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ブラッドレイ海賊団3~海賊船長と、その右腕~

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ブラッドレイ海賊団3~海賊船長と、その右腕~

リアクション

 船の方は、焦げたところもあるけれど、航行するに支障はなかった。
 ブラッドレイ海賊団の団員たちを乗せて、黒髭海賊団は拠点へと帰って行く。

「ところで……」
 “黒髭”の傍で、機械音声が響く。話しかけたのはルレーブだ。
「なんだ?」
「見た目美緒で中身黒髭という点に、皆もいい加減慣れたと思いますが……流石にその格好は無いのでは……っといいますか黒髭基準でそれ着てどんな気分なんでしょう?」
 その格好、と言ってルレーブが指したのは、魔鎧と化したラナを装備して海賊のコートを羽織った中身“黒髭”、だが外見は美羽、という格好だ。
「……ああ。まあ、これはこれで、見た目に騙されるヤツを引っ掛けることが出来ていいんじゃねえか?」
 あっけらかん、と答える“黒髭”に、ルレーブは「そんなものなのか」と納得したのかしていないのか、判りかねる言葉を返す。
「……その、悪魔目線の話ではあるのですが、今の黒髭様は肉体を失って美緒様を拠り所にしている……魂はあるのですよね。でしたら今のような不完全な憑依状態より、魔鎧として存在を確立できれば、何にしても動きやすくなるのでは……と思うのですが、いかがでしょう? ……ただその場合まず職人を探す必要がありますが……」
 マリカが問いかける。
「魔鎧なぁ……だが、それはこいつが居るだろう?」
 まだ身に纏っているラナのことを指して、“黒髭”が答える。
「確かに、美緒様にはラナ様がいらっしゃいますね」
「だからその話は遠慮させてもらうな」
 納得するマリカに、“黒髭”は苦笑いを浮かべた。



 黒髭海賊団の船へと後退して来たあと、改めてアーダルベルトとは刃を交えていた。
 そして、倒れたアーダルベルトの前に、久が立つ。
 傍に駆け寄ったルルールが、そっと治癒の魔法をかけた。
(これで、後で私が美緒ちゃんに抱きついたり揉んだり舐めたりしようとしても邪魔しないかも知れないし☆)
(下心もある様だけど……無駄だろうねえ)
 久に見えないようににやけるルルールを見て、豊実は思う。
 案の定、後ほど美緒に抱きつこうとしていたルルールを久は『それはそれこれはこれ』と止めていた。



 “黒髭”の船に残されていたランスロットのところへとベアトリーチェが向かう。
「先ほどはすごい衝撃があったね。決着はついたのかい?」
 彼女の来訪に気付いたランスロットが訊ねた。
「ええ、アーダルベルトとエセルバートは捕らえました。けれど、エヴァンジェリンには、逃げられてしまいました」
 答えるベアトリーチェに対し、ランスロットは笑う。
「キャプテンらしいね。それで? 報告のために来たわけではないんだろう?」
 急に笑うのを止めた彼は、彼女の考えに気付いたのか問いかけて来た。
「あなたたちの力を、パラミタ内海の平和を守るために貸してください」
「力を……“黒髭”に、てことかい?」
「はい」
 頷いた後、ベアトリーチェは彼の返答を待ち、じっと見つめる。
「ま、頭の片隅には留めておくよ。君の考えなだけで、“黒髭”からの言葉ではないだろう?」
「……あ、はい。分かりました」
 彼へと声を掛けたのは、ベアトリーチェと彼女のパートナーの考えなだけであって、“黒髭”から勧誘してこいと言われたわけではない。
 それを指摘されてはこれ以上の返事を待つわけにはいかない。そうベアトリーチェは考えて、彼の前を後にした。



「失礼する」
 短い挨拶と共に、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)の執務室を訪れたのは、シド・ハートウェル(しど・はーとうぇる)だ。彼のパートナーである佐倉 紅音(さくら・あかね)も同行している。
「“黒髭”さんに関するお話と聞いておりますが、どのようなご用件でしょうか?」
 応接部のソファへの着席を進めながら、ラズィーヤが訊ねる。
「美緒が正式に“黒髭”と契約すると噂を聞きつけてな。ブラッドレイ海賊団との一連のことに決着をつけた後どうするのか、これを機に話をつけたいのだよ」
 告げるシドに、ラズィーヤは軽く相槌を打って、先を促す。
「これからもパラミタ内海で私椋船として“黒髭”が活動を続けるならば船の修理やら補給は必須と思われる。そこで、海賊団の主要メンバーである“黒髭”、美緒、ラナの三者を財団側に迎え入れる――提携することでラズィーヤ、お前を挟んでの補給や修理等の一手間を削減するというのはどうであろう?」
 両者にメリットが出るように、と考えてきた一案をシドは告げる。彼の隣で、彼とラズィーヤの2人に交互に視線を向けていた紅音も口を開いた。
「もちろん最終的な判断は本人たちの意思によるとは思うの。でも、まずはバックにいるラズィーヤさんに確認を、と――」
 そう告げて、2人がラズィーヤの様子を窺っていれば、話を聞いていた彼女は、広げた扇子で口元を隠すとくすりと笑う。
「彼の、“黒髭”の私椋船は私が、いえ、ヴァイシャリーが所有している事に意味がありますの。パラミタ内海に接していない天御柱学院所属の第三者の手に渡すことになれば、そのメリットそのものが無くなってしまいますわ。私を挟んでの補給や修理等の一手間を削減するメリットと天秤に掛けるまでもありませんの」
 違って? と首を傾げるラズィーヤに、紅音が音を立てて、ソファから立つ。
「あなたもラナさんも、うちの財団のことは知っているよねっ?」
「ええ、存じていますわ。けれど、我がヴァイシャリーに比べれば、まだまだの団体でしょう?」
 頷いて答えたラズィーヤは立ち上がり、執務机の向こう側へと歩き出す。
「お話は以上? 次も予定が詰まってますの。お引取りくださいな」
 彼女がそう告げると、紅音とシドの2人は彼女の護衛に促され、執務室より出された。



 帰還後、美羽はラズィーヤの執務室へと向かった。
「お疲れ様でした。各隊隊長と彼らの部下である海賊たちは捕まえられたもの、船長であるエヴァンジェリンを捕り逃してしまったことは伺っておりますわ」
「今は足取りが追えていないけれど、見つけたらきっと捕まえてみせる。それで、その後のことで相談なんだけど……」
 美羽は今後の意気込みを伝えつつ、ラズィーヤの様子を窺うような素振りを見せた。
「その後のこととは……?」
「エヴァンジェリンには“黒髭”の部下として、私掠船に加わってもらったらどうかな?」
 これまでの“黒髭”のことを見てきた美羽は、彼のことは信用できると考えている。
 更に“黒髭”自身、美緒からの信頼に応えようとしているのではないか、と見えていた。
 そんな彼の下に就くことで、エヴァンジェリンが更正してくれたらと思ったのだ。
「そうですわね。捕らえたときには、それも考えましょう」
 貴重なご意見ありがとう、とラズィーヤは美羽を送り出す。そうして、ラズィーヤはポツリと呟いた。
「そうなるのも楽しそうですわね」
 ――と。



 “黒髭”は、簡単な修理を終えた海賊船の船長室にいた。
 室内には、彼女たちの行く末を見届けようと、これまでに力を貸してきた仲間たちが集っている。
「どんな状況でも美緒に危害を与えるような事があれば、美緒に憑依してても無理にでも引き外してぶっつぶすからな」
 正悟が釘を刺すように告げた。
「おお、怖っ! 潰されないように気をつけねえとなぁ」
 笑って冗談のように言い返しているけれど“黒髭”の瞳は、しっかりと正悟を見返して、彼の言葉をしかと受け止める。
「黒髭のおじちゃん、美緒おねえちゃんの体以外に取り付く相手として、わたげうさぎちゃんはどうですか?」
 ヴァーナーが顔がもふもふの毛に埋もれて、一見白い毛玉にしか見えない、ペットのうさぎを差し出してみせる。
「流石にうさぎはねぇな。思うように暴れられなくなる」
 くすりと笑って、ヴァーナーに答えた“黒髭”は、美緒と入れ替わる。
「今回の様子も内から確認させてもらいましたわ。わたくしは、黒髭様……あなたは信用するに値すると、思います。これからも力を貸してください。お願いします」
 そう告げる美緒と交代するように、“黒髭”が表に出てくる。
「おう。最初はどんなもんかと思ってたけど、私掠船てのも悪くない。小娘……いや、美緒のパートナーとして、これからも共に在ろうじゃねえか」
 “黒髭”が笑う。
 こうして、美緒と“黒髭”の契約は結ばれた。

 “黒髭”海賊団、今日も此処に在り――。

担当マスターより

▼担当マスター

朝緋あきら

▼マスターコメント

 リアクションお届けします、朝緋あきらです。
 まずは、参加ありがとうございました。

 船長・エヴァンジェリンが逃走してしまいましたけれど、『ブラッドレイ海賊団』としてのお話は最後になります。
 エヴァンジェリンは何やらフリューネに因縁がある様子。黒髭海賊団は、今後も彼女の行方について、調べるのかと……。
 それはまた、別のお話で。

 ではまた、次のシナリオでお会いできることを楽しみにしております。