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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 6

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 6

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第8章 食は命・美味なるものならば食らう Story6

「―…っ」
「歌ちゃん、どうしたの?」
「だい…じょうぶです。ちょっと、呪いにかかりかかっただけです」
 歌菜はかぶりを振り軽症のうちに治そうと、自分の中に蓄積された呪いを追い出す。
 宝石を使うことに集中しているのだが、ケルピーの声を聞きっぱなしなのだ。
 ノーンとエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)の傍から距離があるため、ルルディとビバーチェの香りが届かない。
「―…歌菜さん、少し休んだほうが…」
「私なら平気です、ロザリンドさん。それに…、あと何人か治してあげないと、連れて帰るのも大変ですから…」
「無理はしないでくださいね」
 ロザリンドは歌菜に香水をかけてやる。
「甘い…いい香りですね」
「カメリアさんの香水です。少しの間ですが、呪いの抵抗力が上がるはずです」
「ありがとうございます!」
 いつもの元気を取り戻した歌菜は、被害者たちの治療に専念する。



「やつら、今度はわしらを狙う気か?」
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は大口を開けながら迫るケルピーに、祓魔の護符を投げつけ離れる。
 聖なる符が魔性に触れた瞬間、ボッと小さな起爆音が消える。
「―…傷はなさそうだが、多少のダメージはあるようだな」
 ケルピーを見ると符に触れた前足をばたつかせている。
「サポートよろしくな」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はスペルブックの裁きの章を開き、頼りにしてるぜ、と笑みを向けた。
「 オイラの美味しいご飯の為に、早急に事件解決を進めなくてはなのです」
 一般的な夕飯の時間が過ぎていくのを、空腹で感じているクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)はキリッとした顔で言う。
「それ、雑念な」
「うぇええ?お子様の純粋な感情だよ?」
 エースの容赦ない突っこみにクマラはブーブー!と抗議の声を上げた。
「攫われて衰弱している人は、それ以上だって。クマラも我慢しょうな?」
「ぅ…うぇえん〜…」
「ウソ泣きしてもバレバレ」
「ちぇっ」
 ムッとしながらも、どこからか取り出した氷菓子をガリガリ食べる。
「水の魔法か、何度もうたれると厄介なものだ」
 水柱で抉れた地面に視線をあて、甚五郎はケルピーの魔法をかわしながら祓魔の護符で顔面にぶつける。
「ふむ。章ほどではないが…。使いようによっては、隙を作る程度の効力はありそうじゃな?」
 草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)はフレアソウルの炎を纏い、ケルピーの耳を掴む。
 陣たちの術により視覚確認が出来るため、相手の隙を狙えば簡単に触れられる。
「あ、つぅううぃィィイ」
「む?そんなに熱いのかのぅ。…この宝石は、自分の意思で解除出来るのだったな?」
 飛行だけでなく発火もそうなのだろうか。
 相手の耳の炎が消えるようにイメージして試してみる。
「―…消えたのぅ。燃えたあとはないようじゃ」
「それでもダメージは残っているんじゃないか?」
「まぁ…そうじゃろうな。ふむ、あとが残るほど長く焼いたつもりはないが。むー…、解除のタイミングは時と場合によるのぅ」
「なるほど、魔道具による魔法ダメージと同様ということか…」
「そなた…関心している場合ではないぞ。その護符で、しっかりサポートするのじゃ」
「分かっている」
 投げた護符がケルピーの口の中に入ってしまう。
「口がァアッ」
「食べ物ではないんだが」
「それだけ腹が減っているってことなんだろ?」
 エースはなるべく痛みを与えないように…、裁きの章を唱える。
「歌菜さんたちのほうは、ダリルたちが守っているから。クマラはケルピーを川辺にいる第1チームのほうへ行かせないようにしてくれ!」
「わかったにゅん!…すごーくぺんぺこりんなのわかるけど、人は餌じゃないよ」
 術を命中させるよりもエースのサポートとして、相手の足元や鼻先を狙ってみる。
「ちびっこォオオッ、美味そウッ」
「ぎゃぁああー!!?こっち来ないでーーーっ」
「それくらいでびびるなよ、クマラ」
「びびるって!」
 エースの術で怯んだケルピーの下をバタバタと潜りぬけ、ぜぇぜぇと息をついた。
「オイラ、美味しそうじゃないっ」
「お前、不味いノ?」
「まず…酷いっ、不味くはない…と思う」
「じゃ、食べたイッ」
「いやにゃー!!」
「この者に近づくでない。今度こそ…多少の火傷は負うかもしれぬぞ?」
「焼かれるのはイヤ」
 無闇に傷つけるのをよしとしない草薙羽純だったが、…仲間を傷つけられるのは許せない…というかなり本気の目だ。
「多少だと言っているじゃろう…。そなた、この者たちの本よりも恐ろしいというのかのぅ?」
「うーうん、どっちもイヤだヨ」
「なんとも正直者じゃな」
 良くも悪くも直球でモノを言うようだが、食欲暴走を起こしてしまうと、言葉による呪いをかけ捻じ曲がった非道も行うようだ。
 なるほど、野生の動物的感覚か…と心の中で呟いた。



「獰猛化したケルピーな…今までの魔性とはまた違うタイプだな」
 引き付け役をやってくれている甚五郎たちは、水柱で陥没した地面にはまらないように、ケルピーの魔法をかわしている。
 だが、それもいずれ体力の限界がきてしまえば、魔法の水圧に潰されてしまうだろう。
「(見通す雨だったか?陣たちの術は、俺らにも若干効力あるみたいだな)」
 早く終わらせようとラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)は、悔悟の章の灰色の重力場を地面に這わせ、魔性へ徐々に迫る。
 術の雨を被った魔性たちの姿は、彼らにも薄っすらと見える。
 手の形状をイメージさせて後ろ足を掴み、重力の圧力をかける。
「う、動けないッ!?」
「(で、動いたらトラップというわけですな)」
 ラルクが気を引いている間に、ガイ・アントゥルース(がい・あんとぅるーす)はインビジブルトラップを仕掛ける。
「もう離してもいいですぜ」
「なんか効いてないみたいだな」
 走り出した先に仕掛けられたトラップの反応はあったが、ケルピーは平然と通り過ぎた。
「それは残念…」
「メンバーもいることだし、ホーリー・エクソシズムできめようぜ」
「アイデア術を使うのですね!?」
 やる気満々のテスタメントはすでにスタンバイしていた。
「いつでも元気ね、疲れていないの?」
「大丈夫です。真宵の大好きな『まとめてどかーん』で真宵ごと纏めて祓ってさしあげるのです!」
「は…はぁあ!?なんでわたしくしまでっ」
「基本的に魔道具は人や物に、影響を及ぼさないために開発されているんですぜ」
「そうよ、わたくしは邪悪でも魔性の部類でもないのよっ」
「え?そう…でしたか」
「なんでちょっと残念そうに言うのよ」
 そこで沈むのはどう考えてもおかしい!と真宵が怒鳴る。
「真宵、怒りの感情は魔道具に影響がありますよ?」
「テスタメントがわたくしを怒らせたのよ」
「そんなことよりも、アイデア術を使いましょう!」
 夕食の空腹を紛らわせるためにメロンパンを頬張った。
「まだ隠し持っていたのね」
「食べないでくださいね?これは、ずっと空腹のまま放置されていた方々にあげるのですから!」
 テスタメントはプイッとそっぽを向き、ラルクたちの傍へ行ってしまう。
「ルルディちゃん。花嵐を使ってる時でも、魔性の攻撃や術の影響から皆を守れない?」
 予め召喚しておいたルルディに、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が聞く。
「可能ですが…。その分、あなたの負担も大きくなります。私としては、今の時点ではおすすめ出来ません」
「ん…うーん、わかった」
「花嵐を使うのですね?では…、章の力を私たちに…」
「皆さん、お願いします!」
「おう、そんじゃ裁きの章からいくぜ」
 ラルクとガイ、テスタメントの順番で唱える。
 ルルディとビバーチェは紫色の雨を心地よいシャワーのように浴び、身体に浸透させていく。
 さらに、ラルクとテスタメントによる哀切の章の光の波を吸収し、緑色の根から白きつぼみをつける。
 つぼみが開花したとたん花びらが舞い散り、白き雨雲のように空へ広がっていく。
「逃がしませんわよ!」
「なんでも食べちゃうのはよくないよっ」
 ホーリー・エクソシズム、花嵐はエリシアとノーンの指示通りに動き、白き雨を降らせる。
「ねーねー、君たち。何か探してるんでしょーォ?ジブンたちについてこないと、他の子が食べちゃおうかモー」
「ふぇ…、ぇえっ!?」
「ノーン!そのような嘘、聞いてはいけませんわ」
「さぁ、どうだろうネェ。骨でも見せれば信じるゥウ?」
「骨…ですって?」
 そのセリフにエリシアは眉間にきゅっと皺を寄せる。
「金髪のー、ツインテールの女の子〜。他の子もいたっケー」
「そ、それって…」
「とうとう人を食べたのですね!?いいでしょうこのテスタメントが、滅して…むぐっ」
「ちょっと黙りなさい、テスタメント」
 動揺の色を隠せないエリシアと怒りに燃えるとは異なり、真宵は酷く冷静だ。
「アホみたいなデマに踊らされてどうするの?」
 パートナの口を塞ぎ、騙されているだけだと教える。
「テレパシー使えるやつがいるんだから。そいつに聞けばいいじゃないの?」
「それもそうですね…」
「―…この程度で揺さぶられるようでは、まだ修行が足りませんわ」
「珍しくまともなことを…。かなり熱心に学んでいるようですね」
「は?な、何を…っ」
 ほっこりと笑顔を浮かべるテスタメントに、彼女は真っ赤な顔をして言う。
「んなことよりも、さっさと祓っちゃいなさいよ」
「分かってます!さぁさぁさぁ!!反省しないのなら、…というかまだ人を食べるなどと、蛮行を考えているの場合っ!このテスタメントが祓ってやりますっ」
「だってお腹空いタ…」
「あなたの言う美味にあたりそうな食べ物なら、木の実も草もありますっ」
 非人道的な食生活は許容出来るはずもなく、テスタメントは一歩も退かない。
「人のお肉美味しいそウ。いいもの食べてるやつ、美味しそウ。育たなさすぎるト、食べるところ少なそウ。古すぎると不味そウ…。丁度いい美味さが詰まったのがイイッ」
「ウンウン、脳みそとか柔らかそうだヨ。筋肉は硬そうだネ?よく噛まなキャ」
「わーわーっ、聞きたくありませんっ」
 そんな恐ろしい会話、耳に入れたくない!とテスタメントは大声を上げる。
「オ、オイラ怖いよ、エース…ッ」
「うーん…。なんていうか、きみたちが食用に見られたらいやじゃないのか?それと同じだな」
 裾にしがみつくクマラの頭を撫でてやり、人を食べるのをやめさせようとケルピーに話しかける。
「あの…。これをつけてみませんか?」
 綾瀬は荷物から馬勒を取り出し、ケルピーを大人しくさせようとする。
「なぜ現場に大きな荷物を持っていくのかと思ったら、それだったのね」
 いざという時に邪魔じゃないのか?と疑問に思っていたドレスが言う。
「ンーッ、ヤッ!!」
 ケルピーは身体をぶるぶるっと震わせ、馬勒を落としてしまった。
「こういうものは、お嫌いですの?」
「うん、いやだネ。誰かに飼われてるみたいでヤダ」
「まったく、わがままなやつですねっ」
「ただ祓い退治するのではなく、わだかまりを払い除け、共存出来れば素晴らしいと思いませんか?」
「でも、飼われるのはヤ…」
「誰かに縛られているのは、好まない…ということですか。でも、襲ったり祓ったりする関係よりも、人々と共存したほうが…私はよいと思うのですけど」
「何か…美味しいものがあれば、考えるヨ…」
 食べることくらいか楽しみがなく、食事に関してはとことん拘りたいらしい。
「森の小さな生き物も…口に合わないということでしたね?村に戻って考えてみましょう…」
 料理好きな人に相談してみようと考える。
「それなら、弥十郎さんが何か考えてるかもしれんな」
「―…あの方ですか…?」
「どこでも出張していく人やね。きっと今回も“食”の課題に対して、考えがあるはずや」
「なるほですね…。えっと、こちらで食べ物を用意しますから。ひとまず、人を襲うのをやめていただけませんか?」
「美味しいものくれたら考えるヨ」
 反省したかしていないのか、曖昧な態度で走り去ってしまった。



 ラルクたちが川辺に戻ると、フレデリカたちも村でいなくなった人々を連れて戻っていた。
 合流した彼らは救出した人々を連れ、ケルツェドルフ村へ向かう。
「―…なんていうか、たいした怪我人がいなくてよかったな」
「無茶苦茶に暴れられそうな感じはありましたな」
「まーあれだな。いきなり無闇に痛めつけねぇほうがいいってことだ」
 極度の空腹感がどれだけのものか、なんとなく分かる。
 “食べることしか生きがいがない”となると、ある程度は口が贅沢になってしまったのは仕方ないのだろう。
 倒す勢いで挑みかかったら反発され、背に乗せていた者をぺったんこにする勢いで、暴れたかもしれない。
 不必要な恐怖感を与えないように、努めたことがよい結果を出したようだ。
 それでも人々の“攫われた”という事実の恐怖感はナシに出来ない。
「皆さん…まだ怖がっているみたいですね。カメリアさん、彼らの心に安らぎを…」
「畏怖を和らげる香りでいいのね」
 カメリアはそう言うと手の平に、ピンクの花を生み出してふぅ…と花びらを散らす。
 花の香りを撒き、攫われていた者たちの心に安らぎを与えた。