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渚の女王、雪女郎ちゃん

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渚の女王、雪女郎ちゃん
渚の女王、雪女郎ちゃん 渚の女王、雪女郎ちゃん

リアクション

「みす、こん?」

 聞きなれない単語に雪女郎は首を傾げた。

「そう、ミス・コンテスト! 女が浜辺で勝負と言ったら、水着姿で魅力を競うミスコンと決まってるのよ! ビーチバレーなんてぬるい勝負じゃなくて、真の渚の女王コンテストで勝負よ!」

 ビシリと指を立てて宣戦布告するエリスとアスカ。
 しかし雪女郎はそれが意図するものが何なのか分からなかった。

「ようは皆の前で誰が可愛いかを決めるものですよ」

 刀村が小声で雪女郎に告げれば、そんなイベントがあるのか、と不思議そうに何度も頷いていた。

「ともかく! 今この浜辺の有名人のあんたが参加しないことには始まらないの。ま、あんたのそのつるぺた具合じゃあ、やる前から勝負が見えてるかしら? 悔しかったらあたしたちみたいにボンキュッボンなナイスバディになってみなさいよ」

 もうすぐ始まるから逃げずに来てねと言われては引くわけにもいかない。
 こうしてよく分からないまま雪女郎はミスコンに参加することになったのだ。


「さあ、急遽始まりましたミスコンテスト! 司会はなぜか私、海の家くらげの店長が務めさせていただきます。皆様毎日海の家のご利用ありがとうございます」

 ビーチバレー決勝戦までの時間つぶしにちょうどいいと結構な数が特設ステージへと集まっていた。
 海の家からほど近く、ビーチバレーのコートまでの距離の半分ほどの場所に特設ステージはあった。毎年ここで様々なバンドやアーティストが演奏を行うらしいのだが、今年は浜辺が占拠されたこともあってほとんど使われていなかった。
 せっかくだから使っていいよ店長の許可ももらったので、ここを会場にミスコンを開催することにしたのだ。

「それでは一番の方、どうぞー」

 金髪ツインテールを揺らして、水着からあふれそうな豊満なボディを見せ付けるように登場したのはエリスだ。

「では最後に何かいいたいことはありますか?」

 その言葉を聞いて店長からマイクを引ったくり、ステージ脇の参加者控え席に向かって声を上げた。

「雪女郎、女は魅力で世界を手に入れるのよ! こんな間違った方法じゃなくね。あんたが勝ったらこの浜辺は好きにしなさい。でももし負けたら勝者に従ってもらうわ!」

 ふふんと口角を上げるエリスに客席からは大量にブーイングが飛ぶ。
 その様子を見て予備のマイクを取ってきた店長が次へと進めようとしていた。

「……とまぁそんなコメントいただきましたが、この対決の行方も気になりますね。では最後に特技を披露していただきましょう!」

「一番えりりん、歌いまーす!」

 音楽がかかり、エリスがノリノリで歌い出す。
 その頃参加者控え席は大変なことになっていた。

「おい、ルカ。どうして俺まで参加になっているんだ?」

 怒りも通り越すと笑顔になることを淵は身を持って知った。

「だって、ミスコンって言ってるけど性別制限なかったし、出ませんかって誘われたし、淵ならきっとカリスマを発揮してくれるだろうなって思って」

「それは明らかに誘われたのお前だろうが!」

 その横で同じようにエリスとアスカによって強制登録されていたマルクス著 『共産党宣言』(まるくすちょ・きょうさんとうせんげん)が涙目で訴えていた。


「はいお疲れー。交代―」

 ステージから降りてきたエリスが、二番の札をつけた涙目の魔道書にタッチする。

「同志エリス、どうしても出なきゃいけませんか?」
「あんたにも水着新調してやったでしょ」

 ほら、と背中を押され半泣きになりながらもステージへと歩いていった。
 ステージから見る客席は物凄い数の人で埋め尽くされ、同時に多くの視線が自分に向けられているものだと分かると恥ずかしさがこみ上げてきた。

(は、恥ずかしい…ビキニになんかするんじゃありませんでした……)

 かああっと頬が熱くなるのを感じて俯いたままぼそぼそと喋り出す。

「に、二番マルクス著『共産党宣言』です……きょーちゃんとお呼び下さい……うぅ」

 頑張れーと客席から飛んでくる声援にすら恥ずかしさを感じて終始下を向いたままだった。


「俺は女でもないし、まして男の娘ではない!」

 淵がステージに上がり紹介をされた瞬間にざわざわと客席から声が上がった。
 男の娘、という淵が今最も聞きたくない単語がそこかしこから上がってきたのを聞いてついに声を荒げたのだ。

「おまえらは俺を誰だと思うておるこの馬鹿者どもが!」

 カッと目を見開き英霊の持つ存在感を発揮させて客を威圧してやろうとした時だった。

「俺の英霊のカリちゅ……」

 しん、と静まり返り、淵の表情が見る見るうちに険しいものから泣き出しそうな顔へと変わっていく。

「ど、どうしました?」

 心配そうに窺う店長。そんな店長をじっと見つめながら淵はゆっくりと口を開いた。

「し、舌噛んだ……」


 ステージから降りた淵はぐったりとした表情を隠すこともせずルカの側にすとんと座ってしばらく動かずにいた。
 ステージは雪女郎が終わり、大トリのアスカがミスコン、というよりもライブを行っていた。
 846プロの現役アイドルらしく結構な数のファンが集まっているようだった。

 ――次は新曲! 『真夏のマーメイド』聴いてね!

 マイクの声とともに歓声があたりに響き渡る。
 楽しそうなアスカたちや、ぐったりとしている魔道書と英霊を横目で見ながら雪女郎はコートへと向かった。
 もうすぐ、決勝戦が始まる。