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バレンタインデー・テロのお知らせ

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バレンタインデー・テロのお知らせ

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「恋人たちの祭典、バレンタインか……」
 その日、柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)は、真田 幸村(さなだ・ゆきむら)八岐 大蛇(やまたの・おろち)とともに、楽しい一日をうっとりと過ごしていました。
 なにしろ、そうチョコレートなのです。
「というわけで幸村! 本来は嫁であるはずのお前が作らなければならないチョコレート、俺がしょうがないから作ってやった!」
「ちょこれいと、なんだこれ?」
「これ食ったら今度はお前が俺にチョコレート寄こすんだぞ、分かったな?」
「食っていいのか?」
「もちろん……ふふふ」
「?」
 幸村は、じっと見続ける氷藍を気にしながらも封をあけ中のチョコレートを取り出します。
「なんだこれ?」
「いいから早く食ってみろって」
「ちょっと妙な匂いがするんだが」
「いいから早く食ってみろって」
「う〜む?」
 首をひねりながらも、幸村はちょこれいとなるものを口に入れてみます。
「おお、これは甘い」
「ふふん、どうだ上手いだろう!」
「パクッ、ガツガツガツ」
 幸村、一瞬で箱を空にしてしまいます。
「うむ……ひっく」
「ん? どうした?」
 しゃっくりをした幸村をは怪訝な目で見つめます。
「……おお……ああ……」
 幸村、目の焦点がおかしくなってきました。ブッ壊れたみたいにニヘラと笑い始めます。
「パンツパンツ……パンツ、か、うむ……何故今の人はあのようなキツイ下穿きを穿くのか。下穿きなど男のナニがブラブラしないように付けるものであって尻をガッチリと覆うものではなかろう」
「ま、待て幸村! 一体どうしたんだ!?」
「何かおかしい……何がおかしいかって、パンツだ。おお、パンツよ、パンツ……君はなぜパンツなのか、頭からかぶってみれば謎が解ける……? パンツよ」
 幸村はおかしなことを呟きながら、ギラギラと氷藍を見つめます。
「……はっ、そうか……バレンタインはあくまでも祭り! 催しごとをこよなく愛する日本男児の魂が、チョコを食った事で覚醒したんだな!」
 氷藍は、少し考えて結論付けます。
「よし分かった、もっと食べるんだ!!」
 自分のプレゼントしたものをおいしそうに食べてくれるのを見るのは嬉しいものです。氷藍は、さらにどんどんと幸村の口へとチョコレートを詰め込みます。
「いやぁ……あんな楽しそうな幸村を見るのは久しぶりだな。俺まで楽しくなりそうだ!」
「ちょ、ちょっと、なにをやっているの、そんなに食べさせては駄目じゃない」
 向こうの部屋から八岐 大蛇(やまたの・おろち)がやってきます。氷藍が幸村にチョコを食べさせ続けているのを見て目を丸くします。
「あー……もしかして氷藍、間違えてボクのマイチョコレート食べさせちゃったのかな? や、やばいよぉ…ユッキーお酒にメチャクチャ弱いんだ! そんなに食べさせ続けたら止まらなくなっちゃうよ!」
「大丈夫大丈夫」
 氷藍は容赦なく詰め込み続けます。やがて……。
 ピ―――――
 不意に、幸村は意味不明なことを口走り始めます。
「……氷藍殿、脱がせましょう。パンチラなどとは言わずに ピ―――――でございます ピ―――――
「お、おい幸村どうした、様子が変だぞ」
 ピ―――――
 幸村は氷藍に襲い掛かってきます。
「ち、ちょっと、やめて、なにをしているっ!?」
 ピ―――――
「きゃああああっっ!? そ、そんな、それを持っていこうとするな、やめろはなせ!」
 ピ―――――
「やああああっっ!? そ、そんなところを触られたら……」
 ピ―――――
「……あふうんっ、や、やめ……っ、ひうっ……」
 おや、何が起こっているんですか? 氷藍の息遣いが荒くなって来ましたけど、トンと見当がつきませんね。
 と……。
 ひとしきり満足したのか、幸村今度は大蛇に向き直ります。
「ひっ!?」
 ピ―――――
「だ、駄目だよユッキー落ち着いて……ってうにゃあああ!!?」
 ピ―――――
「ああ、そんな全部持っていったら……きゅう……」
 寒さに弱い大蛇はその場に伸びてしまいます。
 ピ―――――
 ピ―――――
 ピ―――――
 叫びながら、幸村は屋外へと走り出て行ってしまいました。



 さてその頃……。
「動く者はフリー・テロリストだ。動かない者は訓練されたフリー・テロリストだ」
 フリー・テロリストの残党をバッサバッサと片付けている男がおりました。
 獣人の熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)です。彼が頑張っているには理由がありました。
 天禰 薫(あまね・かおる)と一緒にすごす、初めてのバレンタインデー。超鈍感の薫がチョコをくれるか気がかりだったのです。しかも、傍迷惑なテロリストたちが邪魔するじゃないですか? 
(くっ……俺をこれ以上、非リア充に突き落とすつもりか……!?)
 孝高は薫が鈍い為、恋人同士ではなく父兄とか言われそうでした。彼は考え続けます。
(万が一、俺は袴を奪われても着物だから問題ない。でも天禰は……?)
 くわっ! と孝高は目を見開きます。
(袴を捲られるのだろうか? と言う事は見えるじゃないか! どこの馬の骨ともわからん輩に見られるのか!?)
 ブチッ! 何かが切れる音がしました。
「んな事させるかあああ!!」
「孝高!?」
 突然の彷徨に、薫は小さく悲鳴を上げます。
「よ、孝高! 危ないよー! やめようよう! ……っていうか、斬ってる斬ってる! テロリストじゃなくて一般人すごく斬ってるから!」
「ガアアアアアアアッッ!」
 獣人の孝高は巨大な熊に姿を変え、暴れ始めます。武器を投げ捨て、鋭い爪で敵に襲い掛かり始めます。
「ちょっと、危ないって! 一般人いるから、やめて!」
「ガアアアアアアアッッ!」
 バッサバッサ!
(や、やべえぞ、これ。どうするんだ?)
 様子を見ていた後藤 又兵衛(ごとう・またべえ)は、じっとりと汗をかき始めます。
(これ、完全に俺たちがテロリストじゃねえか。しゃれにならねえぞ……)
 そう考えていたときでした。
 背後に気配を感じて振り返った又兵衛は、知り合いの幸村がやってきたのに気づき安堵の表情を浮かべます。
「よう、幸村、力を貸してくれよ……って、どうしたんだ?」
 ピ―――――
「お、おい、幸村?」
 さらにその後ろからは、頭を完全に火照り上がらせて真っ赤になった氷藍が追いかけてきていました。完全に目がイッてます。
 ブッブ〜ブッブ〜ブッブ〜
 なにやら聞き取れないおかしな言葉を発し始めます。
 ピ―――――
 ブッブ〜ブッブ〜ブッブ〜
「ガアアアアアアアッッ!」
 孝高もこちらへやってきます。
 ピ―――――
 ブッブ〜ブッブ〜ブッブ〜
「ガアアアアアアアッッ!」
 口々に叫びながら、暴れ始めたではありませんか。スカートめくりよりも派手な騒ぎになっていきます。
「ど、どうしよう。止めないと……って言うか、孝高にこれ、あげたかったのに……」 
薫の狩衣の袖から取り出したのは、小さくて可愛らしい包み、バレンタインのチョコでした。
「……」
 一つ頷いて、薫は駆け始めます。