イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

太古の昔に埋没した魔列車…環菜&アゾート 2

リアクション公開中!

太古の昔に埋没した魔列車…環菜&アゾート 2
太古の昔に埋没した魔列車…環菜&アゾート 2 太古の昔に埋没した魔列車…環菜&アゾート 2

リアクション


第7章 ヴァイシャリー南湖の駅…駅舎の商品開発

「切り分けて皆と食べるのもいいけど、上品に食べられるスイーツだって需要あるはずよ!」
 一口サイズのカップケーキを、オーブンから取り出す。
「料理の新しいレパートリーを増やすためにもね!」
 飾りつけのトッピングは、冷やしたチョコと蜂蜜だ。
 ひんやりと冷たそうなアイス風カップケーキを完成させる。
「真冬にどうして冷たそうなデザートを作ったんだ?」
「これは真冬でも、いつでも食べられるカップケーキよ。夏場だって食べやすいもの。チョコが溶けたら蜂蜜と一緒に、ケーキに染み込むの。口が汚れてもティッシュで拭けばいいけど、手が汚れちゃうとどうなると思う?」
「例えば…ガバンに拭くものを入れてたら、汚れがカバンにくっつくってことか」
「えぇ。だから貴族でも気軽に食べらるはずよ」
「いい匂いですぅ〜」
 ケーキの香りを嗅ぎつけたエリザベートがコレットの前に現れる。
「試食してみて」
「あまあまですねぇ〜♪」
「あらあらエリザベートちゃん、またお口を汚しちゃって…」
 手のかかる妹の世話を焼く姉のように、明日香が幼い校長の口をティッシュで拭う。
「駅弁のお店の中でそれも売るですぅう!」
 セットで購入してもらう目的もあるが、エリザベートは自分が食べたいという欲で、コレットのカップケーキを採用した。



「わたくしは魔列車のミニチュアを、売店におきたいですわ!試作として、造ってみましたの」
 皆が見やすいように、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は丸いテーブルの真ん中に置く。
「高価な品物は見てもらえるだけであって、買ってもらえるとは限りませんのよ。安値で買える素材で造り、コストを押させるという考えですの」
 先端テクノロジーで古風なゼンマイ仕掛けの、自走する機構にし、ゼンマイを巻いて走らせてみせる。
「現代のハイテク技術で動く玩具は、手持ちのお金のない人では、手が届かないこともありますの」
「あくまでもお土産的な値段に拘るってことか?」
「値段だけでは、消費者の財布はゆるみませんのよ」
 佐野 和輝(さの・かずき)へ視線を移してかぶりを振り、口元をほころばせる。
「ちょっとしたアンティークっぽい雰囲気があれば、大人でも部屋に飾るために、欲しがる人もいるでしょ?」
「ターゲットは子供と大人、両方なのか…」
「当然ですわ!列車の経営を維持するためには、稼がなくてはいけませんものっ!」
「コストを抑えて効率よく、荒利を得るってわけだな。―…アニス、また隠れているな」
 白衣の中に隠れるアニス・パラス(あにす・ぱらす)をちらりと見る。
「だってだって、いっぱい人がいるんだもん」
「商品開発の相談をしているんだから当たり前だろ」
「俺が変りに予算の話をしましょか?」
 アニスがはりついたままじゃ、話も進めづらそうだと思い、彼女の気分が落ち着くまで部屋の外にいては?と、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)が声をかける。
「いや、問題ない。―…アニス、あっちの席で他の女の子と会話しててくれないか?」
「この部屋にいるのって、女の子だけじゃないもんっ」
 和輝以外の異性の前には姿も現せず、ぶるぶると震える。
「陽太、私の傍にいらっしゃい」
「あわっ、か…環菜!」
 急に腕を引っ張られ、夫が顔を赤らめる。
「白衣の中に隠れている子が怖がってるみたいだから、私の傍にいてね?」
「あ…そうだったんですか」
 小さな声音で言う妻に、軽く頷いた。
「(やっぱりこうなるか…)」
 毎度のことながら、相手が気を悪くしていなければいいが、と御神楽夫妻を見る。
「男子が視界に入らないように、私が盾になってもいいわよ」
 このままじゃ誰ともちゃんとアニスは会話できそうない。
 気を利かせてスノー・クライム(すのー・くらいむ)が盾代わりになる。
「あぁ、悪いな」
「列車のミニチュアの案を出し合っているグループのところに行ってみない?」
「アニスと話したことがある人もいるし。そうするか」
 まずは話やすそうな相手のところへ連れて行こうと、エリシアたちがいるテーブルへ向かう。
「話はまとまりそうか?」
「まだですわ」
「その試作品、貸してほしいんだが…」
「これをどうするんですの?」
「モニターとしてアニスに遊ばせてみようとな。ほら、ゼンマイを巻いて動かすんだぞ」
 いきなり会話するより、話すきっかけが必要だろう。
 少女の手の平に玩具を乗せる。
「列車の玩具?面白そうっ」
 きゅりきゅりとゼンマイを巻き、床に置いて走らせる。
「わー!走ってるーっ」
「この玩具、気にいったんですの?」
「―…へぅ!?う…うん。これ…、子供のおこづかいでも買えるの?」
 おどおどしながらも、ちゃんとお話出来るようになろうとエリシアと会話してみる。
「えぇ、安くて手の届きやすい価格にしますわ。そのほうが、たくさんの人に遊んでもらえますもの」
「子供でも…買えるんだ……」
「エリシア、パラレールを造ろう!アイデアを変えずに、ゼンマイ式のままでね」
「それもよさそうですわね、美羽」
「魔列車の時刻表も、駅で販売しない?」
「環菜たちはまだそこまで決めていませんわよ。時刻表はまたの機会ですわね」
 まだ決定しないから販売はできないとかぶりを振る。
「そっかー…」
「今は予約制らしいですわ。詳しくはWEBサイトで見るといいですわ」
「模型バージョンも販売しませんか?」
「客を飽きさせないために、いろんなパターンを用意しなければいけませんものね」
 企画書を作ってきた月詠 司(つくよみ・つかさ)にエリシアが言う。
「アニス、あなたも一緒にこの企画書を…。あら、いませんわね?」
「また隠れてしまったようだ」
「そう…残念ですわね」
 男の子とはお話しづらい様子で、アニスはパッとパートナーの白衣の中に隠れてしまった。



「フィリップくんと考えたんですけど。私的には、いろんなモデルを用意するべきだと思います」
 ダイキャストモデルやプラモデル、ディスプレイモデルにモータライズモデルと、様々なタイプを考え、企画書をエリシアたちに見せる。
「列車だけでなく、駅舎やその周りにある模型も求める人もいるのでは?」
 今回は魔法少女としての格好せずによいらしく、ノリノリで提案する。
「他にも魔列車や駅舎内のオブジェをモデルに、携帯のストラップやキーホルダーとかの小物類も、充実させましょう」
「ぬいぐるみやオリジナル懐中時計も考えているんですのね?」
「えぇ、まぁ。いろいろ思いついたんで。とりあえず提案してみようかなーと…」
「んー…少しずつグッツを増やしたほうがいいと思うわ」
 一度に並べてしまうよりも、まずは客を呼び込むためのものから先に、販売するべきだと美羽が言う。
「でも、パーツごとに販売したほうがきっと売れますよ!ジオラマとか…男の子の夢って感じがしそうですし」
「(男の子の夢ねぇ〜…。ツカサってそんなキャラだったか?)」
 普段と違い、熱弁を語る司を眺めつつ、パラケルスス・ボムバストゥス(ぱらけるすす・ぼむばすとぅす)が嘆息する。
「…まぁ、別に良いんだけどよ」
「何か言いました?フィリップくん」
「いーや、何でもない」
 かぶりを振ると彼は深いため息をついた。
「小物のデザインっつったら、駅のマスコットキャラを忘れちゃいけねぇだろ」
「マスコットキャラですか?」
「…まっ、その場合どっかからゆる族見つけてきたりとか。大変だろうけどな」
「はーい、はいはいはいはぁああい!私がなるわっ」
「待て、落ち着くんだラブ!」
 テーブルに身を乗り出して挙手するラブ・リトル(らぶ・りとる)の肩を、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が掴み、必死に阻止しようとする。
「マスコットがないなら、私しか適任はいないでしょ?」
「お嬢ちゃんは、ゆる族じゃないんじゃ?」
「何よそれぇええ、マスコットイコールゆる族なんて誰が決めたの!?だって他にマスコットやる人なんていないじゃないのっ」
 自分以外に名乗り出る者がいるか、ラブを目をギラつかせて周囲を睨む。
「ぬいぐるみはー…マスコットアイドル・ラブ!これで決まりねっ。ちょうどアイドルグッツ専門店を作ろうと思ってのたのよ。私のぬいぐるみかー…いいわねっ。きっと売れちゃうわよっ。ステージで気になったアイドルを見つけても、そのグッツがないとお客さんが可愛そうだもの♪」
「お、おいラブ。その辺にしておいたほうがいいぞ」
「…ちょっと…なによー皆その目はー!皆一緒に鉄道作ってきた仲間でしょー!」
 ラブの気迫に気圧された司たちが押し黙ってしまう。
「グッツ考えているの?実は僕も思いついたんだ」
「もしかして……あなたも?」
 いきなりライバル出現か!?と思ったラブは、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)を軽く睨む。
「じゃーんっ、これだよ。グッツを作るなら、同じ店舗内しにない?」
「い…いやぁあああ!!絶対いやぁあああ!!!」
 ぶんぶんとかぶりを振り、全身で拒否する。
「えー…どうして?」
「ラブ、いくら専用の店が欲しいからって、その態度は失礼だ」
 あまりにも無礼な態度をとるパートナーを叱る。
「だ、だって…アレはイヤなの…。お店に置きたくないの…」
 ふるふると指を震わせ、レキが抱えている企画書を指差す。
「女の子が考えたものなら、同じ店にあっても違和感ないのでは?どれ、見せてくれないか」
「いいよー」
「な…なんだこれはーっ!?」
 問題のソレを勅旨したコアも大声を上げ、撮影しにきた月夜と話そうとしたチムチム・リー(ちむちむ・りー)が彼の声に驚き、ビクッと身を震わせた。
「何事アルかーっ」
 せかっく各学園の生徒がいるのだから事前のリサーチをしようと、皆の学園の色や特徴を聞いて回っていたのだが…。
 話の腰をベキッとへし折られてしまう。
「向こうのテーブルがやけに騒がしいわね」
「ついにアレを見てしまったアルね…」
「アレとは?」
「見ないほうがいいかもしれないアルよ」
「そう言われると気になるわ!」
 カメラマンの刀真を連れ、これはインタビューしておかなければ!と、レキに迫る。
「今、駅舎で販売するグッツを考案しているらしいけど。よかったその企画書を見せてくれる?」
「どれも僕の自信作だよ」
「それは楽しみね」
 叫んだ後、石のように固まったコアの手から企画書を取り、ぺらりとページを捲る。
「ブタの貯金箱型石鹸は、桃色なのね?百合園のイメージカラーかしら」
「うん、そうそう♪」
「妖精石鹸はそれぞれの属性のカラーにしてるのね。…可愛いかも」
 いかにも女の子が好みそうな可愛らしい石鹸だ。
「ちょっとしたプレゼントや、お中元とかお歳暮として送るのもいいかも?」
「こっちも人っぽい形をしてるわね」
「それはね、マンドラゴラ石鹸だよ」
 イルミンのイメージカラーである緑色を選び、森にいるリアルなグロ系の形はもちろん、デフォルメの可愛い形もちゃんと考えてある。
「グロ系の買っても、食べようと襲ってきたりしないから平気だよ。最後のがイチオシかも」
「へぇ〜…今度はどんな石鹸なのかしら。―……っ」
 そのページを開いた瞬間、月夜は企画書で顔を隠し、ぷるぷると肩を震わせる。
「(ちょっと月夜、いくら編集でカット出来るといっても、ちゃんとリポートを…)」
 後ろからパートナーを注意するために、彼女の肩を掴んで振り向かせると、カメラのレンズにとてつもないものが映り込んでしまう。
「うっ…ぷはっ!」
 必死に笑いを堪えようとするが堪えきれず、笑い声を漏らしてしまった。
「やばいよコレ。コレを駅舎で売るの?あっははは!!もームリ、お腹がくるしぃーっ」
 刀真につられてとうとう月夜まで爆笑する。
 笑いの元はレキの企画書に描かれた、青色の山葉の筋肉(マッスル)石鹸を直視してしまったせいだ。
「えー、そんにおかしーかな。環菜さんはどう思う?」
「い…いいんじゃないかしら?…斬新で、とってもユニークだと…思うわっ」
 蒼空学園のイメージのも考えてくれたレキに対して、笑ってしまうと失礼だと思い、笑わないように環菜は必死に耐える。
「商品化しても問題なくね?だって石鹸だろ。……ぷぷっ」
「人事だと思って酷いですよフィリップさん!蒼空学園に変なイメージがついちゃいますよ」
「だって事実じゃないか?そのままのデザインでいいって。アイドルグッツの傍らに置くとかさ」
 抗議の声を上げる太陽に、フィリップは人事だし?みたな態度を取る。
「あれだ、蒼空学園のアイドルとしてさ!マッスルアイドル…ぶはっ、あっはは!ちょーうけるなっ」
「蒼空学園のアイドルはあたしよ!だから、あたしの石鹸を作るべきだわ!!」
「ラブさんの石鹸…それなら学園としてもイメージ的には…」
「おいおい妥協する気か?校長の形をした石鹸を販売すりゃ、話題になりそうだしな?あれだ、どうせなら等身大とか」
「それだけは断固拒否するわっ」
 たとえ校長だろうとあたしを差し置いて、学園のアイドルとして君臨するのは許せない。
「もしかして青色石鹸って不評?」
「そうみたいアルよ、レキ」
「ねー…ラズィーヤさんはどう思う?」
「採用しますわ」
 ラズィーヤなら却下するかと思いきや、考える間をあけることもなく、扇をパサッと広げ、にっこりと微笑む。
「なんていうか…ドンマイ、だな」
 学園のイメージの石鹸が現校長となり、がっくりと肩を落とす太陽の肩に、和輝がポンッと肩を置いた。