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冒険者の酒場クエスト

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冒険者の酒場クエスト

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 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は、忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)がはしゃぎながら探索する後ろをゆっくりと歩いていた。
 高くそびえる岩山を、大小の岩が積まれた天然の壁が円状にぐるりと囲んでいる。ドラゴンの巣と大荒野を区切る外円部である。

「クンクン、ここからこっそり行けば安全そうですよー」

 豆柴状態のポチの助が尻尾を振りながらフレンディスにそう言うと、警戒心の欠片も見せずに入っていく。
 一応トレジャーセンスや野生の勘を使っているのだが、傍から見れば散歩中に縄張りを探す子犬にしか見えない。

「それに致しましても……この広さで探すのは大変ですね。
 ドラゴンさんもいらっしゃるようですが出来れば穏便に済ませたいものです」

 ポチの助の後を歩きながら、フレンディスが辺りを見回す。
 至る所に岩が散乱し、隠れて進むには問題なさそうだが。

「これだけ広ぇと面倒なんてモンじゃねーなぁ……ま、頑張れよポチ」

 最後尾を歩くベルクがぼさぼさの頭を掻きながらあくびをする。
 ポチの助が睨んでくるが無視して取り合わない。
 そんな水面下の争いに気付く様子のないフレンディスが、物珍しそうに歩いていた。
 よく見れば地面に動物や得体のしれない骨などが転がっているが、軽い足取りで危なげなく進んでいく。

「マスター、見てくださいあれ。何でしょう?」

 フレンディスの指差す先にはガラクタが積まれた山があった。
 周りには壊れた冷蔵庫っぽいものやテーブルみたいなものが散乱している。

「ゴミの山か……? なんでこんなところに」
「むむ、ピンときましたよ!」

 ベルクが訝しげに眺めていると、ポチの助が飛び出していった。
 山の一角に登ると尻尾をパタパタと振り続ける。

「まぁ、ポチの助。ここ掘れワンワンの術ですね」

 ポチの助のところへ移動したフレンディスが嬉しそうに言う。
 だが、ベルクは険しい顔で違う方向を見ていた。

「その前に隠れた方が良さそうだ。どうやらドラゴンが近づいてきている」

 そう言いながらベルクはフレンディスの手を取って冷蔵庫っぽいものの影に移動する。
 置いていかれたポチの助も、慌ててガラクタの隙間へ隠れた。
 地響きが近づいてくる。
 ベルクとフレンディスは狭い物陰に抱き合うような形でじっとしていた。
 顔を真っ赤にしたフレンディスが何か言おうとするが、ベルクはその口を押えて黙らせる。
 やがてドラゴンが遠くへ離れたのを確認して、二人は物陰から出てきた。

「ご主人様! 自販機をみつけました!」

 自販機を発見して興奮するポチの助は、様子のおかしい二人に気付かず、無邪気にはしゃいでいる。
 ポチの助が見つけたのは最近倒壊したらしい半壊の自販機だった。
 動力はまだ生きているが、動かなくなるのも時間の問題だろう。
 ベルクは壊れて開いた箇所から無事なコーラの瓶を取り出すと踵を返した。

「さ、帰ろうか」
「はい……」

 やっと様子がおかしいことに気付いたポチの助が問い詰めるが、二人は何も言わなかった。

 ◇

 岩が支配する場所、大荒野のドラゴンの巣。
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)はそこの外円部に到着していた。
 事前に情報を集め、ドラゴンが狩りに行く時間を見計らっての潜入である。

「大荒野にドラゴン、そしてコーラとは、なんともシュールな組み合わせだな」
「こんな場所にあることを突き止めるとは、あのベイブという人間はよほどコーラに執着しているのでしょうね」

 グラキエスの感想にロアがこたえる。
 大荒野には至る所にモンスターの巣と呼ばれる場所はあるが、その中でも殊更凶悪なドラゴンの巣に足を踏み入れようとする者は少ない。

「それも古代王国時代のコーラです。もしそれが今でも飲める状態で保存されているのならば、失われた古代の技術というのは余程すごかったのでしょう」

 グラキエスたちの目的は、コーラの取得とその自販機の解析にあった。
 何千年もの間、鮮度を保って保存しておく技術が再現できれば、様々な利便性が向上するだろう。

「主よ、今のところドラゴンの気配はありません」

 単身で偵察に出ていたアウレウスが戻ってきた。幻槍モノケロスを離さず、常に周りを警戒している。
 資料で調べた通り、この時間は餌を探して飛び回っているらしい。
 だが、大荒野にはそれ以外の危険も溢れている。警戒しすぎることは無いだろう。

「よし、それでは探しに行こう」

 グラキエスがそう言って巣の内部に足を踏み入れた瞬間、苦しそうに胸を押さえて膝をついた。

「エンド!」
「主!」

 ロアとアウレウスの二人はグラキエスに駆け寄り、身体を支えた。

「大丈夫、ちょっと眩暈を起こしただけだ。ドラゴンについてずっと資料を検索していたから、少し疲れたんだろう」

 顔を上げたグラキエスの呼吸は乱れているが、表情はいつもの状態に戻っている。
 アウレウスはほっとした顔で周囲の警戒に戻るが、ロアは先を歩くグラキエスの後姿を真剣な眼差しで見つめていた。
 しばらく進んでいくと、目的の物はすぐに見つかった。ガラクタの中に設置された赤い自販機である。
 三人は自販機を取り囲み、悩んでいた。
 持ち運ぼうとしたところ、大小様々なケーブルが地中深くまで伸びていたのだ。
 もし自販機を持ち出しても、保存技術の基盤が地面の下だとしたら、解析しても得られる結果には期待できないだろう。

「「「うーん」」」

 三人同時に腕を組み、唸り声を上げた。

「これはちょっと……想定しておくべきでした。おそらくサーバと端末のような関係なのでしょう」