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空京古本まつり

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空京古本まつり
空京古本まつり 空京古本まつり

リアクション

 古本まつりは個人で出品ができる場でもある。手製の同人誌や不要な本、小物や雑貨を売る人もいる。
 弥涼 総司(いすず・そうじ)は自作同人誌【セクシーコンパニオン外伝 エロいよ!! 雅羅さん】の仕上げの真っ最中だった。
「結局、ペンネームは足ェロ気味夢人(あしぇろぎみむと)のままで良いんですね」
 パートナーの季刊 エヌ(きかん・えぬ)に念押しされて「ああ」と応える。空京万博で雅羅の絵を描いたのがきっかけで、ハマって描いた同人誌だ。それを空京の古本まつりで売る計画を立てていた。
「オレの漫画家デビューだ。目一杯宣伝するぜ」
 同人誌と共に、ポスターにのぼりにハッピにハチマキにと可能な限りの用意をする。懐は痛んだものの売れれば取り返せると踏んだ。
「後は雅羅ちゃんが来てくれると良いんだが」
「それは運を天に任せましょう。今は準備です」
 エヌに促されて、2人は作業に没頭した。
 
 エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)はニヤつきながらクトゥルフ神話関連の本を創作していた。
 パートナーの緋王 輝夜(ひおう・かぐや)は下書きを見ながら首をかしげている。
「ホントにコレを売るのか? あんまり売れそうにないと思うが……」
 言葉はオブラートに包んであるが、内心『こーんな読んだら正気を失いそうなヤヴァイ本、誰が買うってのよ』と毒づいている。
「ふふふ、たまにはこういうのも楽しいでしょう? そうそう当日は店番をお願いしますね」
 口調は丁寧だが、嫌と言わせる気は無い」
「うぅ……なんであたしが……」
 輝夜は我が身の不幸を呪った。

「紙に布に……皮でも作ってみるかなぁ」
 師王 アスカ(しおう・あすか)は手作りブックカバーの製作に精を出していた。
「金属……は無理よねえ。ビニールは味気ないしぃ、毛糸で編んでみるのも面白いかもぉ」
 考えられる限りの材料でブックカバーを手作りしていく。全部古本まつりの会場で売る予定だ。
 画家として評価を高めているアスカだけに、デザインは斬新ながらもセンスの良さは抜群である。問題があるとすれば……。
「いくらにするかなのよねぇ。材料費も出ないんじゃバカみたいよねぇ。と言って高過ぎたんじゃ売れ残っちゃうしぃ」
 出来あがったブックカバーを前に、値付けに悩むアスカだった。

 空のダンボール箱に次々本を詰めていく。
「これで全部?」
「そうですわ」
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は、うっすら汗を浮かべながら作業を終えた。
 ライトノベルや漫画を中心に150冊余り。これを空京の古本まつりで売る予定だ。
『どこかの古書店にでも持ち込めば早いのに』とアデリーヌは思ったものの、楽しそうにしているさゆみに口出しする気は無い。
 それに多少なりとも部屋が片付くのは、アデリーヌにとっても悪いことではなかった。
「儲からなくても良いのよ。ちょっとしたこづかい稼ぎね。それで帰りにファミレスでご飯でも食べましょ」
 嬉しそうに話すさゆみを見て、アデリーヌもどこか心が踊る。
 
 想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)とパートナーの想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)も同様の作業に没頭していた。
「ねぇ、こんな本、売れるの?」
 瑠兎子はひとつのダンボール箱に入れた本を取り出す。いくらか黄ばんでカバーも破れかけていた。
「それはタダで出すんだ。客寄せになるだろ」
 瑠兎子は「そっかー」と箱に戻す。
「そうそう、雅羅ちゃんに店を出すこと伝えておいたよ。多分行くからって」
「そうなのか……」
 夢悠は入れかけた写真集をさり気なく横に置く。目ざとく瑠兎子が取り上げる。
「まーたこんな本、買ったのね」
「間違えて買ったんだよ。一度見て飽きたし売ろうと思って」
「そのワリには読み込んであるじゃない? ほら」
 瑠兎子が写真集を置くと、あるページでパタリと開く。
「ふーん、こんなポーズが好みなんだ。これは雅羅ちゃんにも知ってもらわないとね」
 ダンボール箱にしっかり収めるのを見て、夢悠は渋い顔をした。

 蒼空学園のコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)も古本まつりでの出店を考えていたが、彼の場合は目論見が異なっていた。
「はい……はい……承知」
 携帯電話をしまうと、パートナーのラブ・リトル(らぶ・りとる)にOKマークを示す。それを見たラブもウインクで応える。
「山葉校長が了解したのなら、とりあえず手当たり次第……よね」
「ああ、格好だけは揃えないとな」
 コアとラブは数日かけて古本屋を見て回る。そこで古代遺跡やパラミタの伝説に関する本などを買いまくった。

 アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)は本を読み終わると、マスターであるルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)を見る。
「他にはないのですか?」
 自分が英霊になる前のことに興味を持ったアルトリアは、ルーシェリアに頼んで本を集めてもらっていた。
 暇な時間に少しずつ読んでいたが、それも全部読み終えてしまう。
「そうねぇ。図書館に行ってみましょうかぁ」
 ルーシェリアはふと思いつく。
「そう言えば、もうすぐ空京で古本まつりが開かれるんですねぇ」
「古本まつり?」
 アリトリアには縁のないものだったが、ルーシェリアに本がたくさん売りに出されると聞いて興味を持った。
「行きますかぁ?」
 アルトリアは嬉しそうにうなずいた。

 リン・リーリン(りん・りーりん)は送られてきたメールで売却価格を確認した。
「おー! なかなか高く買ってくれたのね。じゃあ、OK……っと」
 承諾のメールを送ると、リンの口座に本を売った代金が振り込まれる。マスターである刀村 一(とうむら・かず)のコレクションを売ったお金が。
 帰ってきた刀村一が驚愕したのは言うまでもない。人間、驚きすぎると何も言えなくなると言うが、この時の刀村一がまさに“それ”だった。
「リ……リンちゃん?」
 素早く事態を察した刀村一はリンを呼ぶ。お菓子の袋を抱えながら姿を現す。
「売ったよ」
 あっさり言い放つ。
「じゃあ、そのお菓子は?」
「売ったお金で買ったの」
「そうか……」
 ガックリ肩を落とす刀村一に、リンは追い討ちをかける。
「執事になってモテたいっていったのカズちゃんじゃない! だからそれに関係ない本は売ってお金にしなきゃだめなの!」
「ま、そうなんだけどね」
 リンが売り払ったコレクションは、刀村一が半生をかけて買い集めたロ○コン系の本である。ロボコンでないのは言うまでも無い。
「えーと、どこに売ったかだけでも教えてくれないか?」
 リンは腕組みして首を振った。
「カズちゃんの考えはお見通しなの! 買い戻す気でしょ、わかってるの!」
 刀村一は空京で開催される古本まつりを思い出す。たくさんの古本屋が出店しているあそこであれば、まとめて探せる上に、新たにコレクションになりそうなものが見つかるかもしれないと考えた。
「わかった。もう良いよ。リンちゃんの言うとおりだからね」
 表面では納得したフリをして、古本まつりの情報チェックに励んだ。