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   第五章


『優勝、チーム・シュトゥルムヴィント。諸君らは今大会において、大変優秀な――』
 閉会式の一幕を使った表彰式。
 判定の結果、最終的に全機体が受けたダメージの差、連携による合体攻撃の妙などが評価に加味され、優勝はシュトゥルムヴィントのものとなった。
 彼らの気恥ずかしげな、そして誇らしげな横顔を遠目に眺め、雪姫は小さく漏らす。
「……理解できない」
「ホワイトスノー博士の後継者だと聞いたけど、そんなあなたにも理解できないことがあるのね」
 不意に現れた女性に、雪姫はいつも通り、無機質な瞳を向ける。
「……あなたは?」
「失礼。はじめまして、雪姫さん。天御柱学院でイコン開発に携わっているイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)です。こちらは娘のジヴァ。以後、よろしく」
「……よろしく」
「……」
 雪姫は挨拶を返すが、娘と紹介された少女、ジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)は黙ったままだ。
 ただ不機嫌そうな、射抜くような視線で雪姫を見つめている。
 イーリャに促されてようやく、
「ジヴァよ。フィーニクスのテストパイロットをやってるわ」
 とだけ言ってまた黙し、腕を組む。
 フィーニクスといえば確か、ハイ・ブラゼル地方におけるイコン、バーデュナミスの試作機だ。
「ひとつ確認したいのだけど、あなた、極東新大陸研究所の所属なのよね?」
「肯定(イエス)」
 応えると、イーリャはやや難しげな表情を作った。
「それはいつ頃から? 私、以前に極東新大陸研究所にいたのよ。けど、あなたの名前は聞いたことがないから」
「……それほど昔ではない。少なくとも、あなたが研究所を出て以降と推察できる」
 やや目を伏せて、雪姫は答えた。
 なにも、自身の出自に後ろめたさがあるわけではない。
 それでも今の雪姫は、少しだけ、自分自身について疑問を持ち始めている。
「ひとつ訊ねたい」
「? なにかしら?」
 気づくと、そんな言葉が口から出ていた。
「あなたにも、目的……夢があるだろうか」
 その問いに、イーリャはそっとジヴァの方を見て、
「……あるわ」
「あなたは?」
 ジヴァにも訊ねると、彼女はやはり不機嫌そうな顔を隠さぬままで、
「あるけど、それがなによ?」
「否定(ノー)。意味はない。……ないはず」
「……はず?」
「肯定。今日はこれで失礼する。まだ仕事が残っている」
「ちょ、ちょっと」
 二人に背を向け、沈む夕日を目指して歩き出す。
 思い出すのは、今日一日のこと。言葉を交わした人々のこと。
 夢、理想、目的。
 そんなものは、雪姫にはない。
 誰かが言った通り、いつか見つかる日が来るのだろうか。
 益体もない想いに考えを巡らせながら、雪姫は歩き続ける。
 脳裏には、優勝した選手たちの、誇らしげな笑みが刻み込まれていた。(了)


担当マスターより

▼担当マスター

七誌紗難

▼マスターコメント

 みなさまお疲れ様でした。
 こんにちは、あるいは初めまして、GMの七誌紗難です。
 公開がとてつもなく遅くなりました。
 お待たせ致しまして大変申し訳ございません。
 せめて、内容で皆様に楽しんで頂けることを祈るばかりです。
 これだけ遅れておいて恐縮ですが、またお会いできることを願っております。
 ご参加ありがとうございました!