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葦原城下コイガタリ ~仁科燿助と町娘~

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第8章  終幕の際

 太陽も傾き始めた頃、賊との戦闘も終盤に差し掛かる。
 満を持して出てきたのは、これまでの賊どもとは明らかに雰囲気の違う女性だった。

「見つけた……」
「この不細工共のボスか。
 あいつを倒した方が効率的だな、さっさと……ってアスカ?」
「私の芸術を刺激する人〜!!」
「早っ!?」

 誰よりも早く、その存在へと気付いた師王 アスカ(しおう・あすか)
 蒼灯 鴉(そうひ・からす)が顔を向けると、既にその場所にはいなかった。

「えいっ!
 貴方……私のモノにならない!?
 その内に秘める磨かれた肉体美、荒さの残る野性的な髪……人を惹きつけるような瞳にその強さぁ!
 ここまで私を魅了する人は久しぶりだわ〜♪
 ああ〜もう全てを手に入れたい!!」
「おいーーーっ!?
 いきなり何危ない発言ぶちかましてんだーー!?
 みんな固まっているだろーー!」

 不意を突き、アスカは用心棒に足払いをかけて押し倒す。
 顔を近付けて頬に手を当てれば、誤解を生みそうな体勢のできあがりだ。

「こんな所で野生の花でいるのも悪くないけど、私に体を曝してほしいわぁ。
 最初は緊張するだろうけど大丈夫っ!
 次第に快感になるから〜だから……私に全て委ねない?」

 耳許で囁き、攻め顔スマイルをきめる。
 だがアスカは決して、妖しい意味で用心棒へと声をかけたわけではない。
 絵のモデルになって欲しくて、ちょっと強引に勧誘を図ったのだ。

「くっ……俺の敵は男以外にも女もだったのか!
 元はと言えばこんな時代錯誤な事件に派遣された原因のお前達のせいで……っ」

 そう、鴉には解っている。
 人はこれを、八つ当たりということくらい。
 けれども、アスカの行為により八つ当たりをせずにはいられない心情へと追いやられたのも事実。

「そういえば、こいつの切れ味まだ試した事なかったなあ……ちょうどいい。
 俺の憂さ晴らしに斬られろ」

 にっこり笑顔を浮かべて、『自在刀』を鞘から抜いた。
 いらいら全開で、所謂雑魚へと斬り掛かる。
 とはいえ傷つけたり殺したりはしないよう、斬るのは衣類だけにとどめたが。

「初めまして。
 一つ手合わせしてくれないかな?
 ……なあに、退屈させはしないよ」

 パートナー達とはぐれてしまい、熊楠 孝明(くまぐす・よしあき)は困り果てていた。
 そんなに広くない戦場だが、なかなか見付からないものである。
 まぁ、ひとまず再会への希望は置いておいて。
 未だアスカの下敷きになっている用心棒へと、挑戦を申し込んだ。

「いや、そんな眼で見られると、お兄さん困っちゃうなぁ」
「ほらアスカ、危ないからさ……」
「うわ〜ん、終わったら迎えに来るわ、絶対よっ!」

 アスカから睨まれつつ、けれども鴉からは感謝されつつ。
 後方へ跳びながら立ち上がった用心棒と、視線をぶつけ合った。

「いくぜっ!」

 孝明の初手は、【インビジブルトラップ】による牽制である。
 4つのトラップを躱しているあいだに、軽く一撃。
 更に『等身大マリオネット』を囮にして、『水龍の手裏剣』を投げつけた。
 しかしこの攻撃は跳躍により当たらず、相手からの攻撃を受けてしまう。
 両者、一進一退の攻防が30分ほど続いただろうか。

「はぁ、はぁ、はぁ、俺の勝ち、だね……」

 結果は、僅差ではあるが孝明の勝利だった。
 お互いに、相当のダメージを受けている。
 だが首許に刀を突きつけられては、白旗を上げるしかなかった。

「ぃよっしゃぁ〜っ!
 お姉さ〜んっ、このあとオレとお茶しようね〜」
「ちょっと燿助ったら、こんなときになに言っているのよ!?」
「駄目よっ、私の絵のモデルになるんだからっ!」

 高く拳を突き上げたのは、燿助だけではない。
 いつのまにか、一騎打ちの周りには人だかりができていた。
 ほかの賊はすべて倒され、残るはこの用心棒だけだったから。
 歓声に混ざって、那由他やアスカのツッコミが聴こえてくる。

「あぁ、あの人だったみたいだね。
 このあと試合をさせてもらえば、暮流の女性アレルギー解消の一端にならないかなー」
「ちょっと、由紀也ったらなにを言っているのですか!
 暮流から女性アレルギーがなくなったりしたら、面白くも何ともなくなってしまいますわ!
 あれがあってこその暮流だというのに!」
「な……いいでしょう。
 和泉暮流、そこの魔女に喜ばれるくらいならこの女性アレルギー解消に向けて修行してやろうじゃありませんか!」
(私の女性アレルギーの元はといえば、マホロバを出て由紀也と契約するまで母以外の女性を見たことがなかったせいですから。
 これは慣れる以外、どうにかする事はできないのでしょう)

 用心棒の強さは評判を呼び、麻篭 由紀也(あさかご・ゆきや)の発想へと繋がった。
 瀬田 沙耶(せた・さや)は反抗するが、そのおかげでやる気になった和泉 暮流(いずみ・くれる)

「とりあえずはハイナ校長のもとへ。
 そのあとで必ず、女性でありながら凄腕と呼ばれるその腕前、拝見しましょう!」

 暮流は用心棒へと歩み寄ると、勝負を申し込んだ。
 差し出した手を握り返されれば、それは受諾の合図。
 と、それだけで暮流は顔を真っ赤にしているではないか。
 本当に大丈夫なのか。

「あら、余計な事を言ってしまったようですわね……仕方ありませんわ。
 わたくしもささやかながら応援だけはさせていただきます」
「っちょ、ちょっとっ、ヤバくなったら助けてくださいよ!?」
「どういたしましょう♪」
「戦いの中で女の人が相手になることは、今後もあり得ることだ。
 その度にアレルギー症状を出しているようじゃ、剣の道を究めるなんて無理だろう?」
「沙耶殿も由紀也殿も、今日は冷たいですね……」
「まぁあまりに貴方方が情けないようなら、手を出しても構いませんが……覚悟してくださいませね?」
「え、貴方方、って、オレも入っているの!?」
「はい、もちろん」
「つまり、暮流とオレと、どっちがその用心棒を倒せるか勝負ってことかな?」
「そういうことですね」

 ほかにも、用心棒との戦闘を望む者達は大勢いるようで。
 処分が決まってからあとで、なにかしらの機会を得られるようハイナに頼んでみようかとの総意がまとまった。

「さぁみんな、オレの可愛い娘さんも戻ってきたことだし、帰ろうか!」
「みなさん、本当にありがとうございました!」

 斯くして生徒達は、合計26名の賊と、攫われた町娘を連れて、葦原明倫館へと戻る。
 今回もたくさんの女性達を口説いた燿助だったが、らぶらぶお月見デートは叶わず。
 町娘にもほら、許婚がいるというお約束のオチで、断られたのだった。
 曰く。

「オレの運命の女の子は、いつになったら現れるのか……」
「あんたねぇ……」
(これだけたくさんの生徒達が助けにきてくれたのに……)

 性格やら行動さえ直せば、と思わずにはいられない。
 そうすれば、近くにいる人が振り向いてくれるかも知れないのになぁとか、思う那由他であった。

担当マスターより

▼担当マスター

浅倉紀音

▼マスターコメント

たいへんお待たせいたしました、リアクションを公開させていただきます。
まったく本当に、どなたか燿助を更生してやってくださいw
楽しんでいただけていれば幸いです、本当にありがとうございました。