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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 4

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 4

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第10章 4時間目・自習

「カメリアさん。ヴァイシャリーからこちらに来る時に、衣服やアクセサリーとか持ち出して来たのですけど。もし、気に入りましたら、着替えてみませんか?」
「人間が普段、身につけるものね?」
 ロザリンドが持ってきた服や、アクセサリーを興味津々に眺める。
「そっちの世界は、キレイなものがたくさんあるのね…。気に入ったわ、着てみるわね」
 カメリアは大きなつぼみの中に入り、着替え始める。
「…サイズはどうですか?」
「問題ないわ」
 着替えを終えたカメリアは、つぼみの中から出る。
 薄いピンク色のドレスを纏い、耳にはラズベリルのイヤリング、足はサザンカの花を思わせる飾りがついたミュールを履いている。
「ピアスもありますよ」
「耳に穴あけるようなのは怖いわ。私はこっちのほうがいいわね」
「ストーンのネックレスや、ブレスレッドとかどうですか?」
「私に似合うかしら?」
「つけてみましょう」
 ロザリンドはネックレスの金具をとめてやり、腕にはブレスレットを身に着けさせてみた。
「氷とかがないと、自分の姿が見えないわね…」
「…氷?」
「えぇ。ロザリンドが持っているような、鏡とやらは持っていないのよ」
「でしたら、私の携帯で写真を撮ってみます。…えっと、こんな感じですが」
「なかなかいいわね」
「自習時間が終わるまで、身に着けていていいですよ。ぁ、こっちの衣装も着てみませんか?」
 他に何かなかっただろうか…、とロザリンドはバッグの中を探す。
「いいの?」
「はい、どうぞ」
「じゃあ…着てみるわ。ロザリンドがいる世界って、楽しいものがいっぱいありそうね」
 どうやら人間の物が気に入ったらしく、つぼみの中で着替える。



「ハイリヒ・バイベルに精神力を込めると、ヤバさは引くように思えるけど…。うーんやっぱり難しい。樹ちゃん、頼んだ」
 アキラのその言葉に樹は、またか…と肩を竦めた。
 2人は玩具のピアノに憑いた霊を相手に自主練している。
「ねーさんも大変だナー」
「(うぅ…。樹ちゃんが霊に同情されてるよ…)」
 上手く魔道具を扱えない章は、しょぼーん……と項垂れた。
「おーふーくーろー」
 樹の姿を発見した緒方 太壱(おがた・たいち)が、大声で呼びながら駆け寄る。
「なんだ、バカ息子か」
「うっ…バカって…」
 “バカ息子”と呼ばれた太壱は、テンションをいっきにダウンさせる。
「俺、未来ではエクソシストやってたのよ、これでも」
「ふむ…。私たちよりも、知識があるということか?」
「でもさ、こっちに来たらすっかり色々忘れてんのな。しかも、もう一回見習いからやり直しと来たもんだ」
「―…ほぅ。では今のお前は、ただのバカ息子ということか。ゼロどころか、マイナスからのスタートなんじゃないか?バカ息子」
 ひょっとしたら、何か知っているのかと思ったが、期待を一瞬で崩された樹は呆れたように嘆息する。
「あまりバカバカ言わないで、悲しくなってくるよ…」
 ちゃんと“太壱”という名前があるのだが、もはやそっちの方が名前のような扱いだ。
「どうした『バカ息子』、先ほどから頭を抱えてうなっておって」
 そう言いながら樹は自分の名入り「エクソシスト免許」を、太壱の脇にそっと置く。
「…って、お袋?!」
 さりげなく置かれている免許を目にした太壱が、驚きの声を上げた。
「太壱くん、僕もあったりするんだよね…見習い免許だけどさ」
「えっ、親父まで持ってるの?!なんで、どーして!」
「事前勉強の賜物…とだけ伝えておこうか。私とて、無策でこの授業に参加しているわけではなかったのだぞ」
「元々祓魔に関しては興味もあったし、殺気看破との違いを体感してみたくてね」
「あのさ、ひょっとして俺がこの授業受けてみたいって言ったから、色々勉強したとかそんな感じ?」
 もしかして一時間目の同じ授業に出ていたのだろうか。
 自分は黙々と黒板に書かれた説明や、他の生徒たちの質問などをノートに書いていたから、気づかなかったのかもしれない。
「さぁな?バカ息子よりは、すでに知識はあるかもな」
「…親父もお袋もこんなに努力する人だったんかよ」
 この時代に来てからというもの、2人と接することが多くなって、知ったことの方が多い。
 “ただ単に、軍の中でえらそうにしていたワケじゃなかったんだな”という言葉を飲み込む。
 こんなセリフを言ったら樹がブチキルだろう…。
「とにかく、今回勉強したことを元に使い魔が使えるように勉強したいものだね。樹ちゃんが持ってるのが、使い魔召喚用の道具?」
「…ああ、ニュンフェグラールというらしい。使うには、使い魔が扱えるレベルまで力を高めねばいけないが」
「樹ちゃん…、教室の中に大きな花のつぼみらしきものがあるんだけど」
「ん…なんだあれは」
 章の視線の先へ顔を向けると、ピンク色の大きなつぼみがある。
「この中に何かいるのか?」
「カメリアさんが中で着替えているんです」
「―…カメリア?」
「私が持っているニュンフェグラールを使って、呼び出せるんですよ。クローリスの花の使い魔なんですが、私はカメリアさんって呼んでいます」
「使い魔に名前をつけたのか」
「ドルイドの幻獣の主のスキルを使えないと、聖杯すら上手く扱えないんですけどね」
「ほぉーそうなのか。…親父さぁ、クラスチェンジして鍛えなきゃな」
 太壱が章の方を振り返って言う。
「…うん、太壱くんは器の能力を鍛えなきゃね」
「せめて護符くらい扱えるようになったらどうだ、バカ息子」
「うぐ、それを言うなよぉ…」
 何も言い返せず沈没させられてしまう。



「校長。スペルブック同士の連携以外にも、宝石や祓魔の護符、使い魔との基本的な連携があるか?」
「そうですねぇ…。生徒さんたちが、いくつかアイデア術を完成させましたよぉ〜。実戦で見ていなかったんですかぁ?」
 刀真の質問にエリザベートが首を傾げる。
「たぶん、位置的に離れすぎていから、見ていないな」
「まず…アタッカーのスペルブック使いが倒されないように。他の魔道具でサポートすることもありますぅ〜。深く知りたいのなら、他の時間の授業に出たほうがいいですよぉ〜?見て学ぶことも大事ですぅ!…本の授業に出席したなら、新しい章の使い方は学びましたよねぇ?あれは習得しなければいけない、スキルはありません〜」
「そうなのか?」
「…後はちゃんと、自分から他の人に声をかけたほうがいいですよぉ〜?」
 流れでああいう感じになったが、声をかけられなかったら、4人だけで行動することになったかもしれないのだ。
「(反省点は章のことだけじゃなかったか…)」
 魔性を探知したり不可視化したそれらを見ることが可能な宝石使いに、一緒に行動してもらえないと、これから先厳しくなってくる。
「そうだ…。今まで撮って編集をしたビデオの映像などがあるんだけど。よかったら使ってくれ」
 何かの役に立ててもらおうとデータを渡す。
「ありがとうございますぅ〜」
「(そして、今回撮った分も俺が編集するのか?)」
 パートナーの視線を感じ、振り返ると教室の奥で月夜が、2人の様子をじーっと見ている。
 “…仕方ないな、これからずっとこのパターンが続くんだろうな”と深いため息をついた。