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リアクション
第2章 機動要塞
「戦闘はとりあえず避ける、いいよな?」
思いきり上空まで飛んだ、リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)を見つめながら、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は言った。
「いいじゃないですかね。私の目的は遺跡探索ですからね。」
メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は手にした金属片を眺めながら、静かに答える。
古王国時代の物、それが彼の心を強く惹きつけているようだ。
「でも、トレジャーセンスでも、博識でも、それらしき物は見つかりませんね。」
「マップ上にいくつもの点を置いて、視覚化してみたんだけど駄目だな。」
エースはペガサスの身体に首を預けると、うんざりしながら言った。
「知識やセンスだけでは見つからない。隠れているか、そんな物、元々存在しないのかのどちらですかね。私は前者だと信じたいですが。」
「あまり追い詰めるなよ。君だって、興味あるんだろ?」
「ええ……。興味がない訳ではありません。」
もってまわったような言い方だが、メシエらしい言葉だった。
エースは苦笑すると、再度、リリアを見つめる。
リリアはその視線に気づくと、駈歩でエースの隣にやってくる。
「エレス(ワイルドペガサス)が飛びたがっていたし、いい運動になったみたい。……あら、あちらで空賊が暴れているけど、もっといい運動しない?」
リリアは二人に賛同を求めたが、エースとメシエは当然のように反対した。
侵入者側がここに縄張りを持つ連中を襲ったら、どっちが蛮族だよと苦笑する。
エースらしい考えがそうさせるのであろう。
☆ ☆ ☆
気流コントロールセンター跡は、人工的な機動要塞のような姿をしていた。
五千年も昔より、手入れはされておらず、どこから飛んできたのか、苔や草木が生えている部分も見られる。
しかし、そんな状態でありながらも、今も飛び続けていた。
タシガン空峡の気流を、人工的にコントロールして、飛行艇や飛行船を安全に往来させる為に造られた施設がだ。
『認証コードを答えよ』
近づくと、次のような警告が聞こえ、機晶キャノンが生徒らを襲う。
ドゴオオオン!!!
この一撃を受ける訳にはいかず、理子らは素早く身を隠す。
「敵の数が多いし。入り口がわかんないわね。……いったいどこなの?」
高根沢 理子(たかねざわ・りこ)は、右手を頭の上にかざしながら目を細めた。
暴走した気流コントロールセンターは、刻一刻と気流の流れを変化させている。
突風が吹いたかと思えば、風がピタリと止まり、油断すると竜巻のような風になったり……。
やっかいな天候と、伸び放題に伸びた雑草などが邪魔をして、入り口らしき場所は見つからない。
☆ ☆ ☆
「キシャアアアァッ!!」
しかも、周りは考える時間を与えてくれないようだ。
だがその時、理子の斜め後ろに控えていた、平 武(たいら・たける)が駆け出した。
フライングポニーの手綱を上手く操り、【雅刀】を構えたまま、レッサーワイバーンと真正面からぶつかる。
魔物の牙と刀が交差し、火花が飛び散ると、魔物はいったん後ろに退いた。
「武! 左ッ!!」
理子が叫んだ。
武の左から、背に大きな傷を負ったレッサードラゴンが迫り来る。
「ドラゴンかっ?」
理子の声に気づき、振り返りざまに身構えるようとする武だが、ドラゴンの速度はそれに勝った。
激しい激突音がし、武は大きく体勢を崩してしまう。
しかも、レッサードラゴンは一度彼に激突した後、さらなる一撃を加えようとUターンを行った。
さらに先ほど退いたワイバーンの姿が、武の目に入る。
「マズいな……。ワイバーンだけならともかく、ドラゴンもになると。」
やはり、空中戦では敵に利がある。
風の流れの読めないこの状況では、圧倒的に不利である。
武の頭に、戦場からの離脱がよぎる。
だが、次の瞬間、火炎の嵐が辺りを包み込む。
「これは……!?」
後方に術を詠唱する、長原 淳二(ながはら・じゅんじ)が見えた。
彼の放った【ファイアストーム】は気流の影響で、制御不能な火の玉と化し、周囲を恐怖のるつぼへと陥れる。
しかし、それは武にとってはチャンスとなった。
敵が一時的に怯んだのだ。
「奈落の鉄鎖!!」
武は両手を広げて前に突き出すと、一気に閉じた。
その瞬間、ヴァンと空気が収縮し、まるで翼力を失ったかのように、ワイバーンが下降する。
そして、そのまま、ドラゴンに向かっても、【奈落の鉄鎖】を使用しようとした。
だが、両手が閉じられない。
「グオオォッー!」
「くっ……。」
竜は静かに唸り声をあげ、武を威嚇していた。
奈落の鉄鎖に、抗うように翼を大きく広げてだ。
しかし魔物は、背後で何かを感じて振り返る。
漆黒の悪意……、暗闇の恐怖……、湧き上がる衝動……。
「やっぱり、【名状しがたき獣】はスピードが出ないなぁ。随分と送れちゃったけど、『シャーウッドの森』空賊団は元気かな?」
そこには、腐敗の呪杖を手にした淳二がいた。
彼はスキル【罪と死】を唱え、暗黒色に染まった杖を振り下ろすと、ドラゴンは闇に包まれる。
そこに巧みに刀を振り回す武が突撃しては、後ろに下がりと、ヒットアンドウェイの攻撃を繰り返すと、竜は声を上げて墜落していく。
「やるじゃん。」
理子が流し目で二人を眺めると、二人は顔を見合わせて言った。
「ここは俺に任せて先に行け!」
「うんっ!」
そして、理子が入り口を目指し先へ進もうとした、その頃……。
☆ ☆ ☆
【空飛ぶ箒シーニュ】の柄をしっかりと握り、左右から飛び交う銃弾を避けながら進む天達 優雨(あまたつ・ゆう)。
彼女は後ろに、佐々良 縁(ささら・よすが)、斎藤 和馬(さいとう・かずま)を乗せ、風の流れに沿うように動く。
「わわっ! 天達先輩!! 危ないよ!?」
末席に座る和馬は、先導する優雨に注意しながら、前に座る縁にしっかりと抱きつく。
「か、かずー!? ちょっと、変なところ触らないでくれる!?」
「そんな事を言われても……(しょがーないと言うか、役得と言うか……)。……と、と、前、前!!?」
気流の流れの変化により、ジェットコースターさながらのスリルを味わう三人。
しかも、それに付随して、バンディッツらの攻撃も混じるので、スリルはその倍だ。
「ふふ、なんだか懐かしいですねぇ。」
優雨は他人事のように、二人に話しかけた。
自分のコントロールに自信があるのか、それとも、持って生まれた性格なのか。
どちらにしても、無傷なのは奇跡に近い。
「それにしても、この機晶技術は……素晴らしいですわぁ。」
宙に浮く起動要塞は、今も変わらずに動き続ける。
位置、運動などの、旧地球上のエネルギー理論には当てはまらない、エネルギー理論。
エネルギーとは、何かを【使用する】事で生まれ、蓄積できる器以上の容量は貯めておく事は出来ない。
無尽蔵に続き、しかも公害を生み出さない(現在、故障はしているが……)とは、まさにクリーンエネルギーである。
『認証コードを答えよ』
機晶キャノンは、縁らに狙いを定めて攻撃してくる。
浮遊、迎撃、言語、どのシステムを考えても、複雑である。
それを機晶石一つで行っており、それはシャンバラ古王国時代の技術の高さを物語っていた。
「……ですね。この世には、とんでもない技術あるんですね、こっち。改めて思いますよ。」
和馬も、声を漏らした。
「あれ、優雨さん? 止まって。」
「んっ、今は無理ですぅ〜。どうかしましたぁ? 縁さん?」
「今、入り口が見えたんだけど……。とりあえず、理子っちさんに報告しときますかぁ。」
縁は、高根沢 理子(たかねざわ・りこ)に連絡を取る。
☆ ☆ ☆
「見つかった?」
理子っちの声に、クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)は反応した。
そして、銃型HCのマップに、伝えられた入り口を書き込んでいく。
『認証コードを答えよ』
ドンッ! ドドンッ!
コントロールセンターより放たれる機晶キャノンの攻撃も勢いを増していた。
入り口に近づけば近づくほど、その攻撃は激しくなるようだ。
「クリストファー。認証コードは!?」
クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)は、箒でキャノンを避わすように旋回すると聞いた。
認識コードの件である。
クリストファーは出かける前、タシガン領主のラドゥを尋ねてみようと思ったが、彼は遠征に出かけており会う事が出来なかった為、タシガン貴族の旧家を尋ねていた。
「認証コードか――。」
突然の来客に旧家の者は眉を顰めたが、気流コントロールセンターの名を出すと、渋々ながら通してくれた。
タシガンでも北部に位置するこの地は、霧が立ちこめ、一年中気温が低い。
暖炉のある部屋に通されたクリストファーは、そこである話を聞く。
話してくれたのは、高齢のドラゴンライダーだった。
彼は若かりし頃、仲間と共に、実際に気流コントロールセンター内に進入したらしい。
無謀な事をしたものだと、しわくちゃの顔を、さらにしわくちゃにして笑ったが、彼の腕の傷は歴戦の兵の証を現していた。
そして、コードは古代語で何種類かの、パターンがある事を聞いた。
クリストファーが聞いたのは、その中の一つに過ぎない。
「ありがとう。」
クリストファーは頭を下げた。
認証コードは教えてもらったが、それが使用できるか不明らしい。
だが、クリストファーは帰る際に、もう一つ大きな情報を得た。
アンバー・コフィンについてである。
「わしは嵐の日に一度だけ見たんじゃよ。半透明の古代の飛空艇を。」
「!!?」
彼は実際に見たらしい。
その時の飛空艇が、眠り姫の乗った物かはわからないが、船は映写機に映された映像のように空中に瞬いて、一瞬にして消えたと言う。
クリストファーは、その時の事を思い出していた。
そして、コントロールセンターの問いに合せる様に、言葉を紡いでいく。
『認証コードを答えよ』
彼は、古代語で【道を開け】と言う言葉を語った。
すると、いくつかのキャノン砲の動きが停止する。
無論、全部とは言わないが、その少しでも、入り口に近づけるきっかけになるだろう。
「やったわね。」
理子っちは、クリストファーに礼を言うと先へ進もうとする。
だが、クリストファーはもう一つ、何かを理子っちに投げつけた。
「受け取ってくれ。」
「……?」
それは【光精の指輪】である。
機晶石を使用しないその指輪は、光源として役に立つであろう。
理子っちは「ありがと。」と頭を下げると、ワイルドペガサスを走らせた。
☆ ☆ ☆
時同じくして……。
一匹のレッサーワイバーンが、とんでもない速度で宙を旋回していた。
「早く、早く、どうすればいいの! 色々と調べてきたんでしょ?」
「えーと……、ちょっと出来れば、静かに運転して欲しい……。」
「わっ、敵が来た。ちょっとタンマ!!」
「きゃああああぁぁぁっ!!!」
ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は手綱を握ると、正面から来るワイバーンに立ち向かう。
自らは姿勢を落とし、速度を急激に強めると、後ろに騎乗する和泉 真奈(いずみ・まな)は、必死にしがみつく。
そのまま距離を保つと、ミルディアは赤い髪を靡かせながら、目を光らせた。
「行くわよ。サイド…………。」
ヴゥーゥゥン。
彼女の両脇に、いくつもの小さな光が現れ、二本の光の矢が形成されていく。
その刹那、目の前の翼竜は口を大きく開けて、威嚇するように吼えながら、こちらへ向かってきた。
気流の追い風を受けるように、信じられないスピードで。
「ワインダーーーァッ!!!」
しかし、ミルディアの方が一歩速い。
空中で大きな爆発音が鳴り響き、その爆煙を撒き散らすかのように、ミルディアが突っ切っていく。
「やったね。」
ミルディアは、後ろの真奈に声をかけた。
だが、真奈は風で乱れた髪を直しながら言う。
「やったね……。じゃないですわ! 貴女の飛行は、アクロバティックすぎるのよ!」
「……はへ?」
ミルディアはキョトンとした表情を、真奈に向けた。
真奈は「……。」と、半ば諦めた表情を見せながら、書物を広げる。
そして、指で気流コントロールセンターの一角を示した。
「あの場所が、遺跡の進入口ですわ。」
真奈はそう言うと、ミルディアにしがみつく。
ミルディアの顔が、入り口に向いたからだ。
つまり、次は……。
「いっくよー!!!」
『認証コードを答えよ』
警告と機晶キャノンが降り注ぐ中、道が一直線に開いた。
クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)のおかげで、僅かに弱まったが攻撃は続いていた。
だが、気流の流れ、飛び交う銃弾を無視するかのように、一匹のワイバーンは突入する。
「ミルディ! 進入口前の障害物に気をつけて!!?」
「だいじょうぶ! 無理も突っ切れば道理が引っ込むってね♪」
気流コントロールセンターの入り口は、飛空艇などが飛び立てるように広く造られていたが、長年の放置状態により苔や木々に覆われており、方角を失い墜落した飛空艇の残骸などが残されていた。
だからこそ、探すのが難しかったのかもしれない。
ミルディアは、枝葉やパイプを避けるように滑空すると、一枚のドアをぶち破る。
「突撃ィー!!」
乗り物は、どうやらここまでらしい。
ミルディアはワイバーンから飛び降りると、ドアの向こうに躍り出た。
だが、そこには、複数の機晶ガードロボが待ち構えており、一斉に銃を構えている。
『認証コードを答えよ』
「あはっ、真奈。どうしよ?」
ミルディアは、横を見るが誰もいない。
その頃、真奈はようやくワイバーンから降りるところだったのだから、しょうがないといえよう。
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