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悩める夢魔を救え!

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茸狩りへ行きましょうその1

 まず口火を切ったのはルカルカであった。

「ルカはトレジャーセンス、博識が使えるし軍人だから、まず先陣を切って様子を見てくるわ」

「アコがサポートするし、バッチリね」

アコが応じると、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が二人に声をかけてきた。

「私も同行するよ。すばやさが役立つかもしれないし」

「オッケー、がんばろう!」

「えーっと、それでは3人の方々、お願いいたしますわ」

3人は緊張の面持ちで霧の中に足を踏み入れた。軽いめまいに似た感覚を覚え、次の瞬間落ち葉のいっぱい敷き詰められた森の中に3人は立っていた。

「……ちょっとエレベーターに乗ったときみたいな感じね」

ローザマリアの言葉に、ルカルカとアコは頷いた。

「こちら瑛菜よ。ご協力ありがとう!」

瑛菜の声が夢線機から聞こえてくる。

「瑛菜の願いならば喜んで!」

ローザマリアが応じる。

山の中なのか、ゆるい傾斜地で、ところどころ急な斜面がある。急斜面の所々に、径1メートルほどの穴がかなり間隔をあけて散見される。向こうのほうの穴から、50センチほどの巨大なスズメバチに似た感じのハチが這い出してくると、大きな羽音を立てて飛び立っていった。

「ちょうど出て行ったわ。あそこにしましょう」

ルカルカが言い、3人は木立を伝っていまハチが出て行った穴に向かった。その合間にもほかの巣のハチが巣のごみを捨てに入り口に顔をのぞかせたり、巣穴に帰ってくるなどしており、その都度見つからないよう身を潜める。巣にたどり着くとルカルカは種モミマン入口に植えつけ、入口を守るよう命じた。ついで3人が中に入ると、アコがライトを持ち、そのほかに光の指輪を使って明るさを確保した。ルカルカが氷術で後方に3重の氷の壁を作り防壁とした。アコが穴の真ん中あたりの高さにザイルを張る。

「ちょっと古い手だけど、なかなか有効なのよ」

「たいしたものねえ。手早いわ」

アコの言葉にローザマリアが言った。

「こうしておけば、蜂が戻ってもすぐにわかるし、対処するときの時間稼ぎにもなるわ」

ルカルカは言って、洞窟の奥へと進んでいった。光は十分にあり、一本道でもあるためすぐに最奥部の茸栽培床が見つかった。甘い芳香を放つ発酵した香草の培地に数種類の茸が発生している。うち何本かが紙にあったように青い光を放っている。

「ああ、これだわ」

ローザマリアは言って、光るきのこを摘み取った。切り口が薄い青色にすうっと染まる。見た目はなんだか大振りのマッシュルームといった感じだ。ルカルカが茸の写真を撮る間に、アコとローザマリアは6本ほどの茸を収穫した。そこへ種もみマンの甲高い警告が聞こえてき、氷の板が砕ける音が聞こえた。

「帰ってきたわ! ルカとアコが足止めをするから、この写真と茸を持って外へ!」

「わかったわ、気をつけて!」

ローザマリアがゴッドスピードで敏捷性を上げ、光学迷彩と隠形を使い姿と気配を消し、様子を窺う。同時に最後の氷壁が砕け散り、ハチが突っ込んできた。同時にアコがロケットパンチでハチを吹っ飛ばし、次いでサイドワインダーで矢を飛ばし、ハチの羽を洞窟壁に縫い付けた。ローザマリアはその隙を縫って洞窟の外へと飛び出した。もがくハチが狭い洞窟内で手当たり次第に針をつきたてようと腹をうねらせる。

「あまり効かないかもだけど」

ルカルカはハチにヒプノシスを使った。

「お・や・す・み」

アコがハチに言って、ルカルカとともに巣から飛び出した。即座にローザマリアが夢線機に向かって呼びかける。

「任務完了。ルカルカ・ルー、ルカ・アコーディング、ローザマリア・クライツァール帰還願います」

3人は空間ににじみを残して夢世界から脱出した。

 同じく茸採取担当の佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、一人夢見るような表情を浮かべ、楽しそうにしていた。

「夢の世界にあるというキノコ……興味深いねぇ。

 どんな味なんだろう。どんな効果があるのかなぁ。是非ともゲットせねば!」

「メアテネルさんを助けるためにいくのが本来なんだから、脱線しすぎちゃダメ」

真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)が弥十郎をつっつく。

「別世界のキノコ……考えただけどもドキドキするな」

弥十郎は上の空だ。転送された先で真奈美が辺りを見回してきょろきょろする。

「へぇ、これが夢の世界かぁ。あんまり普通の森の中と変わらないね。

 ……夢の中でおかしな事をしたら、誰かの夢で笑われちゃうのかな??」

弥十郎がぼんやりした表情で蜂の巣のほうを見ている。真奈美はちょっと試してみたくなった。目をむき、両手をウサギの耳になぞらえ、激しく跳ね回ってみる。

「あらぶる兎のポーズ! ……なーんてねっ」

「……ぷ! 何してるんです」

蜂の巣を観察していたはずの弥十郎が、こっちを見て声を立てないように笑っている。真奈美は真っ赤になった。

「ななな…… なんでもないよ! 行こ!」

「観察を元に行動予測と記憶術で、パターンをある程度つかんだよ。

 このタイミングなら大丈夫だろう」

弥十郎が先頭に立って手近な蜂の巣へともぐりこんだ。奥の堆肥の上に発生したきのこから、慎重に夢幻茸を3つほど選び取ると、ひとつの茸の傘の端を少し齧りとって味を見る。

「おお、これは!!」

弥十郎の幸せそうな表情を見て、真奈美が呆れたように上を向く。

「君はほんとに料理とか、薬学とか、そういう関連の事には極端にポジティブになるよね?

 ……むしろ無謀と言ってもいいね」

弥十郎がにやりと笑う。

「君だって、さっきのカッコ面白かったよ?」

「いやいや、あれは……。 忘れなさい!!」

微かな羽音が聞こえてき、二人は巣穴から飛び出した。ちょうど戻ってきたメアービーが、自分の巣から出てきた二人を見つけ、追いかけてきた。

「わ、まずい!!」

弥十郎が叫ぶ。真奈美は走りながら夢線機に向かって叫んだ。

「佐々木 弥十郎、真奈美・西園寺帰りますうっ!!」

「ラジャー!」

瑛菜の声とともに二人は消えうせ、メアービーは戸惑って、二人の消えたあたりで輪を描いた。


 鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)はエロ神様こと医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)を見やってため息をついた。

「やること自体は人助けのためなのでいいんですが……。

 エロ神様が色っぽいおねーさんの頼みを聞きたいがために巻き込まれるというのはなんとも……」

房内はそ知らぬ顔である。

「街を歩いておったらきょぬーでエロい格好した女子に助けを求められたので協力するのじゃよ。

 ……うまく事件を解決してあのたわわに実った果実を揉ませてもらうのじゃ!!」

「下心というか邪心いっぱいではないですか……」

物思いは美緒の声で破られた。

「ではお願いします!」

貴仁はは転送された先のハチの巣を見やった。きのこを育てて食べるハチとは珍しい。煙で燻り出そうかとも思ったが、あるいはきのこがダメになるかもしれない。

「巣から来たところを強襲して、気絶させロープかなんかで動けなくしましょうかね」

「せっかく張り切っておられるからな。主様に蜂退治は任せよう」

房内の言葉に、貴仁は諦めの体でスキルを駆使して手早く巣から出てきたメアービーを戦闘不能にした。房内がロープでハチを縛り上げる。

「さてと、それではわらわはキノコを採ってこようかの」

房内がのんびりと巣に向かう。貴仁はとっとと巣の奥へ潜り込み、きのこの栽培床を見つけ出すと、ルカルカにもらった写真と照合しはじめた。そこへ微かな羽音が聞こえてくる。

「蜂が帰ってきた?! なんでですか? ちゃんと縛りましたよね!??」

貴仁はあせった。ハチに刺されての帰還だけはご免こうむりたい。しばらく笑顔でマヒしたままなど、考えるだに恐ろしい。房内が叫ぶ。

「急いで、きのこを採って、帰るのじゃよ。

 きのこ、きのこ、きのこはどこじゃ!

 ええい、いっそのこと主様のキノコで……」

「エロ神様ちょっ……!!! やめてくださいっ! 茸はもう手に入れましたからっ!」

ほうほうの体で巣穴から脱出した2人は、辛うじて刺される寸前に公園へ帰還したのであった。