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変態紳士を捕まえろ!

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変態紳士を捕まえろ!

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二章 遭遇する

「うん……男の人は女装しないといけないのは分かってるんだけど……なんでそんな格好?」
 芦原 郁乃(あはら・いくの)は百合園女学院の廊下を歩きながら大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)に訊ねた。
「なにを言うてるんですか、男の僕がまともに女装しても変態が増えるだけやろ? そやから白粉塗って和装してるんじゃないですか」
 泰輔はしゃなりしゃなりと歩きながら綺麗に化粧を施された顔で笑顔を見せた。
「泰輔さんは女装が必要ですけど……私までこんな格好しなくても……」
 ゆっくりと優雅に歩く泰輔の後ろをレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)がワンピースドレス姿でついていく。
「私にはこんな格好似合いませんよ……」
「そう思ってるのはレイチェルさんだけやと思うけどな」
「そーそー。それに、可愛い格好してないと囮の意味が無いし」
「永谷さんも格好は可愛いですよ?」
 そう言って郁乃は大岡 永谷(おおおか・とと)の巫女服姿を褒めた。
「格好……『は』……?」
「あ……えっと……あははは〜……え、え〜っと……それにしても現れないね変態さん。ひょっとして、もう帰って……」
 永谷の刺すような視線から逃げるように郁乃が話を変えようとすると、
「少女の期待に応えて、変態紳士! 参上!」
 教室から股間に紙一枚付けただけの仮面男が飛びだしてきた。
「きゃああああああああああああああ!?」
 あまりにも突然のことで郁乃は思わず顔を手で覆って悲鳴を上げた。
「皆さん! 変態が出没しました! 心にトラウマを残したくない人は早々に逃げて下さい!」
 永谷は郁乃の悲鳴と同時に近くにいた生徒たちに逃げるように呼びかける。
「はっはっは! 怯えなくてもいいのだよ無垢なる少女たちよ。私は股間の金環日食を鑑賞してもらいたいだけなのだ。後、よろしければパンツをください」
 変態紳士が状態を仰け反らして、股間を強調するポーズを取った瞬間。
「郁乃様に……」
 郁乃の後ろに控えていた秋月 桃花(あきづき・とうか)は一気に前に出て、
「粗末なものを見せないで下さい!」
「ぶふぇ!?」
 変態紳士を殴り飛ばした。
「全く……こんなことをするために侵入するなんて……小さいですね」
「全く見られたモノじゃないですよね」
 桃花の言葉に続くように蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)が言葉を合わせる。
「なんだと!? くそぅ、もう一度言ってみろ!」
 養豚場の豚を見るような冷めた視線の二人に変態紳士は語気を荒げるが、二人の言葉は変わらずに冷たい。
「人として男として失格です」
「失格ですね、人間やめたほうがいいですよね」
「ちくしょう……もう一丁お願いします!」
「あかんよ二人とも、あの人喜んどるって」
 バンバン罵声を浴びせている二人に、泰輔が声をかける。
「おお! こんなところで君みたいな美人に出会うとは……さあ、君も見たまえ我が金環日食!!」
 標的を泰輔とレイチェルにシフトした変態紳士は素早く足を開いて股間を見せようとした刹那、
「隙有りや!」
泰輔の足が変態紳士の股間を正確に蹴り上げる。
「……っ!??!??」
 ぐちゃりと肉が潰れるような不愉快極まる音が辺りを支配し、変態紳士も顔中にシワを作って無言のうちに倒れ込んだ。
「あ……あの、大丈夫ですか?」
 レイチェルは不安そうに声をかけると、うずくまった変態紳士はグッと親指を突き出して見せた。
「さ、変態の動きを止めたことだし、僕たちはお暇させていただくよ。いつまでもいると、僕まで変態扱いされそうだし……」
「そ、そんな! 捕まえるまで一緒にいたっていいじゃない。ボクがそこの変態にイタズラされたらどうするのよ!?」
 さっさと帰ろうとする泰輔を鍛冶 頓知(かじ・とんち)が呼び止める。
「……さ、レイチェルさん帰ろか?」
「無視!? 今ボクと完全に目が合ったでしょ!? 無視しないでよ! 麦子もなにか言ってよ!」
 頓知はパートナーの鈴木 麦子(すずき・むぎこ)に声をかける。
「すみません、貴方の金環日食を撮影させてくれませんか?」
「なにしちゃってるの麦子!?」
 パートナーの奇行に頓知は思わず声を荒げた。
「そうさせてあげたいのは山々だが、生憎私を待ってる人が大勢いるのだ。申し訳ないが手短に済ませてもらう」
 変態紳士は先程までの悶絶がウソのようにスクッと立ち上がると麦子に対して股間を見せつけ、麦子は涼しい顔でデジカメに『金環日食』を収めた。
「さ、これで金環日食は終わりだが君たちは私を捕まえないのかな?」
「郁乃様の精神衛生上よろしくないのでさっさと消えるか死んでください」
 桃花はニッコリと微笑みながら辛辣な言葉を吐いた。
「安心したまえ、今日はもう君たちの前に現れないと約束しよう」
「そんなこと言って、隙をついてボクに乱暴する気でしょ! エロ同人みたいに!」
「……かぁ〜〜っぺ!!」
「変態にツバ吐かれた!?」
「ビックリしすぎてツッコミが感想になってるよトンチ」
「それではさらばだ少女たちと変態よ」
「おい! 今の変態って誰のこと!? ボクのことじゃないだろうな!?」
 頓知は変態紳士の背中に声をかけるが、変態紳士はそれ以上は何も喋らず、ただマントを翻して自分の尻を見せながら麦子たちから遠ざかっていった。