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リアクション
★ ★ ★
「はい、チョコバナナだよ。あーん」
「がぅん♪」
しゅるん!
サー パーシヴァル(さー・ぱーしう゛ぁる)が、お祭りの屋台から買ったばかりのチョコバナナを、テラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)の着ぐるみの口の前に持っていくと、それがしゅるんと消えた。
「さすがは、テラーだね。チョコバナナなんて、一口だもの」
「がぅがぅ」
感心するサー・パーシヴァルに、テラー・ダイノサウラスが自慢げに答えた。ぱっと見はゆる族のようだが、これでもれっきとした地球人だ。着ぐるみは、ゆる族のような特別製の物ではなく、地球製の怪獣の着ぐるみであった。
「ああ、あっちにたこ焼きの屋台があるよ。食べよ、食べよ♪」
ドロテーア・ギャラリンス(どろてーあ・ぎゃらりんす)が暗黒比翼でふよふよと宙を飛びながら、ソースの焦げる香ばしい匂いに引き寄せられていった。
「ああ、待ってよー」
「がぅがぅー」
あわてて、サー・パーシヴァルとテラー・ダイノサウラスが後を追う。
まるで掃除機のようにたこ焼きを吸い込んで、テラー・ダイノサウラスが熱さに悶えた。あっという間にたこ焼きをたいらげた三人は、今度は林檎飴の屋台目指して突撃していった。
「急いで走って、転ばないように気をつけるんだよ」
三人が迷子にならないように注意しながら、グラナダ・デル・コンキスタ(ぐらなだ・でるこんきすた)が屋台に料金を払っていく。いやはや、食べ盛りが三人もいると大変だ。
「ケバブー!」
「がぁ!」
「綿飴!」
「がぉ!」
「焼きそば」
「がぅるん!」
「べっこう飴!」
「がりぃぎゃりぃ!」
「飴細工ぅ!」
「ごぅ?」
まさに嵐のように食べまくるテラー・ダイノサウラスとサー・パーシヴァルに、ドロテーア・ギャラリンスもちょっと押され気味だった。
「あーあ。口の周りが凄いことになっているよ」
飴細工のおじさんが、握りばさみで器用にドラゴンの姿を作っているのをジーッと見つめているテラー・ダイノサウラスの口許を、ドロテーア・ギャラリンスがハンカチで拭ってやった。パキパキと硬質な音が響き、テラー・ダイノサウラスの口許で何かが鈍く光ったような気もするが、着ぐるみの陰となっていて周囲からその口許をうかがい覗くことはできなかった。
「はい、テラーの分だよ」
ユニコーンの形に切り作られた飴をペロペロとなめながら、サー・パーシヴァルがみごとに翼を広げたドラゴンの飴を差し出した。
「どれ、ドロテーアが渡してやろう。はい」
サー・パーシヴァルから飴を受け取ると、ドロテーア・ギャラリンスが先ほど綺麗にしてあげたテラー・ダイノサウラスの口許に飴を運んだ。
「がぅぎゃばきゃ」
一瞬にして、みごとな細工物だった飴が噛み砕かれる。
「ああ、すっごいドラゴンだったのに……。まったく、テラーの方が凄いんだあ」
ちょっと呆れたようにサー・パーシヴァルが言ったが、ドロテーア・ギャラリンスの方は、なぜかうっとりとした目でテラー・ダイノサウラスを見ていた。
「ほれぼれする食べっぷりだよね。パーシヴァル、もう一つ飴はないの?」
もう一度テラー・ダイノサウラスが食べるところを見て見たいという欲求に駆られて、ドロテーア・ギャラリンスがサー・パーシヴァルに聞いた。
「えー、これは僕のだからね」
サー・パーシヴァルが、あわてて自分の飴を隠す。
「えー……」
「あっちに、イカ焼きがあるから、そっちに行こうよ」
不満そうに顔をゆがめたドロテーア・ギャラリンスに、あわててサー・パーシヴァルが別の屋台を指し示した。
「よし、テラー、行くんだもん!」
「がぉ!」
即座にイカ焼きの屋台に行く。きつね色に焼きあがったイカ焼きを手に取ると、ドロテーア・ギャラリンスがさっそくテラー・ダイノサウラスに食べさせていった。どうやら、本能的に餌付けに目覚めてしまったようである。
「これも美味しい。もう、この時代は、なんて美味しい物にあふれているのよ」
イギリス出身のサー・パーシヴァルが、感激しながらイカ焼きを頬ばっていった。もう、完全にお腹はぽっこり状態なのだが、明日の体重よりも、今日の食欲に負けてしまっている。
「まったく。小銭をたくさん用意してきてよかったよ。ああ、細けーことは気にしねーで、じゃんじゃん食べな。ふふっ、気にしたらおしまいじゃん」
もともとぽっこりしたお腹のテラー・ダイノサウラスはいいとして、だんだんとそっくりな体形になっていくサー・パーシヴァルをにまにまと見やりながら、グラナダ・デル・コンキスタが言った。
そのとき、人混みの中を、ふらふらとした足取りで一人の男性型機晶姫が近づいてきた。
『分析……不確定。……ゴン……あり……。……対象と認……』
何やらぶつぶつとつぶやいたその機晶姫が、じっとテラー・ダイノサウラスを見つめた。やがて、大きく拳を振りかぶると、一気にテラー・ダイノサウラスに接近しようとした。だが、その間に、イカ焼きの支払いを済ませたグラナダ・デル・コンキスタがタイミングよく割り込んできた。パンチを繰り出す体勢だった機晶姫がバランスを崩し、そのままグラナダ・デル・コンキスタに覆い被さるようにだきつく。
「こ、こいつ……。痴漢……!? いや、だきつきスリか!!」
一瞬で決めつけると、グラナダ・デル・コンキスタが、持っていた財布の中から呪の描かれたカードを取り出した。
「来たれ、我が鵬翼よ!」
カードが灰となって消え去ると、代わりに六枚羽根を持った金角金髪の式神が背後に現れた。即座に機晶姫の頭を鷲掴みにすると、あっけなくグラナダ・デル・コンキスタから引き剥がし、まるで人形か何かのように放り投げた。悲鳴をあげることもなく、屋台の上を飛び越えて機晶姫が吹っ飛んでいく。
「がぅ?」
「何かあったの?」
テラー・ダイノサウラスへの餌付けに夢中だったドロテーア・ギャラリンスと、それを見ていたサー・パーシヴァルが、異変に気づいて振り返った。
「なんでもない、なんでもない。それより、あっちに鶏の唐揚げがあるぜ」
「唐揚げ!」
「鶏肉!」
「がぅ!」
不審者はどこかへ行ってしまったので、すっとぼけたグラナダ・デル・コンキスタの言葉に反応して、テラー・ダイノサウラスたちが食欲のままに走りだした。
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