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リアクション
序章 「救世主」
〜領地内・平原〜
降りしきる雨の中、迫る刃を弾き、傭兵のような出で立ちをした男を斬り捨てる
青年……シエル・プラージュ。
「が……ぁ」
斬り捨てられた男は短く声を漏らし、その場に倒れ伏す。
「はぁ、はぁ……まだ、倒れるわけにはいかない……」
肩で息をし、そのシエルの体は度重なる追手との戦闘で既に満身創痍。
しかし、彼の瞳はまだ諦めることなく立ち塞がる敵を見据えていた。
「……威勢がいいな、シエル。だが、この数相手に一人でやるつもりか？」
目の前には5人の男達が立っている。皆、クリムの私兵団であり、その一人一人が一般の傭兵以上の
力と技量を持っていた。
長剣を構えた男が素早く踏み切り、シエルに接近する。シエルが対応するよりも早く懐に入った男は、
シエルの剣を弾き飛ばした。剣は空中で回転し、少し離れた位置に突き刺さった。
男は膝をシエルに打ち込むと、頭を掴んでその場に引き倒す。
「ぐあッ！！」
「さて、俺らには満身創痍のお前とお嬢様を殺す事なんぞ簡単すぎる……実につまらない」
男が合図をすると、リールが連れてこられた。
「いやっ！ 離してよッ！！」
「シエル……つまらないなら、面白くすればいい、そうは思わないか？」
にやりと笑った男はリールに近づいていく。
その視線は、雨で肌に張り付いたリールの服に向けられた。
男は力任せにリールを仰向けに倒すと、その上に馬乗りになる。
「お前ら、押さえておけ。殴られては敵わんからな」
両腕を押さえられたリールの身体を弄りながら、男は舌なめずりをする。
「殺しちまうなら、楽しんでおかないとなぁ……」
「いやああ、触らないでッ！ や、あぅッ……ッ！！」
「リールッッ！！ くそ、離れろッ！！」
「うるせえな、少し黙ってろよ」
力任せにシエルの腹を踏みつける男。
「がふッ！！」
意識とは反対に閉じていく視界のなかで、リールの衣服が剥がれていく。
「嫌ァァアァァッ！ やだぁあああッ！！ あぐッ、うう……」
「いいねぇ、そうやって叫ばれると興奮してくる……」
自らの無力さを感じながら、シエルの意識は闇に落ちていこうとしていた。
「……こんな、くそ……」
風のような、ひゅっという音がしたかと思うと、リールを襲っていた男達がその場にくずおれる。
「こっちに注目してなかったから、あっさり倒れたね」
「ん？ 怪我人がいるか。我が受け持とう」
アルテミスボウを構え、宮殿用飛行翼で空中に滞空しているのは清泉 北都（いずみ・ほくと）。
彼は禁猟区を使用し、他の追手が接近していないか周囲を警戒している。
小型飛空艇オイレから降り立ち、モーベット・ヴァイナス（もーべっと・う゛ぁいなす）はシエルに駆け寄り手をかざす。
「じっとしていろ、今回復してやろう」
柔らかな光に包まれ、シエルの傷は癒えていく。
リールに予備の服を貸し与え、リールの祖父であるイスベルグに依頼されたと伝え、
二人を小型飛空艇オイレに乗せる北都達。
「……ありがとうございます、あのままではリールは……」
「ひっく……うう……」
シエルに抱きしめられたリールは、涙を流し肩を震わせ泣いている。
顔をシエルの胸に埋め、その表情を窺う事は出来なかった。
悔しそうに俯くシエルの手を取り、北都が語りかける。
「あそこまで彼女を守ったのは君だよ？ 君がいなかったらとっくの昔に彼女は捕まってる、
だからそんなに俯いちゃだめだよ？」
「……はい」
モーベットは操縦しながら北都達に声をかける。
「後方から、飛空艇が接近しているぞ。我が対処するゆえ、誰か操縦の交代を頼む」
「わかりました、なら僕が操縦します！」
リールに言い聞かせ、頷いたのを確認してから身体を離す。
シエルはモーベットから操縦桿を受け取ると、小型飛空艇の操縦に専念する。
モーベットは後方へと向かった。北都は先に飛び立ち、向かったようだった。
小型飛空艇の後方では、バイクのような形をした小型飛空艇に乗ったセレアナ・ミアキス（せれあな・みあきす）と
黒い飛空艇に乗った数人の男が交戦している。
さらに地上を小型飛空艇と並走するように軍用バイクで走るセレンフィリティ・シャーレット（せれんふぃりてぃ・しゃーれっと）が
黒い飛空艇に対し、【シュヴァルツ】【ヴァイス】による射撃を行っている。
「くそっ！ なんだ、この水着の女共はッ！ えらく手こずらせやがる！」
大剣を振り下ろす男だが、セレアナのフロンティアソードで軽くいなされ、直後の反撃が男の顔を掠める。
「好きで着てるわけじゃないんだけど……」
ぼそりと文句を言いつつも、攻撃の手を休めないセレアナ。
正確なその攻撃によって、男達の傷は徐々に増えていく。致命傷とまではいかないまでも、そのまま続ければ
いずれやられるのは明白であった。
「ビキニの方は放っておけ、どうせ地上から空中にはこれん！ レオタードに攻撃を集中しろ！」
「だから、その呼び方は……好きじゃないッ！」
大剣を持った男の隙を狙って、セレアナはフロンティアソードを振り抜いた。
腕は両断され、バランスを崩した男は地上に落下し叩きつけられ、絶命する。
次の男が攻撃体勢に入るよりも早く、光術を発動。男達の視界を奪う。
視界を奪われた男達は一瞬パニックに陥るが、すぐに冷静さを取り戻した。
しかし、その一瞬の隙をセレンは見逃さなかった。
バイクから高く跳躍すると、黒い飛空艇の側面の突起物を足がかりにさらに高く飛ぶ。
「空中に来れないって？ ずいぶんと甘く見られたものねッ！」
【シュヴァルツ】【ヴァイス】をすかさず構え、クロスファイアを空中から浴びせる。
「ぐわァァアァァッ！」
予期せぬ上空からの攻撃に男達は次々倒れていく。
セレンは高度の下がる間に、飛空艇のエンジン部分に狙いをつけ、スナイプする。
発射された銃弾はエンジンの脆弱な部分を撃ち貫いた。
エンジンは見る間に火を噴き、黒い煙を上げる。
飛空艇は徐々に高度を下げていく。
セレンは走り続けていた軍用バイクに着地する。
「ふう、工夫次第で空中戦なんてどうにかなるものよ」
火に包まれ始めた飛空艇の中で倒れている男がもぞもぞと動く。
「ふふふ……もしもの備えは、用意して……おいて正解……だ」
一人の男がふらりと立ち上がり、呟く。
「来たれ、魔獣よ……我が血肉を生贄に！！」
男は紫の光に包まれ、断末魔の声を上げると、光の中から背中に翼の生えた人型の魔物が出現する。
「グアアアアアアアアアアッ！！！！」
魔物は飛び去り、前方の小型飛空艇オイレに向かう。
「いけない！ あんなものに攻撃されたらひとたまりもないわ！ 急ぐわよ！」
「ええ、小型飛空艇をやらせるわけにはいかないッ！」
セレンとセレアナは速度を上げ、魔物を追いかけていった。
北都とモーベットの目の前に、背中に翼の生えた人型の魔物が接近してくる。
北都はアルテミスボウを構え、数発放つ。
矢を受けるが、魔物は速度を緩める気はないようでそのまま突進してきた。
「うわっ！ 痛覚がないのかな……だったら、攻撃しても効果は薄そうだよね」
ひらりと突進を躱す北都は冷静に相手を見ている。
その後、数発矢を撃ち込んだものの、怯む様子すらなかった。
「ならば、我に任せろ。奴を千眼睨みで石に変えてくれる！！」
「わかった、モーちゃんに任せるよ」
誘う様に魔物の目の前に出た北都は一直線にモーベットの方へ飛ぶ。
魔物は北都を追って、後方から接近してくる。
「……もーちゃんッ！」
北都はモーベットの目前で急上昇。モーベットの視界から外れる。
「その身を蝕む石の恐怖に怯えるがいい！」
モーベットは千眼睨みを発動。全身に浮き出た眼が魔物を睨み付ける。
魔物の身体は徐々に石になっていき、伸ばした腕がモーベットに到達する前に
完全な石の彫刻と化した。
重力に引っ張られ、石の彫刻は地上に落下、粉々に砕け散った。
「魔物風情が我に触れられると思うな……」
セレンとセレアナが追い付き、北都は禁猟区を発動しての警戒。
セレンとセレアナは小型飛空艇オイレの護衛、モーベットは再びシエルから操縦を代わる。
シエルとリールを乗せた小型飛空艇オイレは、領地の境界線を目指して進行していった。
〜領地内・平原〜
平原を走る数人の男。
「さて、先発隊がこの先でシエル達を足止めしているはずだが……ん？」
男達の目の前に、数人の影が立ちはだかるように展開している。
「……奴らは先発隊ではないッ！ 戦闘態勢！！」
男が号令をかけると同時に、空中から光の刃が男達を襲う。
一人の男が逃げ遅れ、その体をズタズタに引き裂かれた。
「ぎゃあああッ！！」
「ふむ、一人しかかからなかったとは実に残念じゃな。もっと盛大に斬り刻んでやりたかったものを……」
銀色の髪の少女草薙 羽純（くさなぎ・はすみ）が、ぶっそうなことを呟く。
草薙の言葉を耳で聞きながら、その横をすり抜け夜刀神 甚五郎（やとがみ・じんごろう）は号令を出した男に接近する。
甚五郎の百獣の剣と男の長剣がぶつかり合い、高い金属音を響かせる。
「……残念ながらここから先は通さん、お引き取りを願うが？」
「悪いな、通れないなら腕ずくで行かせてもらうッ！！」
男は甚五郎を力任せに押し、体勢が崩れた所に突きを数発繰り出した。
素早く甚五郎は体勢を整えると、身体を突きの軌道から僅かに逸らし自らも鋭い突きを放つ。
男の突きは甚五郎の身体を掠めるに留まったが、甚五郎の突きは男の肩を貫いていた。
男は片膝をつき、そのまま地面に倒れ伏す。
「ぐ……お」
「……命まで奪うつもりはない、聞きたいことが山ほどあるのでな」
男にそう言い捨てると、甚五郎は背後から接近していた男に裏拳を撃ち込み、昏倒させる。
「背後からこっそり攻撃とは……ずいぶんと恥ずかしい奴だ。男なら正々堂々、
真正面からぶつかるべきだ」
甚五郎は腕を組み、倒れた男に説教するかのように言った。もちろん男は昏倒している為、
聞こえていないわけだが。
草薙はその光景を見て溜め息ひとつ。
「はぁ……相手が聞こえていないことなぞおかまいなしか。さすがだの」
少し離れた位置でホリイ・パワーズ（ほりい・ぱわーず）が二人の男と交戦している。
長身の男が投擲したダガーを氷の盾で弾くと、ホリイは流体金属槍で攻撃を加える。
攻撃を避けきれず、長身の男は身体を貫かれその場に倒れ込んだ。
「は〜い、ここからは通行止めですよ〜」
「くそ、ふざけやがって！！」
籠手を装備した男がホリイに接近し、殴りかかる。
ホリイは氷の盾で攻撃を防いでいるものの、距離を詰められうまく攻撃できない。
「わっわっ……そんなに近づかないでください〜」
籠手を装備した男に急接近したブリジット・コイル（ぶりじっと・こいる）がその体ごとぶつかり、
男を大きく弾き飛ばす。
飛行ユニット２型【小型飛空艇オイレ】で空中に跳び上がったブリジットは、
六連ミサイルポッドを構え、一斉に吹き飛んでいく男に発射する。
次々と発射されたミサイルは一瞬にして男を炎で包み込んだ。
「ぎゃああああああああああああ！！」
「この雨です。致命傷になる前に炎は消えるでしょう。ホリイ大丈夫ですか？」
「はい〜だいしょうぶです。助かりました〜」
その後、甚五郎達は次々にやってくる追手の男達を倒していったが、誰に聞いても
一切有力な情報を得ることはできなかった。
