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リアクション
第1章
悪意の仮面の噂。
身につけたものの悪意を増幅し、善良な人間すら犯罪者にしてしまうという。
ここはツァンダ。
あらゆる噂があつまり、そして現実となる町。
仮面にまつわる噂の終着点。
「待て、キミたち……そんなものを着けて、どうするつもりだ?」
「ずっと考えてたの。私がバカだって言われるのは、勉強をさせられるからだって」
聞いたのは華佗 元化(かだ・げんか)。答えたのはレン・カースロット(れん・かーすろっと)。
「だから、勉強なんてなくなればいい。つまり、学校を壊せば、もう私をバカにする人なんていなくなる!」
レンの顔には黒い仮面が着けられている。その左右には、同じ仮面をつけた男が二人。
「レンが望むことなら、俺はそれを手伝う。当然だ」
と、シオン・グラード(しおん・ぐらーど)。
「面白そうじゃないか。考えてみれば、学校にいる強いやつと戦うのが一番手っ取り早い」
こちらはナン・アルグラード(なん・あるぐらーど)だ。
仮面の奥の瞳には、それぞれ尋常ではない色が宿っている。明らかに元化の知る彼らよりも、危険で凶悪な雰囲気だ。
「だいたい、蒼空学園を相手取って勝てるつもりか? バカを言うな」
「バカって言うな!」
逆鱗に触れられたレンが叫ぶと同時、その背中に黒い翼が開く。はっとした元化をナンが突き飛ばした。
「邪魔をするなら、排除する」
シオンが告げ、3人が駆けだしていく。残された元化が、大きく息を吐いた。
「……面倒なことになるまえに、止めないと……」
「このロマン! おお、見たまえ! まさにロマンの塊、ロマンの単結晶!」
「単結晶ではないと思うゾ」
「ああ、見たい! あたしは見たいぞ、このロマンそのものが飛ぶところを! それこそ天地開闢以来のすべてのロマンが結実する瞬間!」
「さっきから悪の博士のようなしゃべり方になってるんじゃナイカ?」
廃工場から二人分の声が漏れ出してきている。悪の博士のようなしゃべり方をしているのは吉木 朋美(よしき・ともみ)。助手ロボットのようになっているのは九十九 刃夜(つくも・じんや)だ。
声はすれども、工場の中にはどうやら罠と防壁が張り巡らされているらしく、中に侵入するのは容易なことではない。
「……こんな馬鹿なこと、さっさと止めないと……」
相変わらずのペースで続く会話に頭を抱えながら、九十九 昴(つくも・すばる)は唸っていた。
女が二人、対峙している。
片方は白狼セフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)。もう一方は黒い仮面を身につけた戦乙女エリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)。
「あんた、本気じゃないでしょうね?」
まっすぐに刀を構えたセフィーが聞く。エリザベータの仮面から覗く口元が、ふっと弧を描いた。
「同志セイニィのため、邪魔はさせない」
「あんたは自分の欲望を満たそうとしてるだけでしょうが!」
「あなたの中身は何色かしら?」
風のようにエリザベータが駆ける。セフィーの白刃がひらめく。一瞬の交差。
「……くっ」
セフィーが膝を突いた。一方のエリザベータの指には、小さな布が翻っていた。
「……いただいたわ」
「待ちなさい!」
制服の裾を押さえながら叫ぶセフィーの声も届かない。夜の空へ溶け込むように、エリザベータが高く飛び上がった。
「この調子で一千枚……いいえ、一万枚! ツァンダじゅうのパンツをいただくわよ!」
「聞いた? 悪意の仮面の噂」
ツァンダを見下ろすビルの頂上。炎羅 晴々(えんら・はるばる)が、傍らに立つ機晶姫に聞いた。
「あくい?」
その機晶姫……ピアニッシモ・グランド(ぴあにっしも・ぐらんど)が首をかしげた。
「いいなぁ。欲しいなぁ」
夢を見るように上空に目を向け、呟く晴々。
「マスターはあくいが欲しいのね」
「そうだね。みんなが困ってるみたいだから、取ってあげないとね」
「うん。それじゃあ、ピアノが取ってきてあげるよ」
シュウっと音を立てて、ピアニッシモのパーツが変形。だが、晴々は小さく手を掲げてそれを引き留める。
「一緒にやろう。考えがあるんだ」
「うん。分かったわ」
ピアニッシモが晴々の手を取った。風が吹いてやんだ時、二人の姿はそこにはなかった。
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