほどから、私が治療を受けたいくらいです。でも、貴方がいてくれればそれは半減します。助かりました」
「わかったよ」
 託は「その前に――」と言って、ウォウルの前に禁猟区を張る。そしてそのままその足で、ルイの反対側へと向かうのだ。
「(良かった、最悪の事態はどうにか免れたみたいだ。でも、まだ安心は――)」
 深刻そうな顔で考え込む託は、そこで新たな気配を感じる。が、どうやらそれは、危険なものではないようだった。
「二人、近づいてるねぇ……おそらくは敵じゃない。ラナさんが犯人なら、絶対誰かと手を組む、なんてことはありえないでしょ。あの人が怒ってたり暴れてたら、そんな事は言わないよ」
「ご名答……」
 さすがに彼の発言にはウォウルも関心する。そして託が察知した気配が近づき、その姿を四人の前に現した。
「此処じゃない? ねぇ、そこに怪我人いる?!」
 走ってきたルカルカは、誰にともなくそう尋ねる。手にはどこから持ってきたのか、衣料品やら様々なものが握られていた。
「あ、此処! 此処にいるよ!」
 セラエノ断章が大きな声で返事を返すと、ルカルカとダリルがセラエノ断章とウォウルのいるベンチへとやってくる。ウォウルの様子を見たダリルは、深刻そうな表情を浮かべる。
「チアノーゼ……酸素欠乏か、もしくは多量出血か。不味いな」
「おやおや、医療従事者の方……ですかねぇ」
「そこまで大袈裟なものではないが、な。名は何と?」
「ウォウル、ですよ。ウォウル・クラウン……。それより、鎮痛剤はありませんか?」
 彼の発言に対し、ダリル、ルカルカ、セラエノ断章が彼を睨み付けた。
「冗談ですよ……皆さん、ジョークが通じないですねぇ……」
「このタイミングで使うには、聊か不適切な冗談だよ」
「全くだ」
「そうだよ!? そんな状況で動いたら、本当に死んじゃうんだよ!?」
 言いながら、ルカルカは持っていた衣料品を細長く切って、その端を次々に結んでいた。なんとも早い手際で作り、それとは別に適当なサイズに切った布も容易する。
「よし、変わろう。出来れば止血もしたいが……機材がないからな、出来るところまでしかやれんぞ」
「外に飛行艇止めてあるから、それで病院まで搬送するよ。だからこれで一安心!」
 セラエノ断章に代わってダリルがウォウルの前にやってきて、今度は彼の傷口を確認し始める。
「弾丸はなし、貫通したか。いい場所に当たったな」
「えぇ、奇跡ですよ」
「ただやはり出血量と全体的に酸素濃度が足りていないんだろう。意識がぼんやりするときはあるか?」
「時々、ですがね――」
 ダリルが問診を始めたのを、ルカルカはひたすら様子を伺っているだけだ。と、今度もルイと託が誰かを発見する。が、やはり二人はそこまで警戒をしている様子はない。
彼等の元に現れたのは、海から連絡をもらってやってきたリカイン、狐樹廊と、血の何を嗅ぎ分けてやってきたグラキエス、アウレウス、ゴルガイスがいっぺんにやってきたのである。が、入り口は勿論、突入のタイミングまで別だったその五人が、偶然にその場をに集まり、ウォウルを囲んでいた。
「大丈夫なのか、こいつ」
「見た感じ、大丈夫そうよね……」
「胸に穴開いているがな」
「ほう、人間とはかくもか弱い存在と聞いていたが、胸に穴が開いても命を落とさぬ人間もいるのか」
「……それよりも――」
 それぞれが一通りの感想を述べると、狐樹廊が話を切り出した。
「貴方の身に、そしてこの空間に、何があったのです? あぁ、特に話していただかなくとも結構。手間は手前で適当に残留思念でも読んでおきます故」
「それは、ご遠慮願いますよ――」
 よろめきながらも半身を起こした、ウォウルはにんまりと笑顔を浮かべる。今までの力ない笑みではなく、いつも通りの笑み。不気味で、歪な偽りの笑顔。
途端、彼を囲んでいた面々の顔が固まった。が、それもすぐさまダリルとルカルカによって止められる。
「はいはい、怪我人はちゃんと寝てないと駄目だよ。はい、ダリル。一応アルコールに浸しておいたから、患部はこれで拭けると思う」
「すまんな。さて、横になって貰おうか。それと、全員には悪いが彼の手足を押さえて置いてくれ。何せ急場凌ぎだ、医療用のアルコールではない上に患部を拭くわけだ、それなりの痛みがあるが、耐えろよ。男の子だろう」
 ダリルがアルコールに浸されていた布をピンセットで拾い上げると、そのままそれをウォウルの胸、傷口の周りを吹き始める。暫くはウォウルの痛みに耐える悲鳴が聞こえるが、それも長くは続かない。消毒後はルカルカが細く裂いておいた布をきつくウォウルの胴体に巻き上げ、応急処置の止血をする。
「それで――あなたのパートナー『ラナロックさん』が、あなたを撃ったんだな?」
「それでもパートナーなのか。主を脅威に晒す等、パートナーの風上にも置けんやつだ」
 グラキエスの言葉に続くようにして、アウレウスが不機嫌そうに呟いた。
「しかし彼女とて、何かしらの原因があったのではないのか?」
「そうよね、何かしら引き金があるんだろうし、そういうの。それとも……」
「何か痛んだものでも食べた、とか?」
 ゴルガイスの発言に賛同する形で考え込むリカイン。その言葉に被せて質問したのはセラエノ断章である。
「突然に、と言うのはあっている様ですね」
 何やら含みを持ちながら、狐樹廊が言うとウォウルは彼を一度睨み、再び笑顔を浮かべる。
「他人のプライベートを覗くのは、あまりいい趣味とは言えませんよ?」
「………」
「僕やラナの情報を探るのは良いですが、嘘は言いませんよ。何せここまで大事になっているのだから。信じてくれとは言いませんがね、個人の事を覗くのは、少しお行儀が悪いと思うんですよ」
 ニヤニヤと、彼はなおも呟き続ける。
「ま、まぁまぁ。それより貴方に聞きたいのは、パートナーさんの暴れている目的に心当たりは? っていう事よね」
「心当たり、ですかぁ……生憎僕にはわからない事です」
「ただ暴れている、と、そういう事か?」
 どうにも腑に落ちない、とばかりにグラキエスが眉を顰めた。
「この地に恨みはない。僕に恨みがある場合は既に僕を殺しているでしょうし、此処にいるでしょう。動機としてはどれも決め手にかけますから」
 何かしらヒントを、と思っていた一同は、そこでがっくりと肩を落とした。どうやらウォウル自身、今回の出来事の確実な原因を知るわけではない様だ。