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リアクション
VS重装甲タイプ戦(遭遇編)
「圧倒的な力を持つ敵だからこそ、その身を賭けて戦う意味がある! いくぜ……悠! ――合わせろッ!」
竜戦士≪光龍≫のコクピットで朝霧 垂(あさぎり・しづり)は通信機に向けて叫んだ。
『了解。朝霧、タイミングはそちらに一任する』
『了解だよ! ガトリングは任せて!』
『了解ですわ。機体制御はお任せくださいな』
『了解しました。今回はミサイル及びパイルバンカーの制御を担当します』
光龍のコクピットに備え付けられたモニターに四つの通信用ウィンドウがポップアップし、ウィンドウごとにそれぞれ違った少女の顔が映し出される。彼女たちは四人乗りの重装機動兵器である{ICN0003439#スマラクトヴォルケ}のパイロットたちだ。
垂からの通信に応答した順に月島 悠(つきしま・ゆう)、麻上 翼(まがみ・つばさ)、ネル・ライト(ねる・らいと)、浅間 那未(あさま・なみ)の四人の少女たちによって操縦されるスマラクトヴォルケはガトリングガンにミサイルポッド、そしてブレストクレイモアという物々しいまでに大量の火器をふんだんに搭載しており、更には格闘兵装としてパイルバンカーまで装備しているという重武装ぶりで、まさに重装機動兵器と称するにふさわしい機体に仕上がっている。機体カラーも敵機と同じく深緑であり、そのカラーリングがより一層、重装機特有の重厚感を強調していた。
悠との通信を終え、垂はモニターに映る敵機を見据えた。鏖殺寺院の量産機として知られるシュメッターリンクタイプと同じ深緑のカラーリング。しかし、その姿はまったくもって似ても似つかない。分厚い鋼鉄をフルプレートメイルのように機体へと取り付けた重厚な全身装甲によって肥大したマッシヴなシルエット。手持ちのものを含めて武器らしいものは一つもなく、ただあるのは隆々たる装甲に守られた本体から伸びた、同じく隆々とした装甲を纏う二本の腕のみ。強いて言えば、左右それぞれの手首から先をガードするように取り付けられた大仰な追加装甲――ガントレットが武器といえば武器だろうか。
そのガントレットに守られた両手の拳を握り、敵機はまるで垂を威圧するかのように、左右の拳と拳をぶつけて打ち鳴らす。凄まじい速度で打ちつけたにも関わらず、破損した気配が感じられない上に、重装甲が敵弾を弾いた時のような音が響き渡っていることから考えて、マニュピレーター部分を手袋のようにすっぽりと覆うパーツもガントレットに含まれているのだろう。たったそれだけの動作は、この敵機が持つ防御力と馬力がどれだけの脅威となるのかを、膨大な資料よりも雄弁かつ如実に物語っていた。
「おうおう! 随分と判り易い喧嘩の売り方してくれるじゃねえか! いいぜ――そんなに焦らなくても、今すぐ真っ向勝負だ!」
見るからに粗暴そうな用途を想定した設計思想でありながら、意外にも器用な真似ができることや、敵がそれを利用して人間臭い動きで挑発してきたことに多少驚きながらも、垂はその挑発を真っ向から受けて闘志を爆発させた。
「垂は凄いよっ! 料理の味付け以外は!!!」
唐突に年端もいかない少女のものと思しき声が戦場に響き渡る。光龍の機外スピーカーを通してライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)の声が発せられたのだ。垂のサブパイロットである彼女は、光龍のサブパイロットシートに座ったまま、再び機外スピーカーのスイッチを入れると、機械的に増幅された音声が音割れするほどの甲高い声で、再び敵機に向けて叫んだ。
「意味は無いと思うけど……そこの所属不明機ー。所属と名前、行動目的を述べなさーい!」
しかし、敵機からの応答はおろか、ライゼからの声かけに関しても何らかの反応を示す気配もなく、重量級機体特有の荒々しいエンジンのアイドリング音が戦場に響き渡るのみだ。
「むきー! そこの所属不明機ー! 馬鹿にしてるのー!」
感情的になって叫ぶライゼが光龍の機外スピーカーのスイッチを激情に任せて連打するのを見て、垂がそろそろ止めに入ろうとした時だった。
今まで無反応だった敵機が唐突に反応を示したのだ。ガントレットに覆われた右手を持ち上げると、今まで固く握りしめていた拳を開き、五指を伸ばした手の甲を前に向ける。そして、重装甲に覆われた頭部が駆動して光龍の方を向くと、立てるように伸ばしていた五指を軽く曲げ、まるで扇ぐように動かして見せる。
「むむー! そこの所属不明機ー! やっぱり馬鹿にしてるなー!」
その行為にますます憤慨したライゼは機外スピーカーのボタンを叩き壊さんばかりに連打する。だが、その一方で垂はコクピット内が叫び声とボタンへの打撃音で輪をかけて騒がしくなっているにも関わらず、それすらも気にならないほど敵機に見入っていた。
(やっぱり……有人機なのかよ?)
心の中で自問する垂。気付けば、操縦桿を握る彼女の手は汗でじっとりと湿っていた。
Pi!
思わず黙り込んだまま考え込んでいた垂を現実に引き戻すかのように、スマラクトヴォルケから通信が入る。
『朝霧、こちらは各員、既に準備は完了している。同時攻撃開始のタイミングを頼む』
「すまねえ! じゃ、いくぜ――!」
慌てて通信に応答すると、垂は一度操縦桿から手を離し、パイロットスーツの手袋部分を外すと、両太腿部分の生地で汗ばんだ両手の平を拭き、再び手袋に手を通して操縦桿を握り直す。機外のセンサーを介してコクピットへと届く映像と音声に加え、スマラクトヴォルケがアスファルトで舗装された路面を突き進む地響きで悠たちが動き出したことを感じ取り、垂自身も操縦桿を前に倒し、足元のペダルを踏み込んだ。
「悠、相手の本領は喧嘩みたいだからな――まずは遠距離から叩く!」
『了解だ。翼、那未、火器管制を頼む』
通信で会話しながらも、二機は絶妙な操縦技術で互いに接近し、双方ともに横方向から激突する寸前でぴったりと停止して並び立つ。密集してしまうリスクはあるが、より濃密な火力を一点に集中させられるメリットがある陣形だ。
『りょうか〜い! ガトリングいっくよ〜!』
『了解です。ミサイル、発射します』
大型ビームキャノンを構える光龍のすぐ横でスマラクトヴォルケもガトリングガンとミサイルポッドを展開する。
それだけの射撃兵装に狙いを付けられても、敵機はその場を動こうとしない。しかし、光龍とスマラクトヴォルケは容赦なく自らの武器を発砲する。まるで吹き荒れる嵐のごとく連射されるビーム光に機銃弾、そしてミサイル。それらが密集して混ざり合い、渾然一体となって敵機へと襲い掛かる。
敵機を呑みこまんばかりに吹き荒れる濃密な破壊の嵐。それに対し、敵機はようやく動いた。ガントレットの装甲に守られた両腕を持ち上げ、同じくガントレットに覆われた両手の拳を握る。
握った両拳が頭部パーツの下部――ちょうど顎の辺りに来るようなガードの構え。特徴的な形のこの構えは――。
「――ピーカブースタイル!?」
それを見て、垂は思わず声を上げていた。
「何それ?」
対照的にサブパイロットシートではライゼがきょとんとした顔をしている。
「多分、格闘技の構えの一つだったハズ。ええと、確か……」
『――ボクシングのスタイルの一つだ。ピーカブー……即ち『いないいないばあ』をするように、両腕のガードを高めに構え、握った両拳で顎を隠すようにガードを固める戦術であり、胴体よりも頭部への攻撃に対して防御力が高くなるという特徴を持つ。さる有名なプロボクサーがこのスタイルを得意としたことでも有名だな』
ピンとは来たものの、肝心の所が喉元まで出かかった所でド忘れした垂に助け舟を出すように、悠が通信越しにライゼへと講釈する。その講釈が終わるのに合わせたようなタイミングで、光龍よりも僅かに先んじて射撃攻撃を行っていたスマラクトヴォルケからのガトリングガンやミサイルといった実弾兵器が敵機へと肉薄する。
だが、それらの攻撃の一切合切を敵機はガントレットの表面で真正面から受け止めた。通常のイコンならば大破、よくても中破は免れないほどの大火力による攻撃でありながら、ガントレットの表面には破損らしい破損はただの一つとしてない。
スマラクトヴォルケの実弾射撃に続くようにして、光龍が放った大型ビームキャノンの光条が敵機へと襲い掛かる。その瞬間、襲い来る光条に反応したかのように敵機の両腕に装着されたガントレットが様々な色に発光する光の粒子を放出し始めた。その粒子はやがて板状に収束し、虹色のエネルギーフィールドを形成し、さながらビームシールドのように敵機の両腕周辺を覆い隠す。
形成されたビームシールドは正面からの大型ビームキャノンの銃撃を受けてもその形状を微塵もブレさせることはなく、逆に高出力のビーム攻撃であるこの銃撃をいとも容易くかき消してしまった。
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