リアクション
第五章 説教日和
園児救出、戻り薬奪還、土壌回復が終了して残るはロズフェル兄弟への説教だけ。
「……」
ロズフェル兄弟は、レジャーシートに正座をさせられ、周りを説教者達に囲まれていた。
背筋を伸ばしてこの上なく居辛そうな顔をしている。
「まず、先生と巻き込んだ子供達に謝るんだよ。迷惑を掛けた事は分かってるかな。どれだけ多くの人が大変な思いをしたか」
北都がぐさりと言葉の槍を兄弟の胸に突き刺す。
「……」
こくこくと激しくうなずくロズフェル兄弟。さすが双子だけあってうなずくタイミングに全くのずれが無い。
すでに説教をし終えた陽一がナコと巻き込んだ園児達を連れて兄弟の元に来た。
「連れて来た。二人共」
陽一は謝るように促す。
「……迷惑をかけてごめんなさい。申し訳ありません!」
双子は少しの乱れもない動きで美しい土下座を披露した。
「……は、はい」
ナコは少し困っていた。
「いいよー、お兄ちゃん。面白かったから」
「だってあたしが使いたいって言ったし」
「楽しかったよ。動物にもなれたし」
園児達は優しかった。それが二人を調子に乗らせた。
顔上げた二人の表情はすっかり元気だった。
「そっか」
「だろ、オレとヒスミにかかればあっという間に面白いものが出来るんだぜ」
子供達の言葉に嬉しそうになる双子。いつの間にか仲直りもしている。
呆れるのは説教者達ばかり。
ナコと子供達が行った途端、
「馬鹿者!」
羽純の一喝が双子の鼓膜をじんじんさせた。
「薬はなかなかの物じゃったが、もう少し使う場を考える事じゃ。森には様々な捕食者がいるのだぞ。わらわも狙われて怖い思いをした。お主等も遭遇したであろう。のぅ、ヒスミ」
羽純は、厳しい口調で説教を続け、ちろりとヒスミの方を見た。
「でも、あれは」
「……うっ」
ヒスミは何とか言い訳をしようとし、キスミは熊になった吹雪に襲われた事を思い出していた。
「……皆、怪我もせず無事に揃っておるのは奇跡じゃ」
羽純は、元気に遊んでいる園児達に顔を向けながら言った。下手をしたら犠牲になっていた園児もいたかもしれない。それぐらいの事を二人はしでかしたのだ。
「……でも森があーなっていたのは俺達のせいじゃ」
「ヒスミの言う通りだ」
兄弟は口ごたえをする。
そこに北都が
「二人は園児達より年上だよねぇ」
厳しい口調で言葉を挟む。
「それは……」
「そうだけど」
ロズフェル兄弟は思わず口ごもる。
「それなら、あの子達が危ない目に遭わないように面倒を見る必要があるよねぇ。子供達の模範にならないといけないと思うけど」
北都は正論を口にする。ナコが頼りになるだろうと園児達を任せたのにこんな有様。分別のつく年頃がやる事ではない。
「……」
ロズフェル兄弟はぐぅの音も出ない様子。
「皆を楽しませようとしたことは良いと思う。実際に子供達も楽しんでいた」
カンナが少しばかり優しい言葉をかけた。両目はまだ充血したまま。
「私もそれは良いと思うよ。ただ、なんでアレルギー治ってないの!? 猫になって猫アレルギーっておかしくない!? 多くの人が不満無く楽しめるようにしないと」
ローズは薬を使ってから感じてた不満を言葉にした。あれだけくしゃみをすれば、不満にもなる。
「それは考えてなかったな、キスミ」
「あぁ、今度はアレルギーも治ってるようにするぜ」
ロズフェル兄弟は明るい顔になり、キスミはローズに向かって作り上げるぜと親指を立てる始末。
「……ロゼ、話の論点が違う」
カンナは双子を調子づかせたローズに注意した。
「あ、とにかく薬の管理はきちんとしないと。大丈夫だと思っていても実証していないなら安易に薬を混ぜたりしない」
ローズは急いで話を説教に戻した。
「今回、鎧化してフルアーマーになるぐらいしかなかったし」
「安易にって」
ヒスミが混ぜた影響についてホリイの事を思い出し、キスミは不満顔になった。
「にゃんこ言葉にもなったよ」
北都が自分の事もリストに加えた。
「たまたま命に関わらなかったから良かったけど。もし、関わっていたら?」
カンナが静かに考えるべき事を訊ねる。
「……」
答えが分かるロズフェル兄弟は黙ってしまった。
「持ち主がしっかり管理しなければ、楽しい時間が台無しになる。それは嫌でしょ?」
カンナはさらに言葉を続けた。
「……」
ロズフェル兄弟はこくこくとうなずく。
「ヒスミには言ったが、子供達に何かあったら、その子の友達や先生、家族が心を痛める事になる。こんな説教では済まない。それは分かるだろう?」
ここで陽一が最後の一撃を振り下ろした。
「……はい」
反論を口にする気持ちをみんなに折られたロズフェル兄弟は落ち込んだ返事しか出来なかった。
説教に一段落ついたのを見計らって
「子供達も一緒に遊びたくて待っておる。もうそろそろ解放してあげてはどうじゃ」
ルファンがロズフェル兄弟にとってありがたい言葉を挟んだ。
「助かった。行くぞ、キスミ」
「よし」
助かったとばかりに立ち上がろうとするロズフェル兄弟。
「その前にそなたらの事を気にかけて説教をした皆に謝って礼をしてからじゃ」
ルファンは一度、双子を止め、謝り礼を言うべき人達に注意を向けさせた。
ロズフェル兄弟は立ち上がるのをやめて
「……今日は、迷惑をかけてごめんなさい。助けてくれてありがとうございます」
二人は同時に頭を下げ、謝って礼を言った。
説教者一同、言葉無くそれを受け取り、園児達の所へ遊びに行くロズフェル兄弟を見送った。もうこれ以上、説教してもだめだろうと感じていたので。
「……偽りは無いと思うけどねぇ」
北都が園児達と遊ぶロズフェル兄弟を見てぼつりと言った。
その場にいた皆その言葉にしっかりとうなずいていた。
偽りは無いだろうが、学習したとは思えず、また何かやるだろうという嫌な予感しかなかった。
この後、説教者達もそれぞれ時間を過ごした。せっかくだからと園児達と遊ぶ者や休憩をする者など様々だった。
例えば、動物変身薬に興味を持っていたフレンディスや朱鷺は別の動物に変身していた。
「マスター、次は鳥になってみますね」
元の六種類に戻った動物変身薬に気付き、鳥の瓶を手に取っていた。
「フレイ、少しは懲りてくれ」
ベルクは疲れた声で止める。
「大丈夫ですよ。薬は元に戻ったんですから」
フレンディスは元気に心配無用と答える。
「ご主人様、変身するなら犬です!」
ポチの助は必死に犬になる事を勧める。
「そうですか。それなら犬になりますね」
ポチの助に勧められ、鳥をやめて犬になるフレンディス。
「どうですか?」
フレンディスが変身したのは子犬だった。
「何でまた小さいんだ」
ベルクは大きさにため息をついた。
「お兄ちゃんですねー」
フレンディスはポチの助を少し見上げながら言った。身長の高さが逆転して見上げているのは新鮮だ。
「それでこそ、ご主人様です!」
ポチの助は喜んでいた。
「……なかなか面白かったですね」
元に戻った朱鷺は、懐かしい視界の高さで風景を見回していた。
「動物変身薬も元に戻っていますし、なりたい動物を選ぶ事が出来ますね」
朱鷺は、元の六種類別々の瓶に入れられた動物変身薬を見た。
「……次は何になりましょうか。鳥にしましょうか、それとも蛇にしましょうか」
朱鷺はどれにしようかと考え始めた。溢れる興味は止まらない。全ての動物になるつもりではあるが。
「……まずは鳥になって空でも飛んでみましょうか」
朱鷺は瞳と毛色が銀の美しい鳥に変身した。羽を広げたり、周囲を見回して視界を確認し、空を飛んだ。
その後、朱鷺は予定通り残り四つの動物にそれぞれ変身し、満足していた。
この後、騒ぎの事が学校に知られてしばらくの間、ロズフェル兄弟達は薬品作製禁止令で抜け殻になり、解禁となっても少しの間は大人しくしていた。しかし、すぐに取り憑かれたように薬品を作り続けたという。彼らの脳内辞書に懲りるという言葉は完全には記録されず、更新され続けるのは悪戯の項目だけだった。
あおぞら幼稚園は迷子になりながらも冒険が出来てたくさんのお兄ちゃんやお姉ちゃんとも遊べてとても満足したそうだ。
元凶である魔術師が判明しないままだが、森が元に戻った事によって植物や動物達に平和が戻り、新たな犠牲者は生まれなくなった。
今回のシナリオを担当させて頂きました夜月天音です。
参加者の皆様、本当にお疲れ様です。
それから、様々なアクションをありがとうございました。
皆様の尽力のおかげで園児達は無事、怪我もなく救出され、森も平和を取り戻す事が出来ました。森異変の犯人など多少気がかりは残ってしまいましたが、今は平和を取り戻した事を素直に喜ぶ時でしょう。
ロズフェル兄弟の大迷惑ぶりは今回のシナリオでも相変わらずとなりました。その労力を他に使えば平和になるのですが、悪戯が空気と同じ彼らには無理な相談でしょう。
また彼らが迷惑をかける事もあるかと思いますが、どうか構ってやって下さい。
最後となりますが、一欠片の氷ほどでも楽しんで頂ければ幸いです。