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第5章 握手会スタート!

(うわあ……)
 握手会の会場に一歩足を踏み入れたセレアナは、思わずくらりと立ちくらみを覚えた。
 会場中に押しかけたファンの熱気にあてられたからではない。
 そのファンの中に、見知った顔……恋人のセレンフィリティがいたからだ。
 しかも『L・O・V・E☆セレアナ!』とか書かれたのぼりや団扇を振り回して。
(何をやってるのよセレンは。だいたい今はアイドルの身代わりだからセレアナでもないのに)
 頭を抱えるセレアナを余所に、セレンはデジカメを構えると撮影に夢中だ。
(きゃーきゃーセレアナがアイドル! いつもは着ないようなブリブリの衣装もチャーミング!)
 カメラを構えつつ、必死で手を振る恋人を、セレアナは極力見ないフリをした。
(あの人は、あなたのパートナー?)
(ええ、まあ……)
 そんなセレアナに、忍が囁きかける。
(いいですね、あんなにあなたの事を想ってくれる人がいるなんて)
(……まあ、ね)
 忍の言葉に、ほんの少し唇を上げるセレアナだった。
 しかし素の笑顔はその一瞬だけ。
 その後は慣れない大量の人間との握手で緊張と混乱のあまり、ひきつった笑顔を浮かべたり頓珍漢な言動を見せたりして、それはそれで逆にセレンフィリティをはじめファンたちの萌えを誘うことになる。

「これからも応援してます!」
「よ、よろしくね」
「いつも元気な君が好きだー!」
「あ、ありがとうございます……」
(い、いっぱい人がいるね、兄さん……)
(大丈夫、落ち着いてくださいフィン)
 苦手な人ごみの中、気丈に握手会をこなしているフィンランの心に、兄のアクロが直接話しかける。
 その声をたよりに、なんとか笑顔を作ると次々に目の前に来るお客に対応する。
(フィン様……がんばってらっしゃいますね)
(ああ。いらぬ心配だったようだな)
 握手会から少し離れた所で、フィンランを見守っていたシベレーとファウロが頷き合う。
(今のところ、変なファンもいないようだしな。ここは、アクロを信じて見守ることにするか)
(ええ、信じましょう。アクロ様を、フィン様を)

「来てくれてありがとねっ☆」
「今日はなんだかいつもより元気だねえ」
「うんっ! アリッサちゃんをよろしくねっ!」
「アリッサ……?」
「そう、これからはアリッサちゃんの時代なのです!」
「おぉう、これは……もふもふ」
「はい、遠慮なくもふもふしてくださいでふよー」
「も、もふもふもふー!」
「はいはい、そこまでー。おさわりはOKだけど、お持ち帰りはNGだよー」
 アイドルの代理とその付き添いの者たちの活躍で、握手会は滞りなく進んでいく。
 中でもとりわけ目立っていたのは、彼女の活躍だった。
「ハイパーアイドル、サクラコさんと握手したい人は誰かしら」
「あ、あの、お願いします」
「うふふ、嬉しい。よろしくね」
「ほぉお……」
 サクラコは、秋葉原四十八星華OGとしての実力をいかんなく発揮し、時にはお姉さん風に、また時には高嶺の花のアイドル風に、次々と違った顔を展開し客を魅了する。
 ひくひく揺れるネコ耳とネコしっぽもポイントが高い。
(んふふふふー。KKY108のヒヨッコさん、お分かりかしら。これが、アイドルってものですよ!)
 サクラコのしっぽがぴきーんと尖る。
(あー、またサクラコが調子乗ってる……)
 そんなサクラコを遠くから見守っている司は何度目かのため息をつく。
(だいたい、あんなにネコ耳強調してていいんかな。お持ち帰りでもされたらどーすんだよ。いや、サクラコなら心配いらないとは思うけどよ……)
(んー、また司君たら文句いいたげな顔してますね)
 司の複雑そうな表情に気づかないフリをして、ますます気合を入れるサクラコだった。
「わざわざ私を選んで握手に来てくれて、ありがとう。モフモフする?」
「も、モフモフォ!?」
「もふもふなら僕も負けませんでふー!」
「アリッサちゃんだって負けないっ! もふもふなの? 時代はもふもふなのっ? アリッサちゃんだってもふもふ解禁するー!」
 気合と対立と根性とモフモフ。
 入り混じって、握手会は大盛況のうちに終わった。