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デスティニーランドの騒がしい一日

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デスティニーランドの騒がしい一日

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第7章 ひといきミラーハウス

 お化け屋敷での騒動が落ち着いた後。
 ディアーナ・フォルモーントは、五百蔵 東雲に声をかけた。
「しのくんは、どこか乗りたいアトラクションはないんですか?」
「うーん、絶叫系は体力が持たなさそうだしなぁ……」
 首を傾ける東雲。
 ふと、視線の先にある小さな建物に気が付いた。
「あれ、ちょっと面白そうだな」
 鏡の迷宮、ミラーハウス。
「それじゃあ、一緒に入りましょうか」
 東雲の方を振り返ると微笑み、すたすたと歩き出すディアーナ。
 慌てて追いかける東雲。
 入口の前で、ディアーナはリボンを取り出した。
「手を出してください」
「?」
 ディアーナは東雲の手を取ると、リボンの片方を東雲の手首に、もう片方を自分の手首へと結びつける。
「なんだ、これ?」
「しのくん、迷子になりそうだから」
(なんかこう……犬の散歩みたいだな)
 ディアーナの、全く悪気のない、むしろ善意のリボンを東雲は少し困惑気味に見ていた。

「綺麗……素敵な世界ですね」
「ほんと、とっても幻想的な……わわっ」
「大丈夫ですか、牡丹殿! 気を付けて歩かないと鏡に当たってしまいますぞ」
 鏡に囲まれた不思議な世界。
 その中を、白雪 椿(しらゆき・つばき)はうっとりと歩いていた。
 その傍らには、白雪 牡丹(しらゆき・ぼたん)
 二人で歩いている光景は、まるで姉妹のように見える。
 牡丹の手を取り転ばないか周囲を確認して歩いているのは八雲 虎臣(やくも・とらおみ)
「椿様も、お手をどうぞ」
「えっ」
「……危険ですから」
 手を取り合って歩く八雲と牡丹を見て、椿に手を差し出したのはヴィクトリア・ウルフ(う゛ぃくとりあ・うるふ)
 その手が僅かに震えている事には、八雲以外は気づかない。
 ウルフも八雲も、遊園地を楽しもうという考えは微塵もない。
 ミラーハウスも、二人にとっては主君を惑わす迷宮くらいにしか考えていないようだ。

「やっと出られましたね。たまには迷子になってみるのも楽しいですね」
「そ、そうですか。それは良かったです」
 鏡に見とれ、時に迷い。
 4人はたっぷり時間をかけてミラーハウスを彷徨った。
 無事抜け出た時にはもう昼過ぎになっていた。
「牡丹殿、お疲れではないですか? そこで休まれてはいかがでしょう。飲み物などをお持ちしましょうか」
「大丈夫です。ふふ、八雲さん」
「何でしょう」
「なんだか、お兄ちゃんみたいですね」
「……き、恐縮です」
 牡丹の言葉に赤面して俯く八雲。
「そろそろ昼食の時間ですね。お弁当にしましょうか。皆さんの分も、作ってきたんですよ」
「私もお手伝いしたんです」
 ピクニックシートを広げると、バスケットを開ける椿。
「こ、これは申し訳ありません」
「私などのために、すみません」
 予想外の展開に慌てる八雲とウルフ。
 バスケットの中からは、サンドイッチや色とりどりのおかず。
「ウルフさん、クリームコロッケがお好きでしたよね。はい、どうぞ」
「つ、椿様……そんな勿体ない」
「そんな事ありません。召し上がってくださいね」
 取り皿に乗せられたコロッケを、感動の面持ちで眺める椿。
「八雲さん、はい、あーん」
「え、その」
「あーん、してください」
「む……あ、あーん」
 牡丹から差し出されたものを、震える口を開けて食べる八雲。
「おぉ、これは……」
「肉じゃがです。八雲さんが好きだって聞いたから、作ってみました」
「おぉお……」
 こちらも感動で声が出ない。
 幸せな(特に二人にとって)ひととき。
 そこに、乱入者が現れた。
「ぱーぱぱぱぱぱぱぱーんっ!」
「トッピー!」
 デスティニーランドの、本日限定のマスコット2体。
 だらりと垂れた覇気のないパンダと、原色のトカゲ。
「ぱっぱー。ぱぱぱぱぱーん(やっほー。垂ぱんだだよー)」
「ハハハッ、皆のアイドル、トッピー・リザードやでぇ!」
 ぴょこぴょこ歩いて4人に挨拶する。
「なんだ、こいつらは……」
「それ以上椿様達に近づいてみろ。斬る」
 遊園地に似つかわしくない殺気を放ち、警戒する八雲とウルフ。
「まあ、可愛い」
「わーい、一緒に写真を撮ってもらえないでしょうか」
「え」
「え」
 そんな二人の警戒を余所に、大喜びでマスコットに駆け寄る椿と牡丹。
「本当は、ダナルドさんが好きなんですけども……この子たちもかわいいのです」
「そうですね。私も、握手をお願いできますでしょうか」
「ぱぱぱぱーん(おっけー)」
「ハハッ、お客さんお目が高いなぁ」
 あっとゆう間にマスコットを中心にほのぼのの輪が広がる。
 その中に入ってゆけず、立ち尽くす二人。
「ウルフさんも握手をしませんか?」
「八雲さんも写真を撮りません?」
「あ……私は、遠慮します」
「私がシャッターを押しますから」
「いえ、本当に……(ギラリ)」
(ぱぱ!?)
(な、なんや!?)
 大切な主君の手をあっさり握り、あまつさえハグなどしているマスコット。
 八雲とウルフの凍るような殺気に、知らず寒気を覚える中身の朝霧 垂と瀬山 裕輝だった。