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早苗月のエメラルド

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早苗月のエメラルド
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To Victory


 帆船は一定のリズムで揺れている。
 昨日漂流した船とは思えない程安定した航海を続ける中、そろそろと船腹へ降りて行くもの達の中で、ベルクは何かを思い出したように立ち止まった。
「フレイ!」
 甲板で自分の居るべき場所へ向かうフレンディスの元へ駆け寄って行く。
「マスター、なんですか?」
「イナンナの加護を」
 不器用な自分が伝えられる事は少ないから、想いを込めて彼女へ力を授ける。
「無事を祈ってる」


「パパ、ボクちゃんと待ってるよ。
 下で皆を護ってあげるんだ!」
「ユウキ、良い子だ」
 リアトリスは、ユウキの頭をくしゃっと撫でて息子を見送ると、武器を装備し直した。


 イコナ・ユア・クックブックは舵輪の方へ向かう源 鉄心の背中を掴んだ。
「ホントは、怖くない訳では無いんですのよ」
「鉄心さん、私達、信じてます」
 二人の言葉に、鉄心は分かっていると頷いて微笑む。


「切札〜、合体しようぜぇ〜」
 ちょっと違う意味で取られそうな言葉を吐いたのはインベイシア・ラストカードだ。
 彼女に続く様に魔装侵攻 シャインヴェイダーもそれぞれのパートナーの為の魔鎧へと化して行く。
「ボクら、今回の戦いで口を出す気はないよ」
「思い切りやっちゃって!!」
 そしてこっそり鬼龍 白羽を纏いヒーロー”ネクロ・ホーミガ”を名乗る鬼龍 貴仁と蔵部 食人、白星 切札は準備万端で鯨を待ち構えた。





 静かな海。
 ヴァーナーの弾くディヴァルディーニの音色だけがそこに響いている。
 メインマストの最上部のヤードに、ジゼルは座っていた。
「何でこんな高いところに?」
 そう言って震えながら彼女の手を握っているのは杜守 柚だ。
「ここが一番皆に声を届けられるから、柚は下に居て大丈夫だよ?」
「私もここにいます!」
 むきになったように言う柚に、ジゼルと、彼女と一緒にヤードに昇っていた雫澄は思わず顔を見合わせて吹いてしまった。
「大丈夫! 私は少しだけなら飛ぶ事が出来ますから、
 もし危なくなったら皆さんを抱いて飛んであげますよ!」
 姫星がどんと胸を叩いていると、ジゼルの前に箒に乗った和深が近づいてきた。
 和深ははリースと共に空を飛んでそこを警護しようとしていたのだ。
「ジゼルさん、あのさ……
 俺いつもタイミング悪くて、前に一度会った時も、朝とかも……
 だからそのお侘びったらなんだけど、今日はあんたを守るよ」
「うん、ありがとう」
 ジゼルは後ろを振り向いて、下へ目を移す。
 操舵輪の前に雅羅が立っているのが見えた。
 彼女の横には理沙や鉄心、大吾らが控えているのが見える。
 皆が守ってくれるなら安心だろうと海に視線を戻して、
 そしてまだ何も見えて居ないのにジゼルにはそれが分かった。

「来るわ」

 美しい海が、
 昨日のあの時と同じ様に、静かに姿を変えようとしていた。