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【第一話】動き出す“蛍”

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【第一話】動き出す“蛍”

リアクション

「了解」
 ルカルカへの敬礼とともにそう返事をすると、クレアはさっきまで向かっていた端末に向き直り、キーボードを叩いて対策本部へと集まっているデータを画面に呼び出していく。そして、更にそのデータをブリーフィング用のスクリーンに転送していく。
 慣れた手つきでブリーフィング用のスクリーンに五機の未確認機の画像――実際の交戦時に撮影された静止画や動画を投影したクレアはオペレーター席を立つと、スクリーンの前まで歩みを進める。静かな対策本部内に軍靴の足音を響かせてスクリーンの前に立ったクレアは指揮官が采配として用いる鞭を持ち、それを指示棒としてスクリーンを指しながら口火を切った。
「諸君、改めて我々教導団に対して敵対行動を取っている未確認機の情報を確認しておく、既知の内容であるとは承知しているが念の為、再度留意されたし」
 クレアがそう切り出したのに合わせて、画面には大型の翼状パーツを持つ飛行ユニットを装備した機体が映し出される。
「まずはこの機体についてだ。この機体の特徴は背部に装着された大型翼状パーツ搭載の飛行ユニットによる超高機動力、および飛行ユニットのジェネレーターから得られるエネルギー供給による大出力・高威力のエネルギー兵器だ。この機体をフリューゲル(翼)と呼称する」
 そう解説し終えると同時に、スクリーンの中では件の機体が凄まじい機動性で教導団の機体を翻弄していく光景が展開していく。
 映像が終了すると、今度は機体の全長以上もある巨大な刀剣を持った機体の静止画がスクリーンに映る。
「次にこの機体。この機体は自機の全長以上の巨大な振動ブレードが特徴であり、見ての通りこの兵装を用いた格闘戦を得意とする。兵装はこの刀剣以外に装備されていないが、この刀剣型兵装は振動ブレード――即ち実体剣としての切れ味だけでなく、刀身をビーム兵器と同様のエネルギーでコーティングすることが可能だ。これにより、実体剣でありながらビームサーベル等の接近戦用ビーム兵器としての使用も可能であり、現にアイゼンヴォルフ機の放ったツインレーザーライフルの銃撃をこのビーム刃によって防いでいる。なお、この刀剣は勿論、もう一つ特筆すべきは機体の駆動性能だ。可動域の柔軟性や再現性は極めて高く、詳細はまだ不明だが、現時点で判明している情報から推察する限りでは五機中、最も人間に近い動きが可能だ。それにより、人間の使う剣術をそのまま使うことが可能としている。なお、この機体はドンナー(雷)と呼称する」
 一機目の未確認機――フリューゲルの時と同様にクレアが概要を説明を終えるのに合わせて、実際の映像がスクリーンに映写される。
 その映像が終了し、新たに登場したのは 全身に搭載した膨大な重火器による圧倒的な火力に任せ、防衛部隊を制圧する機体だ。
「三機目は全身武器庫の移動砲台と言えるほどの実弾重火器を搭載した機体だ。携行する対イコン用150mmアンチマテリアルライフルによる長距離射撃も可能な模様。その他の留意点としては五機中、機体全長・重量ともに最大だが、足部搭載のローラーとキャタピラを活かした高速走行が可能という点だな。この機体についてはヴルカーン(火山)と呼称する」
 クレアがコードネームを発表し終えた直後、彼女の後でスクリーンが圧倒的大火力に任せて猛威を振るうヴルカーンの姿を映像として映し出す。
 次に画像が切り替わった時に映っていたのは、全身を覆う重装甲で、防衛部隊の一斉攻撃を平然と受け止めながら、正面突破をかける機体である。
「これが四機目。全身が盾と言っても過言ではないほどの超重装甲が特徴で、実体シールドとビームシールドの機能を併せ持ったガントレットを両手に装備している。加えて、凄まじく重い全身装甲で動き回れるだけの馬力も備えており、単純なパワーだけなら五機中一番だ。こちらが運用する現行機では両腕のガントレットが必要となるほどのダメージは与えられていないと思われる。先刻、朝霧機と月島機が迎撃に向かったが、両機による攻撃はどちらもガントレット以外の場所に着弾したものの、敵機に目立ったダメージは確認されていないようだ。パワーに関してだが、現行機の中でも馬力に優れる月島機と互角以上の馬力を発揮し、サイズ・重量等において一般的なイコンならば片腕だけで殴り飛ばせることも留意されたし。コードネームはフェルゼン(岩壁)とする」
 コードネームを告げるのに合わせて、スクリーンが豪快な格闘技で荒々しく暴れまわるフェルゼンの姿を映像として映し出す。
 暴れまわるフェルゼンの映像がフェードアウトした後、ややあって映し出されたのは、薄く延ばした金属で成形されたローブ状の装甲を纏い、右手に杖のような武器と胸に球体のような装飾を持つまるで魔導士のような姿をした機体が、不可視の壁で攻撃を何一つ通さず、不可視の念力や炎に氷、雷といった魔法で防衛部隊をことごとく破壊する光景だった。
「そしてこれが五機目。超能力と思しき兵器――不可視の障壁、不可視の攻撃などを使用する。不可視の障壁は魔法や超能力はもちろん、射撃や格闘など実体のある攻撃も受け止める強力なものだ。魔法も使用し、火・氷・雷の魔法を使用可能であることも特徴で、コードネームはヴェレ(波)だ」
 今まで通りの流れに違わず、クレアが概要の解説を終えた直後、それに合わせたようなタイミングでスクリーンの映像が切り替わり、超能力に各種魔法を行使するヴェレが防衛部隊のイコンを次々と蹴散らしていく映像が投影される。
 五機全ての説明を終えたクレアは再び軍靴の足音を響かせてスクリーンの前を後にする。自分の席に戻り際、クレアは自分のと同じオペレーター用の席に四台のノートパソコンを置き、それに備え付けのデスクトップタイプのパソコンを加えた都合五台のパソコンを同時並行で操作している、青く長い髪の男に声をかけた。
「ガイザック技術担当。あなたの気遣いと的確なサポート、誠に感謝する。私の説明に合わせて画像を適宜切り替えてくれたのはあなただろう?」
 青く長い髪の男――ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は礼を言うクレアを振り返ると、軽く手を振って応えた。
「気にしなくていい。それが俺の仕事だ」
 事もなげに言うダリルに敬礼すると、クレアは自分の席へと戻っていく。