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海京でのめざめ

 
 
「……、はっ、いかん、いつの間にか寝ていたのか……」
 ビルの屋上でカモフラージュの布を被って隠れていたマグ・比良坂(まぐ・ひらさか)が、カメラを構えたまま寝ていたのに気づいてあわてて口許のよだれを手の甲で拭った。
 それにしても、変な夢と言うよりは、悪夢だった。
 この間契約を結んだリカイン・フェルマータとそのパートナーたちが出て来たのだが、そのパートナーというのがいきなり巨大化するは、それに心酔したような別のパートナーがマスターと戦うは、これは何かの宗教か?
 最後には、リカイン・フェルマータの奇声で、夢自体が砕け散った。
 まったく、こんな夢を見るなど、元になったそれぞれのイメージがとんでもないからに違いない。
 コリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)の命を狙っている自分もとんでもない奴だと思って、パートナーたちとは一定の距離をおいていたつもりだったが、案外、自分程度など、彼女たちから見れば鼻で笑われる存在なのかもしれない。
「思い込みは、いけないと言うことかな……」
 そう言って、マグ・比良坂は苦笑した。
 
    ★    ★    ★
 
「ふふふふ……、これで、イコプラがイコンホースなみの自立兵器に……」
 イコプラの魔改造に目覚めた有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)が、パカンとイコプラの外装を填めてほくそ笑んだ。
 イコプラにイコンホースのブラックボックスを無理矢理搭載してしまおうというのである。そうすれば、パイロットが未熟でも、イコプラが補佐してくれるのですばらしい機動を発揮してくれる……はずである。してくれるといいなあ……。
「何作ってるのー?」
 そこへ、犠牲者、もとい、彩音・サテライト(あやね・さてらいと)がやってきた。
「ちょうどいいわ。さあ、この強化ブースター『かっこう』を装着してみて。すっごいわよー」
「わあーい」
 有栖川美幸に言われるがままに、何も知らない彩音・サテライトがランドセル型のかっこうを背負った。ランドセルの左右には翼が広がり、肝心のブースター部分からはなぜか光る箒の柄が突き出ている。
「これなあに?」
 お尻あたりのちょっと邪魔な箒の柄を後ろ手に触りながら、彩音・サテライトが訊ねた。
「気にしたら負けよ。さあ、大空にむかって、ゴー!」
「はあい」
 有栖川美幸にたきつけられて、彩音・サテライトが離陸した。しょせんは光る箒のスピードなので、ひゅーんと言う感じで飛んでいく。もっとも、機晶姫としての飛行能力からどれだけ優れているかというと……それなりである。一応は、イコンホースのブラックボックスが制御しているので、効率はいいはずなのであるが、心なしか黒い煙のような物を引いているのは気のせいであろうか……。
「彩音ー、どこに行ったー。ちょっとでかけるぞー」
 そこへ、綺雲 菜織(あやくも・なおり)が、彩音・サテライトを探しにやってきた。
「美幸、彩音、見なかったか?」
「さ、さあ……」
 まさか、実験に使ったとは言えず、有栖川美幸がすっとぼけてみせた。
「仕方ない、テレパシーで探すか……」
 綺雲菜織が、意識を集中していった。
 そのころ、黒い煙を引きながら、彩音・サテライトは天御柱学院の訓練場の上空あたりを飛んでいた。
 
    ★    ★    ★
 
「本当にいいんだな」
 訓練場で、黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)が再度椿 ハルカ(つばき・はるか)に訊ねた。
「もちろんです。わたくしだって、いつまでも種籾戦士ではいられませんもの。ここであなた方に特訓していただいて、新たなクラスに目覚めたいと思いますわ」
「大丈夫かなあ。とりあえず、しおりからいってみろ」
「はーい、いってみますぅ」
 元気よく手を挙げて名乗りをあげると、御劒 史織(みつるぎ・しおり)が火術でちっちゃな火の玉を作りだして放った。極力威力を抑えるために分割したので、ビー玉ほどの火の玉がわらわらと椿ハルカの周囲に飛んでいく。これはこれで、オールレンジ攻撃みたいになっている。
「もうちょっと強くすれば、目くらましぐらいには使えるでしょうか?」
 うーんと、御劒史織がちょっと考え込む。もっとも威力を上げればくっついてしまうであろうから、火の輪っかのようにして飛ばすか、かんしゃく玉のようにしてちっちゃな爆発を起こす程度の物になるだろうが。
「えいえい。この剣捌き。これで、わたくしもラヴェイジャーにクラスチェンジが……熱い、あちちちちち……」
 へこへこと剣を振っていた椿ハルカであったが、振り回した長い髪の先っぽに火の玉の火が燃え移って、あわてて地面を転げ回った。
「だ、大丈夫ですぅ?」
 急いで御劒史織がナーシングで治療する。
「だ、大丈夫ですわ。しっかりと、種籾を見つけましたもの」
 誰が落とした物か、しっかりと種モミの入った袋を握りしめながら、椿ハルカが答えた。それを、氷嚢のように頭の上に載せる。それで傷が冷えるわけではないのだが、いったい何をしたいのだろう。
「じゃ、次、エメリー」
「はい。参ります」
 黒崎竜斗に呼ばれて、ユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)がゴム弾を装填したスナイパーライフルを構えて前に進み出た。
「ええっと、お願いいたします」
 ぺこりとお辞儀をして、椿ハルカが白の剣を構える。
行きます
 ユリナ・エメリーが、初撃は威嚇として少し狙いを外してゴム弾を発射した。
 ひゅんと、ゴム弾が椿ハルカの耳の横を音をたてて通りすぎる。一拍遅れて、椿ハルカがひょろっと剣を振った。
「ひー、怖いよー。救世主様助けてー!」
 耳許の音に驚いて椿ハルカが叫ぶが、救世主の予約をしていなかったので誰も現れなかった。
「それじゃ、本番です。上から攻撃します
 ユリナ・エメリーがレビテーションを使って、目覚めたての高度差のある射撃を行おうと空に飛びあがった。
 ごっちん。
痛い……
「痛いのー」
 運悪くか、はたまた、椿ハルカの願いが通じたのか、黒崎竜斗たちの訓練に興味を持って高度を落としてきていた彩音・サテライトとユリナ・エメリーが空中でごっつんこした。
 それぞれが、別々の方向へと墜落していく。
見切った!
 素早く移動した黒崎竜斗が、墜落してきたユリナ・エメリーを地上で受けとめた。
「何をしているんだ、まったく」
 ユリナ・エメリーをお姫様だっこしたまま、黒崎竜斗がちょっと呆れる。
このままじゃ……。竜斗さん、そろそろ下ろしていただけます?」
 真っ赤になりながら、ユリナ・エメリーが黒崎竜斗に言った。
「ああ、悪い、忘れてた」
 あらためてユリナ・エメリーを地面に下ろすと、黒崎竜斗が木刀を構えた。これなら、大怪我をさせることはないだろう。多分……。ちょっと自信がなくなりかけてきている黒崎竜斗ではあった。
よし、気合い入れていくか
「お願いいたしますわ!」
 今度は、気合いを入れて椿ハルカの方から突っ込んでくる。
 最初は軽くと、黒崎竜斗が真正面から木刀を振りおろした。
 ぽかっ。
 みごと、木刀が椿ハルカの頭の上の種モミ袋に命中する。
「きゅう……」
 椿ハルカが、ばったりと倒れた。
「お、おい、ハルカ!?」
 さすがに、黒崎竜斗も焦る。
 早くも、椿ハルカの周囲にばらまかれた種モミから、新しい芽が生え始めている。
「ああ、花妖精として、この種たちに命を繋げていくのですね。また来世で会いましょう……」
 ぱたりと、椿ハルカが目を閉じる。
「おーい、戻ってこい!」
 黒崎竜斗が、ブチブチと周囲の芽を引き千切って叫んだ。
「きゃあ、何をするんですか!」
 驚いた椿ハルカが、生き返って飛びあがった。すかさず、御劒史織がナーシングで回復させる。
「お花畑と、川と、雲の上の門が見えましたわ」
「渡ったりくぐったりするなよ」
 怖すぎると、黒崎竜斗が椿ハルカに釘を刺した。
「でも、これでチャンピオンぐらいにはなれると思いましたのに……。やはり、クラスには変わらないよさというものもあるのでしょうね」
 あっけなく方針変更する椿ハルカであった。