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寂れたホラーハウスを盛り上げよう!!

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寂れたホラーハウスを盛り上げよう!!
寂れたホラーハウスを盛り上げよう!! 寂れたホラーハウスを盛り上げよう!!

リアクション

 二階、舞踏会好きの奥様の衣装部屋。

「……この部屋は三人」
 スウェル・アルト(すうぇる・あると)は静かな室内を見回した。いるのは自分を合わせて三人。
「そうね」
 天ヶ石 藍子(あまがせき・らんこ)も頷き、同じように室内を見回した。部屋には、いくつものクローゼットと姿見や宝石箱が置かれた化粧台があった。

「スウェル、スウェル。このクローゼットに隠れて人が来たらばーんと出てびっくりさせたいですっ!」
 アンドロマリウス・グラスハープ(あんどろまりうす・ぐらすはーぷ)は、ドレスがたくさん掛けられているクローゼットをいくつも開けながら楽しそうに言った。

「私もそのつもり」
 アンドロマリウスに答えるスウェルの口調は淡々だが、ホラーハウスの類は好きだ。
「そうね。隠れるのにぴったりの場所だものね」
 藍子は頷きながら周辺を見回るアンドロマリウスを眺めた。
「こう、薄暗くてひゅーどろどろって何か出てくるんじゃないかっていうドキドキ感が良いですよねっ」
 アンドロマリウスもお化け屋敷について言葉を挟んだ。
「そうね。それで誰から先にする?」
 藍子はとりあえず人数がいるということで驚かせる順番を決める事にした。
「一番をやりたいです!」
 真っ先に答えたのは、お化け屋敷が大好きなアンドロマリウスだった。
「いいわよ。私はローブ姿になってひらひらと空を飛ぼうかしら。ワイヤーがいるわね」
 そう言い、藍子はクローゼットと天井を見ながら作戦を考えていた。空を飛ぶにはワイヤーと引っ張る必要があると。
「ゆら〜りって感じに引っ張りますよ」
 藍子の計画にアンドロマリウスが協力を申し出た。部屋の確認はすっかり終えていた。
「手伝う」
 スウェルも協力を申し出た。ホラーハウスを成功させるには協力する必要があるので。
「ありがとう、お願いするわ」
 藍子は二人に礼を言った。

「……アンちゃん、準備」
 今の素顔のままではいくら雰囲気のある部屋でも人を驚かせる事は出来ないのでメイクと衣装を整える事にした。
「チェシャ猫風のシマシマ顔のメイクに執事風の衣装を借りてみたいです!」
 アンドロマリウスはもうどんな姿で驚かせるのか決めているようだった。
「……私は西洋風の猫娘」
 とスウェルも考えつつアンドロマリウスと一緒に部屋を出た。
「私は準備でもしましょうか」
 部屋に残った藍子は、空を飛ぶためのセッティングを始めた。

 二階、狩猟好き主人のコレクション部屋。

 薄暗い中、猟銃やナイフや獣の皮や目が不気味に輝く剥製などがずらりと部屋中に並んでいた。

「ここが狩猟好き主人のコレクション部屋か」
 毛並みふわふわの銀色の猫姿のンガイ・ウッド(んがい・うっど)は足元に豆腐が入ったボールを置いて部屋を見渡した。
 そこに先客が声をかけて来た。
「おまえもここで客を驚かせるのか」
 ンガイより先に来ていたのはオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)だった。オルフィナは、黒狼の耳と尻尾、爪付きロンググローブとロングブーツに毛皮のビキニでウェアウルフになっていた。
「そうだ。我はポータラカ人のンガイ・ウッドである! 呼び難ければシロと呼ぶが良いぞ。このように準備をしておる」
 ンガイは、名乗り、ボールを示した。
「……豆腐か」
 オルフィナは面倒臭そうにちろりとボールの中身を確かめ言葉を洩らした。
「そうだ。ナノマシンを拡散し、目に見えぬ恐怖を与えるのだ。この豆腐を握り潰して水滴と潰された豆腐の二重攻撃……最高のホラーであろう」
 ンガイは、自ら考えた計画を自信に満ちた調子で説明した。

「……豆腐で最高、か。こんな肉より食べ応えのない物で驚かせるのか」
 無類の肉好き酒好きのオルフィナは思わず言葉を洩らした。

「木綿と絹ごしを用意しておる。木綿は男性、絹ごしは女性だ。タオルもあるぞ」
 しかも豆腐にもきちんとこだわりを持って用意した徹底ぶり。本気で豆腐でホラーを演出する気まんまんだ。一瞬で汚れを落とすタオルも用意している。
「……それはそれで別に構やしないが」
 別に反対する気は無いオルフィナは適当に言った。
「互いに邪魔をしない事は前提としてにそなたが客を襲い、我は出入り口近くで客に恐怖の豆腐攻撃を仕掛けようと思うが、どうだ」
 ここでンガイはこれからの活動についての提案をオルフィナにした。
「おまえが俺の邪魔をしないのなら構やしない」
 自分の邪魔をしないのなら問題無いのでンガイの提案を受けた。
「……では」
 ンガイは頷き、ナノマシン拡散で目に見えぬ恐怖の第一歩の準備をした。
「さて、可愛い獲物をゆっくりと待つとするか」
 オルフィナは不敵な笑みを浮かべながらドアを見つめつつ客が訪れるのを待った。

 二階、夢見る長女の人形部屋。

 静かで薄暗く無駄に広い部屋に隙間無く並ぶ様々な洋風の人形。妖しく光る人形の目が怖い。環境はすっかり整っている。

「さて、準備、準備。どんな妖怪に化けようかな」
 驚かし役の東方妖怪伝奇録 『霊奇タン』(とうほうようかいでんきろく・れいきたん)はぞろりと部屋中に並ぶ人形を見回しながら楽しそうに作戦を考えていた。
「定番の定番でまずはのっぺらぼう。振り向きざまに驚かそうかな。人形遊びをしていて……」
 頭の中で設定を考えながら適当な人形を用意する。
「ここで人形遊びをしてるだけじゃ、写真を見つけてどこかに行かれるかも」
 客の足を止める方法を考えた末、東方妖怪伝奇録は用意した人形の右目を外して出入り口付近に置いた。
「現れてすぐに声をかければいいかな」
 そう言ってすぐに可愛らしい着物を着た顔が真っ白の少女に姿を変え、床に座り込んだ。
 準備は整った。後は、客が訪れるのをひたすら待つだけだ。

 二階、廊下。

「俺達、二人は客を驚かす」
 瀬乃 和深(せの・かずみ)は、楽しそうに周囲を見回している春夏秋冬 セツ那(ひととせ・せつな)に言った。
 今現在、和深の指揮の下作戦会議中である。
「和深と頑張るのだ。おどろかすって何をすればいいのだ?」
 元気に答えるも驚かすという意味がいまいち分からずに和深に聞き返す。
「俺の言う通りにすれば問題無い」
 ぐっと陽気に親指を立てて春夏秋冬に言った。
「おーし、頑張るのだー!」
 両拳を作って気合い十分。
「……あのわたくしはどこで歌えばよいのですか」
 BGM担当として連れて来られたベル・フルューリング(べる・ふりゅーりんぐ)が和深に聞いた。
「死角で不気味なものを歌い続けてくれ」
「はい」
 ベルは和深に頷き、廊下を眺め、歌う場所を探した。
「私は和深さん達の見張りをします」
 上守 流(かみもり・ながれ)は和深に指示される前に自分の役目を口にした。はしゃいでいる春夏秋冬と元気な和深の姿。確実に暴走する予感に満ち溢れている。
「……見張りって、まぁ、いいか。さっそく」
 和深は少し気になるも何も言わず、貰った透過飴を口に放り込もうとしたが、流の言葉でその手は止まった。
「それを飲んで何をするつもりか教えてくれませんか」
「当然、お化けとして女の子に抱きつこうかと」
 温和な流の言葉に和深は当然だと言わんばかりに答えた。
「……それはダメですよ」
 にっこりと言う流。顔は笑顔だが言葉の奥にはぎらりと光る凶器。
「……分かった。でも誰かがしないといけない役目だ」
 和深は素直に諦めつつ別の考えを浮かべ、ちらりと春夏秋冬を見た。
「だったらあちしがやるのだ! お化けをするのだ」
 楽しそうだと思った春夏秋冬は元気にお化け役を立候補した。
「……あなたならいいですよ」
「あちしのかっちょいい姿を見せてやるのだ!」
 流の許可も出て春夏秋冬はお化け役に決定した。
「……」
 和深は黙って透過飴を食べて透き通っていく春夏秋冬を眺めていた。