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釣果王を目指せ! 氷上釣りキング選手権!

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釣果王を目指せ! 氷上釣りキング選手権!
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4/釣りではっちゃけよう・そして

 釣りに集中、できない。
 ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が率直にそう思うのは、すぐ隣で釣り糸を垂れるパートナー、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)の恰好に原因がある。
 少なくとも、ミスティはそう感じている。
「……」
 そしてそれは、彼女らとともに釣りに興じるルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)としても同意見だった。
 三人並んで、そのド真ん中のレティシアだけ、占めている面積と体積がおかしい。
 まず、やたら黄色い。
 あと、やたらもこもこしている。
 そう、レティシアがその身を包んでいるのは、PSPことピヨスーツポータブル──更に噛み砕いて言うと、麗茶牧場のピヨぐるみなのだから。
 かさばって、幅広くって、邪魔で当然の着ぐるみである。
 当の本人は呑気に、マイペースに釣っているけれど。残るふたりとしては、どうにかしてしまいたいという本音がすさまじく湧き起っている。
 ちらと、視線を横に向ける。
 ミスティは、ルーシェリアに。ルーシェリアは、ミスティへと。
 一瞬のアイコンタクト。それだけで、十分だった。ふたりの心はひとつになった。こんなしょうもないことに対してであるのが些か癪ではあったけれど、きっと百パーセントの同調をふたりはそのとき、果たしていたと思う。
 ああ、そうだ。
 ちょうどすぐそこに、ウナギ漁に幾人かが飛び込んでいった氷穴が空いている。
 うん。蹴り落とそう。
 心の中でふたりは同時、はいといいえの書かれた選択書類の「はい」に丸をし署名をした。
「レティ?」
「はい?」
「ちょっと立ってもらえるですか?」
 ふたり、交互に声をかける。
 レティシアはきょとんとしながら、立ち上がる。
「で、ちょっと後ろを向いて」
「???」
 よくわからないまま、くるりとふたりに背を向ける。
「「今だあぁっ(ですうぅっ)!!」」
「ふあぁっ!?」
 その、もこもこした背中へとふたり力を合わせ、同時にドロップキック。
 ひよこの着ぐるみは吹っ飛んで、雪原を転がっていく。そして、氷の穴の中、水面へとホールイン・ワン。
 よーし、成功だ。ふたりはがっちり腕を組んで頷きあう。
 無論、成功だとかそれどころではないのは蹴っ飛ばされたほうである。
「ああっ!? あー! あー! ふああー!?」
 いくら、着ぐるみが水に浮くからって。その生地が分厚いからって。
 竿を握ったまま吹っ飛ばされたら。顔面の側から、極寒の湖の中に落ちたらそりゃあパニックである。
 おまけに、竿と糸がファスナーに絡まって、本来密閉されているはずの着ぐるみの中に直接、水が入ってきたら。
「冷たい!? 冷たい!? なんで、どうしてぇー!?」
 まるで弾丸のように慌てて岸に上がって、着ぐるみを脱ぎ捨てる。ブーツと、着ぐるみの中に着込んでいた水着だけになって濡れ鼠という、実にシュールな格好であちこち駈けずりまわる。
「いやー、いいリアクションだわ」
 冷たいのに。寒いのになぜだか、雪を地肌にこすり付けているし。そのくらい、パニクっている。
 その動揺っぷりにほくそ笑みつつ、ふたりが少し悪いことをしたかな、と思ったちょうどそのときである。
 ガンッ、と。転げまわるレティシアの射線上に、ふたりの釣った魚の入ったそれぞれのバケツが、いつの間にか収められていたのである。
 当然、パニック状態のレティシアがそれに気付くわけもなければ、それによって立ち止まるわけもない。
「あっ!?」
 結果、それらは蹴り出される。
「あああー!?」
 いい音を立てて。測ったように、それぞれがたった今まで釣り糸を垂れていた釣り穴めがけて。
 ひっくり返って──中の魚が、水が。湖へと放流されていく。
 人を呪わば穴二つ、とはよく言ったものだ。
「な、なななんてことするのよっ!?」
「それ、こっちのセリフですぅ……」
 思わず、レティシアへと詰め寄るミスティ。
 なんで私怒られてるの? といわんばかりに、びしょ濡れのレティシアは半泣きだった。
「え、えーと……」
 どうにか残った魚を、」ルーシェリアはそれぞれのバケツに戻していく。
「一体何匹残ったの!?」
「うんと、私が三匹で……ええと、あなたが四匹ですぅ」
「おお、一匹差」
「一匹差じゃないわよっ!?」
 へっくしゅん。レティシアの、気の抜けたようなくしゃみが風の中に消えたのだった。



「それで、結果は十一匹釣ったこのコが勝利、ですか」
 水着の上から羽織った毛布が、フォークの先にフライを刺すたび揺れる。本部に設置されたモニターを、そこに映る優勝者を見ながら吹雪は不満げだった。
「あそこでウナギさえ逃がさなければ、捕まえていれば……」
「でも、怪我とかしなくてなによりじゃない」
 コルセアがなだめる。
 結局、飛び込んだはいいものの吹雪は大ウナギの大群に囲まれてわりとピンチだったようである。
 結果、こうして優勝者の発表を本部テント間近の救護所を兼ねた簡易食堂で見ているのだ。
「運営の人たち──狩猟組合の人たちに感謝しないと」
「それは、そうですけど」
 ずずず、と魚の出汁のよく出た味噌汁をすする。
「はい、あーんして」
「あーん」
 ムニエルをフォークの先に差し出されて、吹雪はぱくりと頬張った。くやしいけれど、おいしい。
 向こうでは、シャウラとななながうな丼をそれぞれつついている。そのお茶を、アゾートが取り換えていく。
 レティシアが、ルーシェリアがなにやらのたうちまわっているのはワカサギを生のまま踊り食いしたから。活け造りだ、なんて言いながら。
 モニターは、優勝者から今度は、独力で巨大ウナギを捕まえたセレンフィリティへのインタビューへと移っていた。
「勝ちたかった、なぁ」
 熱いお茶を、そう言って吹雪は飲み干したのだった。
 同じようなぼやきが、会場の、そして食堂のあちこちの「釣果王」へとなりそこねた皆の口から漏れていた。

                                      (了)

担当マスターより

▼担当マスター

640

▼マスターコメント

ごきげんよう。ゲームマスターの640です。シナリオ『釣果王を目指せ! 氷上釣りキング選手権!』のリアクション、いかがだったでしょうか?
今回、残念ながらゾロ目で倍の数を釣り上げた方がおられませんでしたので、優勝は十一匹を釣り上げました瀬乃 和深さんの優勝となります。
ただサイコロを利用する今回のこの方法についてはルール面、説明の面で我ながらわかりにくい面があったかなぁ、と反省中です、はい。次に利用することがあれば改善策を講じないと、ですね、はい。
次はシリアス方面のシナリオを考えております。予定ではありますが、お楽しみに。
また、お会いできることを祈りつつ。では。