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【ニルヴァーナへの道】泣き叫ぶ子犬たち

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第二章 恐怖の豪腕! デヘペロ弟s 2

<月への港・1F>

 こうして突入に成功したのはいいのだが、いきなり難しい局面が待っていた。
「入り口付近にデヘペロ弟一体!」
 ゲルバッキーや子犬のお世話担当の面々を最深部に送り届けつつ、途中にいるデヘペロ弟に関しては可能な限り足止め、もしくは撃破していかなければならない。
 そして、その最初の一体は、何がどうしたのか入り口付近にいたのである。
「僕らが行きます! 皆さんは先に!!」
 そう名乗り出たのは輸送トラックを駆る湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)
 これだけの広さがあればトラックで奥まで突っ込めないこともないが、彼の切り札を活かすにはなるべく広い入り口付近の方がいい、という判断である。
「すまない、頼む!」
 サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)に抱えられたゲルバッキーが、そして他の一同が、細い横道を通って先へと進む。
 それを見届けて、凶司はトラックのハッチを開けた。
「さあ、お前ら! 新装備も用意してやったんだ、せいぜい役に立ってくれよ!!」
 中から飛び出したのは、赤のパワードスーツのセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)、緑のパワードスーツのディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)、そして青のパワードスーツのエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)ネフィリム三姉妹
 もともとは航空ショー用の装備ではあるものの、生身と比べればその戦闘能力はかなり高い。

「やっぱこれよねぇ……この黒光りする立派な銃身(イチモツ)、たまんないわぁ♪」
 妖艶な笑みを浮かべて新装備の対神ライフルを構えるセラフ。
「ボクのは爪、かぁ……剣の方がよかったけど」
 同じく、新装備のワイアクローを構えるエクス。
 そして、最後に残ったディミーアは。
「……で、どういうことよ凶司!?」
「何がだよ」
「何で、私のスーツだけ新装備がないの!?」
 そう、彼女だけなぜか新装備が配備されていなかったのである。
「ないものはないんだから仕方ないだろ。それとも光条スコップでも持ってくか?」
 一人だけ新装備なしでも、なぜかスコップを振り回して戦っても、いずれにしてもオチ担当の地位は不動である。やったね!
「……遠慮するわ。ちょっとでも期待した私がバカだったわね」
「まあまあ、ディミーア。次に何かあったら、あなたに優先的に譲ってあげるから」
「うんうん。だから元気出して、ディミーアお姉ちゃん」
「いや、おいお前ら勝手に決めるな」
 自称ご主人様の凶司が何か言っているようだが、三姉妹の絆の前には彼の立ち入る隙などあるはずもなく。
「それじゃ、まずはあいつを片づけちゃいましょうか!」
 気を取り直した三姉妹は、息のあった連携攻撃でデヘペロ弟へと挑むのであった。





<月への港・B1F>

「……にしても、ずいぶん奥まで侵入を許しちゃってるわね」
 携帯の画面に映った現在の状況を見ながら、伏見 明子(ふしみ・めいこ)は苦々しげにそう言った。
「ATMがあればもう少し持ちこたえてくれたはずなのだが、契約者に壊されてしまったからな」
 自分たちの防衛態勢のまずさを棚に上げ、全責任を転嫁するかのように言うゲルバッキー。
 だが、明子に言わせれば、それがまず最大の問題だった。
「あのさあ、一言だけいい?」
「何だ?」
「それじゃ……ATMに防衛システムを兼任させないでよ!!」
 全くもってその通りである。
「しかし、強盗から身を守るためにもATMにも自己防衛機能は必要だろう。それを港そのものの防衛にも使えれば一石二鳥ではないか」
 ゲルバッキーの反論も一見それなりに筋が通っているように見え……ないこともないが、それだと港の防衛の度にATMを危険な最前線にわざわざ駆り出さねばならず、結局はかえってリスクが高くなっている。
「それに、そもそもアンタが振り込んだ金が多分鏖殺寺院の資金源になってるから! 完全に自業自得じゃない!!」
 例え振り込め詐欺で大金を騙し取られても、「そうか、裁判沙汰になった息子はいないんだ。それは一番のいいニュースだよ」と優しげな笑みを浮かべて答えればイイハナシダナーで済む……ほど、現実は甘くない。
 例え騙された側が気にせずとも、騙し取られたお金が犯罪組織の懐に入り、さらなる犯罪のための資金にされてしまえば、その資金を振り込んだ者は間接的に多くの人々を不幸にしてしまっていることになるからである。
 とはいえ、そんなややこしい理屈がポータラカ人に通じるはずもない。
「ふぅ……信じることを忘れた者たちはこれだから」
 呆れたようにため息をつくゲルバッキーに、本気でイラッときてしまった明子であった。