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第7章  やまから


 最後の最後に、とんだ難関が立ちはだかっていた。
 巨鳥の親なのか、ボスなのか、兎に角いままでの鳥達とは比較にならぬ巨翼。

「……まさか、まだこんなのがいるなんて思わなかったわよ」

 敵を目の当たりにして、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は首を傾げてしまう。
 どうも、一筋縄ではいかなそうな気がして……それでも。

「♪〜薬草を採集している間だけでも〜どうかお邪魔させてほしいの〜♪」

 キモチを載せて、歌声を紡ぐ。
 まずは【悲しみの歌】で意気消沈させて、味方の無事を確保。
 その上でメッセージとともに【幸せの歌】を奏でれば、鳥の気勢も落ち着いたようだ。

「さすがはディーヴァ、といったところですわね」
「ありがとう」

 瀬田 沙耶(せた・さや)は、掲げる『智杖』を下ろした。
 もう、魔法を使う必要は失くなったから。
 褒め言葉に、礼を述べるさゆみ。
 今日の服装が、普段では着ないような登山スタイルということもあり。
 また一歩、夢に近付けた気がして、嬉しかった。

「それにしても……まさかこんなに険しいなんて思わなかったわよ」
「あっ、あたしも、よ……」

 肩で息をするさゆみの隣に、那由他も寄ってくる。
 正直、鳥達はたいした驚異でもなかった。
 生徒達を苦しめていたのは、足許のがたがたっぷりと暑さだろう。

「疲れましたけど……ハイナ様の一大事!
 ハイナ様ファンとして決して放っておける展開ではありませんわ!」
「俺にとってもハイナ校長は葦原明倫館の総奉行。
 助ける義務はあるからな」
(相変わらずだなぁ……ま、だからこそ沙耶ちゃんを好きな男として最後まで頑張らないとな!)

 あと少し。
 だからこそ、沙那は自らを鼓舞した。
 次いで麻篭 由紀也(あさかご・ゆきや)も、気合いを入れる。
 伝わらぬ想いに哀しみを馳せつつ、それでも好きな者のために動こうとは漢だ。

「この辛い道程も……やっと終わる……」
(女性が側に居ると、どうにもうまくいかないというのに……それに。
 駆りだされても、私が役に立てるとは、とても思えないのに……)

 由紀也の斜め後ろに控えて、和泉 暮流(いずみ・くれる)は独り語散る。
 半径2m以内で発動するという重度の女性アレルギーを抱えており、リスクとともに山を登ってきたのだ。
 これまでは、その場で意識を飛ばしたり、雷に打たれたり、そのほか残念な体験ばかり。

「いや……」
(……剣の道に生きると決意した身で、何と弱気なことを。
 今後も女性と一緒に活動しなければならない事態なんて、いくらでも在り得るだろう。
 何としてでも慣れなくては!)

 もちろん、これでよいと思っているわけではない。
 どうにかして克服しなければならないと、頭では理解しているのだ。
 だがしかし、すぐにどうにかなるはずもなく。

「耐えてみせる……」

 とりあえずは【心頭滅却】を応用して、女性を気にしないよう精神集中。
 脂汗を浮かべながら、ここまで来たというわけだ。

「暮流、大丈夫さ」

 無理を押してがんばっていることを、由紀那は充分に解っているつもり。
 隠れようとする頭上に手を置き、ぽんぽんと勇気づけた。

「さて……本当にこいつで最後のようだから、進もうぜ!」

 由紀那の【ホークアイ】には、敵の姿は映らない。
 構えていた『三連回転式火縄銃』も肩にかけ直して、山頂を指さした。
 そうして、歩くこと十数分。

「着きました〜っ!
 私も全力で探しますよ!」

 喜びのあまり、御神楽 舞花(みかぐら・まいか)が両手でバンザイをしてみせる。
 すぐさま荷物から『パラミタ植物図鑑』を取り出して、植物探しだ。

「確か特徴は……」
「全体的に小さくて、丸っこい葉とふわっとした花がついているのですわ」

 足許よりも先に記憶を探る舞花へ、笑いかける房姫。
 身振りも交えて、説明してみせる。

「うん、それっぽいの見付けますね!」

 元気に首を縦に振り、舞花は駆けた。
 【野外活動】と【博識】のスキルをフルに活用して、あてはまりそうな植物を探す。

「丸っこい葉に、ふわっとした花、ねぇ……」
「乱暴にしちゃダメよ?」

 アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)も、手許の草花達を慎重にあらっていった。
 さゆみと一緒に、葉や花へ、ひとつひとつ優しく触れてみる。
 そうした努力が、ついに実を結び。

「これ……房姫っ、ちょっと来てください!」

 房姫に確認を求めれば、目的の植物に相違ないとの判断が下った。

「良かったですね、あとは明倫館へ戻るだけですわ。
 大丈夫、ハイナ校長は必ず私たちの帰りを待っていてくれていますよ」

「房姫と、あと1人誰か乗ってくれ!」
「ではあたしが、房姫を護り届けるわ!」
「皆、ありがとうございます。
 後程、学校でお会いしましょう」

 『ぽいぽいカプセル』から『空飛ぶ箒シュトラウス』を発現させた、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)
 呼びかけに応じた那由他と、植物を持った房姫を載せて、朱の空へと飛び立った。

「いま行くぜ!」

 葦原明倫館にて到着を待つパートナーに、速報を入れることも忘れない。
 これで、戻ればすぐに薬の調合へととりかかることができるから。

「ふふ……送信、っと!」

 舞花のメールは、いまこの刻にも忙しいであろう、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)に宛てたもの。
 今日の出来事を中心に、近況をメールしたのである。