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水草地帯

 
 
 さあ、またトップに時間を戻しましょう。
 ここは水草地帯です。川一面に水草が生い茂って、舟の進行を邪魔しています。
「くるくる、くるくるぅ……」
「はははははははっ、そこ、氷が溶けておる。凍れ! ははははは……、っ、面白いではないか
 秋月葵さんとフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』さんのタライ舟は、相変わらずクルクルと回りながら流れて行きます。おかげで、水草に絡まれることもなく進んで行きました。しかし、目が回り続けているせいか、なんだか無駄にハイテンションです。
 
    ★    ★    ★
 
「すいませーん、ちょっと通してくださーい」
 リース・エンデルフィアさんが、人の心、草の心で水草たちに声をかけて道をあけてもらいました。難なく難所を乗り越えていきます。
「そんなに早く進んでは、草に絡まる乙女たちの肢体を観察できな……」
「お師匠様、何かおっしゃいました!」
「いや、知らん。我が輩は何も言っておらぬぞ」
 リース・エンデルフィアさんにキッと睨まれて、アガレス・アンドレアルフスさんがそらとぼけました。
 
    ★    ★    ★
 
「ふっ、密林の戦闘はなれているでありますよ」
「いや、それはちょっと違うと思うよ。ここはただの川だよ」
 思わずコルセア・レキシントンさんが突っ込みましたが、葛城吹雪さんの方はサバイバル能力を遺憾なく発揮して、リース・エンデルフィアさんがあけてもらった水草の道を見つけだして進んで行きました。
 
    ★    ★    ★
 
「あう、大変だよ、りゅーき。水草が盛大に絡まってるよ」
「仕方ないねぇ、また筏を下りて運ぼ……うわっ」
 筏を下りて川底に足をつけようとした曖浜瑠樹くんが、ずぼっと水の中に沈みました。ここは結構深いようです。
「これは、ゆっくりとでも進むしかないなぁ」
 なんとか筏の上に引き上げてもらった曖浜瑠樹くんが、オールで丁寧に水草をかき分けながら言いました。
 
    ★    ★    ★
 
「さあ、道をあけるんだもん!」
 こちらは、小鳥遊美羽さんとコハク・ソーロッドくんです。
 水中の水草に意識を集中して、サイコキネシスで左右に押しやって進んで行っています。
 
    ★    ★    ★
 
「ああ、これはもう、どうしょう……」
 さすがは薔薇の学舎の生徒です、清泉北都くんが美しく水草に絡まっています。なんだか、慣れているようにも見えますが、気のせいでしょうか。
「この絡まり具合、まだまだですね。上手に絡まりながら移動していきましょう」
 次々身体に巻きつく水草を変えいてきながら、リオン・ヴォルカンくんが言いました。
 なんとも奇妙な進み方で、二人は水草地帯を突破していきました。
 
    ★    ★    ★
 
「これは、思うように進めないな。仕方ない、水に入って草をかき分けながら筏を進めるぞ」
「はい」
 ジェイコブ・バウアーくんに言われて、フィリシア・レイスリーさんもザブンと水の中に入りました。
 手で、筏の前の水草をかき分けていこうというのですが、引き千切らんばかりに水草を排除していくジェイコブ・バウアーくんとは違って、フィリシア・レイスリーさんの方は、逆に水草に絡まれていってしまいました。
「ああっ、草が絡まって、動きにくいですわ」
「待ってろ、今とって……」
 すぐにフィリシア・レイスリーさんを助けようとしたジェイコブ・バウアーくんでしたが、その姿に思わず見とれてしまいます。水草に絡まれてもがくナイスバディのフィリシア・レイスリーさんの肢体に、思わずむっつりスケベモードに突入してしまいました。
「いやいやいや、いかん、いかん」
 思わずそのまま鑑賞しそうになって、あわててジェイコブ・バウアーくんが正気に返りました。フィリシア・レイスリーさんの身体に絡みついた水草を取っていってあげます。
「うっ……」
 まあ、どうしても水草を取ろうとすると、身体に触らずにはいられません。今まで意識していなかった物を思いっきり意識して、ジェイコブ・バウアーくんが柄にもなく顔を真っ赤にしました。
「そんなに力を入れないととれませんか?」
 思わず聞いてしまってから、あわててジェイコブ・バウアーくんが手を引っ込めるのを見て、なぜかフィリシア・レイスリーさんの方も頬を染めてしまいました。
「草は俺がなんとかするから、おまえは上にあがって筏を進めてくれ」
「分かりました」
 筏に手をかけたフィリシア・レイスリーさんの腰を掴んで、ジェイコブ・バウアーくんが持ちあげます。形のいいお尻が、顔の至近距離をスッとかすめるようにして通りすぎました。
「うおおおおお、草ー!!」
 何かを振り払うように、ジェイコブ・バウアーくんは水草に突進していきました。
 
    ★    ★    ★
 
「これは、結構やっかいですな」
 水面からも青々と見える生い茂った水草を見て、リブロ・グランチェスターさんがつぶやきました。
「あーれー。助けてー」
 川の流れに身を任せていた瀬山裕輝くんが、みごとに絡みついて溺れかかっています。
「ちゃんと流れに逆らわないで行けば、うまく突破できるよね」
 そう言って、二号艇のエーリカ・ブラウンシュヴァイクさんが前に出ました。サバイバルと方向感覚を駆使して、草の靡いている隙間の流れを見つけだしてそれに逆らわずに進んで行きます。おそらくは、先に進んで行ったジェイコブ・バウアーくんが無理矢理に通っていった後でしょう。
 もともと細長いカヌー型のこともあって、リブロ・グランチェスターさんたちは難所を突破していきました。
 
    ★    ★    ★
 
「こうなったら、競竜で養ったわたくしの野生の勘で乗りきってみせますわ」
「ノンノンノーン。ここはワタシにお任せだもん。こういう所は、妖精の領土みたいな所なんだもん」
 水草地帯に近づいたところで、ノーン・クリスタリアさんがエリシア・ボックさんを抑えてルートを見つけだしました。
 かろうじて、筏が通れるだけの細い道があります。リース・エンデルフィアさんが開いてもらった道を葛城吹雪さんが無理矢理押し広げて通って行った跡のようです。
「あそこだよ!」
「でかしましたわ、ノーン。さあ、突破しますわよ!」