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お花見その1(サニーたち)

「わぁ、本当に綺麗な紫色〜」
 桜を見上げ、師王 アスカ(しおう・あすか)が満足そうに呟く。
 しかしその膝の上にはハーモ二クス・グランド(はーもにくす・ぐらんど)の頭が乗っている。
 更に見上げる桜には、ラルム・リースフラワーが腰かけて歌っている。
「……どうしてこうなったぁ?」
 マスクをしたままアスカは苦笑する。
 アスカは、花見に来たはずだった。
 ハーモニクスとラルムを誘って。
「何故マスターはあの鬼の恋人を連れて来なかったのでしょうか」
「え、何故って?」
「紫桜の花粉の効果を考えるなら、彼を同行させてイチャラブすれば……」
「もーぅ、ニクスってば最近言葉がポイズン過ぎるわよ〜」
 ハーモニクスの言葉に苦笑するアスカ。
「二人ともお花見は初めてでしょ。一緒にお花見して思い出づくり、なんてどぉ?」
「思い出づくり……いいかもしれませんね」
「でしょ〜」
「経験の積み重ねによって、マスターを護る確率が上がるのでしたら」
「もぉ、そーゆーコトばっか言って」
 相変わらずねぇと笑うアスカ。
「さくらさん、はじめまして……いぢめる?」
 ラルムはというと、桜にご挨拶の真っ最中。
「おはなし、したかったんですぅ。でもさくらさんはあまりおしゃべりはできないんですねぇ。だったら、ボクが代わりにお話ししてあげます」
 ラルムは桜にこつん、と額を付ける。
(……ん?)
 僅かに、桜の気持ちを感じる。
 ――イブツ、異物、イブツ――
 ――コドモ、子供、コドモ――
「……んー?」
 首を傾げるラルム。

 状況が一変したのは、突風の後。
 それが、風上の巨大扇風機によるものだとはアスカたちは知らない。
 だが、花粉の効能は知っていた。
「さ、く、ら、さぁ〜ん」
 ずりずりずり。
 紫桜の根っこの上に腰を掛けたラルムは、頭を幹にもたせ掛ける。
 そのまま、瞳を閉じてゆっくりと歌いだす。
「るぅ〜♪」
「るるぅ〜♪」
 ラルムの歌にあわせるように、そよ、そよと紫桜が揺れる。
「ラルムってば甘えちゃってるみたいねぇ」
 微笑ましそうにその光景を眺めるアスカ。
「どう? ニクスも。なんなら私に甘えてきてもいいんだよぉ?」
 からかうようにハーモニクスを見る。
「ほぉ〜ら、私の胸に飛び込んでおいで〜」
「分かりました」
「なぁんてね……って、え?」
 冗談を笑い飛ばそうとしたアスカに返ってきたのは、ハーモニクスの真面目な言葉。
「甘えるとは、経験したことのないカテゴリーです。マスターに甘える行為を開始します」
「おぉ〜?」
 ごろん。
 アスカが何か言おうとする前に、ぎこちない様子で、アスカの膝に頭を乗せる。
 更に、その膝に頬をすりすり。
「膝枕、遂行しました。その後は抱っこ、おんぶ、上級編として……」
「ま、全くもぅニクスってばぁ……」
 苦笑しながらも、アスカの声は僅かに裏返っていた。

「うわぁ、私達の分まで作ってきてくれたんだ、ありがとう柚ちゃん!」
「姉さんてばすっかり自分たちの分忘れてるんだからねえ」
「えへへ、喜んでくれて嬉しいです」
 花見の主催者、サニーは杜守 柚(ともり・ゆず)の作った花見弁当を前に上機嫌だった。
「サニーさん、これ、どうもありがとう。この間のチョコも美味しかったよ」
「うぅん、こちらこそ。ちゃんとお返しできて嬉しいわ」
 杜守 三月(ともり・みつき)がサニーから渡された袋を持って礼を言う。
 中身はサニーが焼いたクッキー。
 先日サニーが三月から貰ったチョコレートのお礼だという。
(嬉しいけど、レインさんからの視線が怖い……)
 笑顔で答えながら背中に突き刺さる視線を感じる三月。
「ほら、レインもクラウドも柚ちゃんにお礼を言ってよ。レインたちの好きなチキンのハーブ焼きやローストポークまで作ってきてくれたんだから」
「……それは、わざわざ悪かったな」
「うわーすげー。ありがとな!」
 姉の言葉に素直に感謝の言葉を継げるレインとクラウド。
「ところでサニーさんは好きな人とかいるんですか?」
 女の子同士の会話といえば、コイバナ。
 柚の何気ない言葉にぴくりと固まるレイン。
「うーん、いないなぁ。今までも全然縁がなかったし、ご近所の皆さんは優しいけど、皆年上の人たちばっかりだったし。柚ちゃんは?」
「私は、その……紫桜の恋のおまじないを、してみようかなって思ってたんです」
 少し顔を赤らめる柚に、サニーがおぉ、と身を乗り出した時。
 ぴゅぅう〜。
 突風が吹いた。
「ん……」
「うん……」
 途端にとろんとした表情になるサニーと柚。
「……ぎゅーってしても、いい?」
 三月に身を寄せるサニー。
「……もっと傍にいてください……」
 三月にすり寄る柚。
「あれ、ちょっと?」
 花粉症のためにマスクをしている三月は、少女二人の変貌ぶりに茫然とするばかり。
 やがて自分の方にくっついてきた柚とサニーの頭を撫でながら、違和感に気づく。
(おかしい)
(こんな時、絶対に何か文句を言ってくる人が何も言ってこない)
 レインの方に目をやる。
 彼は、マスクをしていなかった。
「……三月ぃ。いつも姉さんが世話になってて悪いな……!」
 三月に向かい、駆け寄ってくるレイン。
 ひらり。
 三月は避けた。
 柚とサニーに抱き着かれたまま。
 そのままレインはマスクをしているクラウドに激突。
「兄貴……今更だけど、戻ってきてくれて良かった……」
「ホントに今更だな!」
 弟に甘えかけられ、困ったように周囲を見回すクラウド。
 と。
 アスカと目が合った。
 彼女もまた、ハーモニクスに抱き着かれ甘えられている最中だった。
「見〜た〜な〜」×2
 二人の声が重なった。