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【架空大戦】絶対無敵! 僕らが奇跡!

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【架空大戦】絶対無敵! 僕らが奇跡!

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07:要塞中枢 待ち受ける敵

 
 駆け抜ける勇者たちの中に混じる人影がある。絶望的な状況をくぐり抜け、随伴歩兵としてやってきた鳴神裁……を名乗る双子の妹の鳴神九十九だった。
 勇者たちとともに幾つかのブロックを敵を撃破しながら進むと、開けた場所に出る。そしてそこに居たのは、おぞましき生ける屍の群れ。そしてそれを操るオリュンポスの幹部にして怪人、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)だった。
「ヨウコソ……冥府ノ入リ口ヘ。私ハエッツェル・アザトース。勇者ノ皆サン、チカラヲ付ケル前ニ、ソノ芽ヲツマサセテモライマス」
 その喋り方は丁寧だが、地獄の底から響くような恐ろしさを感じさせる声で、アザトースは言う。
 仮面とローブで全身をくまなく覆っており、その正体は不明。声から男だということはわかるものの、包み隠されたその体から漂ってくる邪悪な気配を浴びたものは、勇者でなければ即座に発狂していることだったろう。
『みんな、ここは私に任せて』
 イーリャがそう言うと、生徒たちは素直に頷いて先を急ごうとする。
「ソウハサセマセン」
 アザトースが腕をふるうと、骨竜が勇者たちに襲いかかる。
『生徒たちに手出しはさせない!』
 イーリャはミサイルポッドから大量のミサイルを放出する。弧を描き飛んでいくミサイルは違うことなく骨竜に命中し、その骨格をバラバラに破壊する。
『今よ!』
 イーリャが叫ぶと、勇者たちは飛び出した。
「置き土産だ!」
 フレイがグレネードを投擲する。そのグレネードの爆発は周囲の死者の群れを一掃したが、アザトースには傷一つついていなかった。
『へえ、無傷なんだ』
 イーリャが微笑む。
『ちょっと、劣等種、こんなのと戦うつもり? こいつはバケモノよ!』
『ジヴァ、ママと呼びなさい』
『だからあたしはあんたの娘じゃないって!』
 そんな言い合いを続ける二人を意に介さず、アザトースは言葉を紡ぐ。
「サテ、戦場ガココデハイササカ不都合デス。移動シマショウカ」
 そしてアザトースが印を組むと、九十九とフィーニクスは視界が暗闇に包まれ、気がつくと国軍の基地にいた。
「サア、亡者ドモヨ目覚メナサイ」
 その言葉とともに地面からアスファルトを砕いて飛び出してくる亡者たち。基地の至る所に亡者が出現し、内部はパニックに陥る。 軍人たちは銃を手に市民を誘導し、科学者たちも自信の開発した兵器で亡者たちに対抗する。
 そしてダリルは軍の端末を借りてネットに接続し、様々な情報を検索して比較して矛盾を見つけ出していた。過去の年号が一致しない。一方の記事にあることが一方の記事にはないetc……etc。
「ダリル、早く逃げようよ!」
「待ってろ! もう少しだ。もう少しで決定的な何かが……」
 ルカルカの懇願もはねつけ、情報の検索を続けるダリル。
「そんな事やってる場合じゃないわよぉ。まずいわぁ……」
「ミレリアちゃん!」
 狼狽えるミレリアの手を、太輔が引っ張る。そして、唯斗とともに駈け出した。
 基地の中を、ひたすら逃げ回る。視界が二転三転……慌ただしく変わる。
 逃げ回るうちに、格納庫らしきところに出た。だがそこも安全ではなく、亡者が迫ってきていた。
「危ない!」
 太輔がミレリアを突き飛ばす。
 それと同時に、太輔が亡者に噛み付かれる。
「きゃあああああああああああああああああああああああ」
 ミレリアの悲鳴。
「おい、大丈夫か!?」
 唯斗が太輔にに駆け寄より、肩を抱きかかえる。
「……っ痛。かなんなぁ、命は一つしかないさかい、粗末にはしたないんやけど」
 太輔が、血を流しながら切れ切れに言う。
「お前ら! よくも俺の生徒に!!」
 唯斗は徒手空拳でミレリアと太輔を庇うために死霊と戦い始める。
「何よ! なんなのよ! もういやああああああああああああああ!!!」
 切れたミレリアがそう叫んだ瞬間、ミレリアの脳髄に電流が走る。
 それはダリルが世界の異変を見ぬいて満足し、亡者の群れから離脱したのとほぼ同時だった。
 ルカルカが、ダリルとともに手から出る光で闘いながら、ミレリアの携帯にコールする。
 着信音はミレリアにとって現実との接点になった。縋りつくように通話ボタンを押す。
「ミレリア!? ダリルが言うにはここはサイバースペースや集団無意識でできた仮想現実の世界らしいよ。だから、なにかきっかけがあれば抜けだせるかも!」
「仮想現実!? なにそれ! そんなの知らないわよ。リリア、助けてよ!」
 ミレリアがそう叫んだ時だった。ミレリアの前に一人の女性が突如として現れた。
「ミレリア様……やっと呼んでくださいましたね……」
 慈愛の表情を浮かべて、その女性はミレリアを抱きしめる。
「リリア! リリア!」
 ミレリアは、子供のようにその女性に抱きついて名前を呼んだ。
 リリア・シュレイン。ミレリアのパートナーにして芸能活動においては彼女のマネージャー。ミレリアにとって、最も大切な存在だった。
「さあ、ミレリア様、あれにお乗りください。この夢を終わらせましょう」
 リリアの指し示す先にはミレリアの愛機であるアスタルト―カナン神話の女神―が立っていた。
「ほんとうに夢ね。なんていうご都合主義なの! でもいいわぁ、スーパーエースミレリア様の活躍を見せてあげる!」
「よっしゃ、よくわからんが行け、ミレリア!」
 唯斗が肩をたたいてミレリアを送り出す。
 そしてミレリアがアスタルトに乗り込んで機銃を掃射すると周囲の亡者の群れは消え去ったのだった。
 
「やああああああああああ!」
 九十九にして裁。彼女の回し蹴りがアザトースを弾き飛ばす。
「ナカナカヤリマスネ……デスガ、ソノ程度デハ……」
 アザトースの体から暗闇が飛び出す。
 闇は物理的な力すらも備え、裁に、イーリャにダメージを与える。
『第四の結印は古き神の御印、其は敵意と脅威を祓わん!』
 イーリャが結んだ結印が、闇を駆逐する。
『ターゲットインサイト! ファイア!』
 無数のミサイルが人の大きさにすぎないアザトースに向かって飛んでいく。過剰にも見える暴力。だが、アザトースの生み出した闇がミサイルを蒸発させる。
『ならば……』
 ツインレーザーライフルを発射。光輝は闇に対して強い。闇を貫き、アザトースの体躯を貫く。どう見てもオーバーキルなダメージ。
 だが、アザトースは立ったまま身に纏うローブを脱ぎ捨てる。
 するとアザトースの体が変化して巨大化。薄紫の水晶の翼、巨大な口の付いた長い腕、頭部は無く、足は触手のようであり、体中に眼がある不気味な怪物へと変貌する。
「これはさすがに無理かな……」
 裁がそうつぶやくとイーリャは「後方で民間人を守って」と告げる。
 裁が走り去るとアザトースの魔術とイーリャのミサイルやライフルの応酬が繰り広げられる。だが、アザトースから変貌した怪物には痛みを感じた様子もなく、それどころか自己再生する有様。
「ちょっと、ヤバイわよ……」
 ジヴァがイーリャにそう囁くと、「仕方がないか」とイーリャは覚悟を決めたように言って、リミッターの解除を行った。
『チェンジ・フィーニクス!』
 フィーニクスが、飛行形態から人型形態に変形。同時に手に二兆のレーザーライフル、各部のミサイルポッドが全開放。翼の下のキャノン砲がレーザーライフルとともにアザトースだった化物に狙いを定める。
『ストライカー・フルバースト! 地獄の砲火(ヘルファイア)!』
 全ての弾丸が一斉に発射され、過飽和状態でアザトースに集中する。
 アザトースは強固な翼を盾にしてそれを防ごうとするが、翼ごともっていかれる。そして、闇が刳られた。
『私如キヲ……倒シテ、良イ気ニナランコトダ……アノ御方ニハ、神スラモ敵ワヌ。魔神皇帝様ニ栄光アレェェェ!!!』
 そう、異形の声で叫んで、アザトースは爆発・四散した。

 要塞中枢部の一本道。
 その一本道を駆け抜ける勇者たちの前に、一気のロボットが出現する。
 国軍のプロトタイプのもっとも初期段階の機体クェイルだった。
『何だクェイルか。これなら……』
 フレイが油断して一気に突っ込む。
『待て!』
 シマックが止めるが遅い。
 クェイルはおよそ考えられないトリッキーな動きでフレイにアサルトライフルを叩き込んだ。
『うわああああああああ』
 フレイが悲鳴を上げる。
『ふふ……油断したね?』
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が妖艶かつサディスティックな声で嘲笑う。
『これだからお子様は……』
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が氷点下の冷たさの声で侮蔑する。
 その通信にうつるのは、やたらと露出度の高い女が二人。
『なんてベタな女幹部だ……』
 勇平はそう言うと、バルムングの剣を抜いた。
『ここは俺が引き受けた!』
 それを受けて美羽と朋美はフレイの機体を起き上がらせると先へと急いだ。
『邪魔しないのか?』
『ここで邪魔をするのは典型的なヤラレ役だから』
 セレンフィリティがそう言うと、勇平は、違いない答えて笑った。
『じゃあ、行こうかお姉さん!』
 勇平が斬りかかる。
 その攻撃はパワーもスピードもすごい。だが、あまりに力任せな訓練を積んだことのない子供の動きだった。
『甘い!』
 セレンフィリティは笑いながらアサルトライフルを叩きこむ。
『その程度の攻撃、バルムングに効くものか!』
 それでも、勇者の装甲は厚かった。その銃弾ではダメージらしいダメージを与えることが出来ない。
『くっ。さすがは勇者……だが!』
 セレンフィリティはクェイルと自分の精神を同調させ、歴戦の戦士らしい動きで勇平を翻弄し、関節部にゼロ距離射撃で銃弾を叩きこむ。
『があああああっ!』
 勇平の悲鳴。
『つうううっ!』
 セイファーが叫ぶと、セレンフィリティは笑った。
『あら、いい声で啼くじゃない』
 悪の女幹部とはかくあるべき。そんな台詞だった。
『ほら、もっと可愛がってあげる!』
 次々と関節部に銃弾を叩きこむ。だが、攻撃がうまく行きすぎて調子に乗ったのが裏目に出た。勇平が繰り出した剣の一撃が、クェイルに直撃する。
 その一撃はクェイルの装甲を砕いて激しい爆発を引き起こす。
『調子に乗りすぎたようね、セレン』
『くっ……』
 セレアナの冷たい声に、セレンフィリティは歯噛みする。
『もう機体は持たない。脱出よ』
『了解』
 セレンフィリティはおとなしく頷いて脱出装置を作動させる。
『なんとか勝ったか……』
『ですがマスター、こちらも限界です。帰投しましょう』
 セイファーの進言に勇平はうなずき、バルムングを転送させる。そして二人は教室に戻っていた。