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リアクション
薬草の研究
「ふむ……日照時間、土壌、湿度、気温に問題はないようだね」
前回自ら調べた薬草の研究資料と、渡された村で栽培中の薬草の観察記録を見比べエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はそう結論づける。
村で始まった薬草の栽培計画。その計画がうまくいっていないと言う話を聞きエースは薬草たちのためこうして力を貸していた。
「土壌は森の薬草が生えていたところの流用だから及第点。湿度気温、日照時間は森の中で生えていた薬草達の環境を考えれば誤差の範囲だろう」
森の薬草が元気に育っていた場所、そのそれぞれの日照時間の最大最小、平均の湿度気温の最高最低。村で薬草を栽培している場所はその範囲内で全て収まっている。
「リリア、君の方はどうだい?」
エースは人の心、草の心を使いくたびれた様子の薬草達に話しかけているリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)にそう聞く。
「……ダメね。何かに苦しめられているのは分かるのだけど、その何かが薬草たちには分からないみたい」
人の心、草の心は植物たちと会話することの出来るスキルだが、当然ながら植物たちが知らないことは知ることが出来ない。
「ということは、森にはなかったがここにはあるものに苦しめられているということだね」
「森になくて村にあるもの……逆ならたくさん思いつくのだけれど」
花妖精であるリリアにしてみれば森と比べると村の中というのはいろいろと物足りなく感じる部分がある。
「一つだけあるよ。森にはなくて村にはある分かりやすい条件が」
「分かりやすい……? あ……」
エースの言わんとしたことが分かったのかリリアは合点の言った表情をする。
「念のためもう一度森の中に確認しに行こうか」
そう爽やかに言ってエースはリリアを連れて森に再調査に向かった。
「次で最後でございますね」
空飛ぶ箒ファルケに乗りユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)とイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)の二人を先導していたアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)はそう伝える。三人は森の中を空飛ぶ箒ファルケや、水雷龍ハイドロルクスブレードドラゴンに乗って飛行して移動していたが、それが不自由なく平野と同じように移動できたのは彼女のスキル妖精の領土によるものだろう。
「二人とも気を引き締めるのだぞ。ここまでなんとかゴブリンやコボルト達との戦いを避ける事ができた。最後まで戦いたくはないのだよ」
ユーリカ、イグナ、アルティアの三人は契約者である非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)の手伝いとして森の薬草が生えている場所を周り環境などを直に調べていた。既に大体の事は前回の調査で分かっているが、近遠曰く、肌で感じることを調べてきて欲しいとのこと。
「了解ですわ。イグナちゃん」
と、イグナの忠告にに自信満々に返すのはユーリカ。
「了解でございます。イグナさん」
地に足がついてない様子でそう返すのはアルティアだ。
「……本当に頼むのだよ」
二人を信用していないわけではないのにこんなに不安になるのはどうしてだろうとイグナは思う。志を同じくしているのは疑いようのない事実であるし、返ってきた言葉に嘘は欠片も感じられないというのに。
「つきましたわね。……ここは細い地脈しか通ってないようですわね」
ゴブリンたちが襲ってこないような範囲で薬草が生えている所に近づき、ユーリカはそう言う。
「地脈……我にはよく分からぬのだが、そういうのは分かるものであるのか?」
「これでもあたしは魔女ですわ。そういったものを利用する術もありますの」
「ふむ……それで地脈と薬草は関係あるのであるか?」
「多分ありませんわね。調べたところの地脈の大きさは全てバラバラでしたわ」
「貴公はなにか気づいたことは?」
ぷかぷかと浮いて薬草を眺めているアルティアにイグナはそう聞く。
「ここにはないのでございます」
イグナはアルティアの言い方に少し引っかかりを覚えるが、それ以上アルティアが言葉を続ける様子もないため、そこで一旦区切りをつけることにする。
「では、戻ることするのだよ。――っ!?」
一瞬森の奥から殺気を感じてイグナはすぐに戦闘態勢を取る。だが、すぐにその気配は遠ざかっていくのが分かった。
(……今のはモンスターではないであろう。人……しかし一体何者なのだろう)
自分たち冒険者以外の人……それも悪意ある存在をイグナは感じていた。
「イグナちゃん? どうしたんですの?」
「いや……今は早くここから離れるのだよ。一度体勢を整えてからのほうがいいであろう」
そうイグナは締めて三人は近遠の元に向かった。
「そろそろ皆が帰ってくる頃ですね」
と近遠はつぶやき自らの前にある花壇を見つめる。今回の薬草の植え替え作業、その移植先がこの花壇だった。石で囲まれた場所に薬草が生えていたところの土が敷き詰められている。そこには数本の薬草が植えられているが、皆一様に元気がなかった。植え替え直後の影響だけというわけではないだろう。
「ボクの考えが正しいのであれば……」
薬草の植え替え先としてここの情報をもらった時から懸念していたことが近遠にはあった。それはここがこの森の中で唯一丘になっているということだ。丘には森の中では本来無いある現象が起きる。それを感じながら近遠はユーリカ達が帰ってくるのを待っていた。
「ただいまですわ」
という言葉とともにユーリカが近遠のもとにくる。イグナやアルティアも続いて近遠の傍に寄ってきた。
「おかえりなさい。三人とも。どうでしたか? なにか気づいたことはありましたか?」
「地脈は多分関係ありませんわ」
近遠の質問にユーリカはそう返す。イグナも首を振り分かったことはないと告げる。
「アルティアさんはなにか分かりましたか?」
「ここには少しですがあるのでございます」
アルティアの返事にユーリカもイグナも首をかしげるが近遠は予想していた答えなのか頷く。
「他に原因は考えられませんし、それで間違いないようですね。でしたら対処は簡単です」
そう言って近縁は対処に取り掛かろうとする。
「近遠ちゃん? アルティアちゃん? 何を言ってるんですの?」
「ああ、ユーリカさんごめんなさい。薬草達を苦しめている原因が分かったんですよ。それは――」
「――横からの風……だね」
近遠の言葉にそう続けるのはエースだった。いつの間にきたのかリリアの姿もある。
「エースさんも同じ意見なんですね。これで安心できます」
「他の条件に関しては前回の調査でこの薬草は適応能力があると分かっていたからね。横からの風に対する適応能力だけが調べることが出来なかった」
そう言うエースの表情にも安堵の色が見れる。ほとんど分かっていたことではあるが、こうして自分で確認し他の人の意見も聞くことができて自信が持てたのだろう。植物のことに関しては、もしもという事をエースは許せない。
「風に弱い植物……基本的なことなのにうっかりしていたわ。花妖精なのに恥ずかしい」
「君は白百合の花妖精だからね。百合は風に揺れることを名前の起源に持つ。少しくらいの風を嫌う花ではないからね」
花妖精として思うところがあったのか少し落ち込んでいる様子のリリアをエースはそう励ます。
「まぁ、落ち込んでいる暇はないよ。早く薬草達の苦しみを止めてあげないとね。……ここは君たちに任せていいかな?」
「はい。貴重な意見ありがございました」
そう言葉をかわし、エースたちと近遠達は自らの仕事に取り掛かっていった。
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